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ボクの章 第十一節 ついに念願のクラスチェンジを果たしました(泣)

 ジュージュー。

 皆さんこんにちは。信守蒼です。

 ザッザッ。

 異世界オリジンに来て、早三日。そんなボクはつい先日、ついにこの異世界で念願のクラスチェンジを果たしました。

 ジュージュー。

 いや~、クラスチェンジと言ったら、やっぱりRPGの定番ですよね~。

 シャー。

 やっぱりこういうのがあってこその異世界ファンタジーですよね~。

 ザッザッ。

 それではここで、皆さんにボクのクラスをご紹介したいと思います。

 ジュージュー。

 信守蒼。十五歳。クラス…………炊事係。

「アッハッハッ!」

 ボクが必死になってフライパンを振っている横で、誰かが大爆笑している。

「いや~、ソウ君。随分とそのフリル付きエプロンが様になってるじゃないか」

 イータだ。口の悪いボクの友達(の剣)。

「……うるさいな。ほっといてよ」

 炒めた肉と野菜を大皿に流し込みながら、ボクは言った。

 ちなみに、このクラスにチェンジするまでの経緯はこんな感じ。




(コンコン。

 オリジンに来た初日の疲れで、気持ちよく眠っていたところに、突然のノック音。

 誰だよ~と思いながらも、睡魔の誘惑に勝てず、居留守を実行。

 コンコン……コンコン……バダーーーーン!

 何度か行われたノックの後、最後に響いたのは、凄まじい勢いでドアが蹴破られる音だった。

 慌てて飛び起きるボク。

 恐怖に震えていると、そこにやってきたのはレウちゃんだった。

「あら? いるじゃない。いるんならさっさと出なさいよ」

 と、自分んちのドアを蹴破っといてケロリと言う。

「すいません……疲れてたもんで寝てました」

 と、ボクは正直に言う。

「ふ~ん、まあいいわ。ところで、アンタに一つ聞きたいことがあんのよ」

「な、何でしょう?」

「アンタさ、何もしない居候ってどう思う?」

「へっ?」

「だからさ、一か月近くも人んちに世話になるってのに、何もせずただ居座る奴についてどう思う?」

「……そうですね。ひどいと思います」

「そうよね。そういう恩も義理も感じない奴は、死ぬべきだと思うわよね?」

「いや、そこまではさすがに……」

「お、も、う、わ、よ、ね?」

「……はい」

 レウちゃんのあまりの迫力に、思わず頷くボク。

「よかったわ。一応アンタにも最低限の礼儀という物はあるみたいで」

「はあ……」

「で、アンタは何をするの?」

「はっ?」

「『はっ?』じゃね~わよ。アンタもさっき言ったじゃない。一か月近くも世話になるのに、何もしない奴は死んだ方がいいって」

「いえ、そこまでは言ってませんけど……」

「で、ここに一か月近く世話になるアンタは何をするの?」

 ……ああ、なるほど。さっきのはボクに向けて言ってたわけね。

「えと……何をすればいいんでしょう?」

「はあ? アタシに聞いてんじゃね~わよ。人に答えを求めるな」

 うわっ! どっかで聞いたセリフだ。

「と言われましても、何を求められてるのかにもよると思うし……」

「……ま、確かにそうね。アンタ、戦闘はできるの?」

「いえ、戦闘はちょっと……」

「武器はなんか扱える? 剣とか槍とか。斧でもいいけど」

「いえ、そういうのは使ったことありません」

「……魔法や術は?」

「……それもちょっと。そういうのとは無縁の世界から来たもんで」

 ていうか、魔法とか術ってワードを聞くと、ここが異世界だって実感するな。

「……アンタさ」

「はい……」

「役立たずね」

 グサッ!

 痛い! 淡々とした言い回しに、めっちゃ刺々しさを感じる!

「……ハア。まあいいわ。どうせ戦闘させる気はなかったし。アンタに死なれでもしたら、スウに嫌われちゃうもん」

 だったら聞かないでよ。

「てことは……アンタにできそうなことは……雑用くらいかしらね」

「あの、一応料理とかはできますけど……」

「‼」

 ボクの言葉を聞いたレウちゃんが、食い入るような視線を向けてくる。

「え? マジで?」

「マジで」

「ちゃんと食べられる物作れんの?」

「……食べれない物作っても料理とは言いませんよ……」

「ほほう。言うじゃない。なら、その腕見せてもらおうかしら」


 ということで、レウちゃんに案内されて厨房へ到着。

 入った瞬間、ボクはその厨房の豪華さに圧倒された。

 フライパン、鍋、包丁など見慣れた調理器具の数々。

 おまけに、圧力鍋や最新の調理器具も揃っている。

 まるで、一流レストランの厨房みたいだ(入ったことはないけど)。

「どうよ? ウチの自慢の厨房は?」

「……す、凄いです」

 さらりと並べられた圧力鍋が、異世界の雰囲気ブッ壊してるけど。

「さあ、ここにある者を自由に使って、何でもいいから作ってみなさい。腕が良ければ、役立たずから炊事係に格上げしてあげるわ」

「はあ……」

 まあいいや、とりあえず、何か一品作ってみるか。

 とりあえず、近くにあった調味料を味見して、何があるか確かめる。

 塩がある。砂糖もだ。

 酒もあるし、油もある。

 おっ‼ これ醤油だ!

 ボクのいつも使ってる醤油とは微妙に味が違うけど、一応醤油も発見。

「あの~、食材は……」

「ああ、それはこっち」

 と言って、レウちゃんが厨房の奥にある小部屋を開けた。

 するとそこには、肉(何の肉かは分からないけど)や野菜、果物なんかが大量に保存されている。

「あの、ここは……?」

「食料の保管庫よ」

「保管庫……」

「そっ。アンタの世界のレイゾウコってのも悪くないけど、こっちの方が鮮度が保てるの」

「な、なるほど……」

「仕組みを知りたい?」

「いえ、聞いても理解できないと思うからいいです」

「賢明ね。じゃあ、とりあえずここにあるの自由に使っていいから、何か作ってみて。腕が良ければ、役立たずから炊事係に格上げしてあげるわ」

「はあ……」

 ということで、何か作ることになった。

 と言っても、すぐに完成する。

「どうぞ……」

 完成した料理をレウちゃんの前に運ぶ。

「どれどれ……」

 レウちゃんは、出された料理をしばらく見つめた後、恐る恐ると言った感じで口へと運んだ。

「!」

 料理を口に入れたレウちゃんが、大きく目を見開く。

「何よこれ⁉」

「えっ? マズかったですか?」

「違う違う! 逆よ! 超おいしいじゃない!」

 その言葉を聞いて、ボクはホッと胸を撫で下ろす。

 ボクが作ったのは、肉と野菜を醤油(っぽい物)で炒めた、肉野菜炒め。

 時間があればもっと凝った物も作れるけど、あまり時間をかけるのもマズいと思い、これをチョイスした。

 ボクが料理できる理由は簡単。自炊した方が食費が安いから。

「ちょっとアンタ! ひょっとして、向こうの世界じゃ名のあるシェフだったんじゃないの?」

「違いますよ! ただの学生です! これくらいで大げさな……」

「ふ~ん。まあいいわ。とりあえず、アンタは炊事係決定ね。あ、もちろん他の雑用もすんのよ」

「……りょ、了解です」

「それじゃ、よろしく~」

 上機嫌で料理の残りを頬張るレウちゃん。

 ただの肉野菜炒めでこんなに喜ぶなんて、今までどんな物食べてたんだろう……

 ていうか、これだけ立派な厨房があるのに、何で料理する人がいないんだろう?

「あの~、レウちゃん、一つ聞いてもいいかな」

 とボクが声をかけた瞬間、かきこむようにして料理を頬張っていたレウちゃんが、その手をピタリと止める。

「レウ……『ちゃん』?」

 ボクの言葉を聞いたレウちゃんが、いきなり黙り込んで……

 そしていきなりボクのお腹を蹴った。

「うぐっ!」

 あまりの衝撃に、ボクは思わずうずくまる。

 蹴った拍子に舞い上がった、レウちゃんのスカートから覗くピンクの布を見ても、興奮する余裕がまるでないほどに痛い。

「誰がレウちゃんですって?」

 うずくまるボクの髪を鷲掴みにしてレウちゃんが言う。

「えっ? だって君、レウちゃんだよね……?」

「そうよ。アタシはレウ。レウ=ゼウス=ケラチノス。名前は合ってるけど、ちゃん付けはないでしょ。一応アタシは、今のオリジンじゃ一番偉いんだから。アンタにちゃん付けされる覚えはないわ」

 と言って、今度はボクの耳を引っ張る。

「痛い痛い痛い!」

「……レウよ。少しやりすぎではないか?」

 と、レウちゃんの胸元に引っ付いている宝石、ゼウスさんが言った。

「ゼウスはちょっと黙ってて。今、この平民に口の利き方を教えてるとこなんだから」

「へ、平民って……あの、じゃあ何てお呼びすれば……」

「アタシのことはレウ様、もしくはケラチノス様、もしくは女王様と呼びなさい。いいわね?」

「ひゃ、ひゃい!」

 あまりの剣幕に、ボクは噛みながらそう答える。

「あ、あの、ひょっとしてボク、嫌われてます?」

「そ~んなことないわよ~。ただちょっと、スウがアンタにご執心なのが気に入らなかったり、スウのアタシへの好感度がアンタのせいで下がったかもしれないことを恨んだりなんてこれっっっっっぽっちも気にしてないわ。ウフフフフ」

 な、なるほど。そういうことか……

「とりあえず、アンタはこれから、向こうの世界に帰るまでの間、毎日おいしい料理を作りなさい。ここに置いてあげるんだから。分かったわね?」

「りょ、了解です、女王様……けど、一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

「……何よ?」

「あの、こんなに立派な厨房があるのに、他に料理をする人いないんですか?」

「…………」

 レウちゃんは、しばらく黙り込んだ後、再びボクに蹴りを入れる。

「ぐふっ! な、何で……?」

「アンタには関係のないことよ。アンタは黙って料理を作ってればいいの」

 と言って、レウちゃんは厨房を出て行った。

 ボクの作った肉野菜炒めの皿を持って。)




 ということで、長めの回想終了。

「しかし、よくあのゼウスやツクヨミが、僕がここにいることを許可したね」

「……頼んだんだよ。ここにずっと一人でいると気が滅入るから、話し相手がほしいって」

「なるほど。それで僕に白羽の矢が立ったわけだ。いや~、嬉しいな~。友達冥利につきるね」

「その友達は、今盛大にボクをからかってくれてるわけだけど」

「親愛の現れじゃない。気にしない気にしない」

「ハア。まあいいけどさ」

「しかし、君がそんなに料理上手だとは知らなかった。君はきっといいお嫁さんになれるよ」

「誰がお嫁さんだよ! それに料理は別に得意ってわけじゃない。自炊した方が生活費が浮いて、その分ゲームとかに使えるから、ネットとかで適当に調べて身につけただけさ」

 それでも最近はめんどくさくなって、カップ麺とかで済ませてるけど。

「それにしては随分と見事な包丁捌きじゃないか」

「うっ!」

 確かにイータの言う通り、この世界のキャベツっぽい野菜を刻むボクの包丁捌きは、我ながら中々の物だと思う。

 実は一時期、料理が楽しくてハマっちゃったんだよな~。

 今はネットで調べれば大抵の物は作れるし、材料だってスーパーに行けばある程度の物は揃うし。

「しかし驚いたよ。この世界にも醤油があるなんてさ」

 そう、この世界にも醤油があるのだ。他にも砂糖や塩、コショウなどなど。

 正直、超助かる。味噌がないのは残念だけど。

「ああ、それは厳密に言うと、君の世界にある醤油とは違うよ。君がさっき言ってた塩や砂糖ってやつも、厳密に言えば君の世界の物と全く同じじゃない。色と味が似てるだけ。原料や製法がまるで違う。君の世界の醤油は大豆って豆から作るんだろ? けど、それの材料は大豆じゃない」

「ふ~ん。まあ、いいよ。味が似てるなら」

 と言って、ボクは食料の保管庫から何らかの肉(味は牛っぽい)を取り出し、薄切りにして軽く焼いた後、先ほど焼き上げたばかりのパンに、刻んだキャベツっぽい野菜やチーズっぽい物と一緒に挟み込む。よし。

 しかし五十人分は中々きついよな。それも日に四回作るってかなりの重労働だ。

 ここに来て早三日。その間ボクは、ずっとこの厨房で料理や他の雑用をやっている。

 ちなみにこの城で生活するにあたり、ボクはいくつか行動を制限されていた。

 一つ、許可されたところ以外立ち入らない。

 二つ、外に出てはいけない。

 三つ、スウちゃんと必要以上にベタベタしない。

 最後のは女王様の個人的な制限だと思うけど、何で外に出ちゃダメなんだろ?

 部外者が見ちゃいけないところはもちろんあるだろうから、許可されたところ以外立ち入るなっていうのは分かるけど。

「しっかし、ほんとにあった異世界は、ボクの想像とは全然違うな~」

「そりゃそうだよ。だって、君の想像してた異世界は、どうせラノベやアニメに出てくる異世界のことだろ?」

「うっ! ま、まあそうなんだけど……」

「あんなの、その作品を作った者の想像上の世界なんだから、現実と違うのは当たり前じゃないか」

「ううっ……そ、そうなんだけどさぁ、なんていうか、青少年のロマンっていうかさぁ……」

「はいはい。面白い面白い」

「ちょっとイータ、ボクの扱いひどくない?」

「ひどくないひどくない。夢見がちなソウ君に、現実の厳しさを教えてあげてるだけだよ」

「う~。あっ! そういえばさ、スウちゃんや女王様の名前ってすごいよね。あの胸に付いてる宝石さんの名前とかさ」

「? 誰だい、女王様って?」

「レウ様のことだよ」

「……………………ソウ君、君ってひょっとしてM属性とかあるの?」

「はっ? いや、ないけど」

「でも、奴のことを女王様って呼んでるじゃないか」

「だって、そう呼ばないと蹴られるんだもん」

「け、蹴られて喜ぶなんて……ソウ君、君はやっぱり……いや、いいんだ。大丈夫。君にどんな性癖があったって、僕達は友達だよ」

「別に喜んでないし! それに何だよ、性癖って!」

「いや~、君達人間には、イジメられて喜ぶ類の者がいるそうじゃないか。だからてっきり、ソウ君もそっち方面なのかと」

「失礼な想像しないでよ! ……で、話を戻すけど」

「話を逸らすの間違いじゃ……」

「いいから聞く! あの子達の名前ってさ、ほら、ゼウスとかツクヨミとかってさ、あれってボクの世界にまつわる神話の中の神様の名前なんだよね。まあ、ゼウスとツクヨミは別々の国の神話なんだけど。それをまさかこんなところで聞くなんて思わなかった」

「…………」

「いや~、なんていうかさ、やっぱりほんとの異世界って不思議がいっぱいだな~」

「……そうでもないよ」

「えっ?」

「ソウ君、君は向こうの世界からオリジンに来た人間だから、それらの名前を向こうの世界が起源だと思うのも無理はない。けど、実は逆の可能性もあるって話さ」

「? どゆこと?」

「つまり……いや、やっぱりよそう。こんな話、面白くないし」

「え~~! 何だよ! そこまで言われたら余計気になるじゃん!」

「いや~、ゴメンゴメン。それじゃあ、お詫びにもっと面白い話を教えるよ」

「ウソッ⁉ マジで?」

「マジマジ。多分、君が聞いたら卒倒しちゃうくらい面白い話」

「うわ~、聞きたい聞きたい! ちょっと待ってて。すぐに料理仕上げちゃうから」

 と言って、ボクは猛スピードで五十人分の料理を仕上げる。

「よし、これで完了っと。さあイータ、始めて始めて」

「フフフ、では教えてしんぜよう。ソウ君、君は今、異世界にいるよね?」

「うんうん」

「この異世界は、言うまでもなく君にとっては現実の異世界だ。故に、常識的に考えたら、君はこちらの世界の者達と意思疎通ができないはずだ。君の使っている言語が、ご都合主義でこちらの世界の者に通じるはずもない」

「うん。それは分かる」

 スウちゃんの言ってることとか、最初は全く分からなかったし。

「けど君は、今はこの世界の者達と普通に会話している。何でだと思う?」

「それは……スウちゃんのくれたアメを食べたから?」

「正解。話っていうのは、君が今アメと言った物のことさ」

「あっ! それはボクも気になってた。あれって何なの?」

「フフッ。あれはね、アメのような形をしてるけど、実はアメじゃない」

「じゃあ何? 団子?」

「違う。あれはウ〇コだ」

「…………」

 イータの言葉の意味が分からず、ボクは少し言葉を失った。

「えっ? ゴメン、イータ。良く聞こえなかった。あれは何だって?」

「だからね、あれはアメでも団子でもなく、ウ・〇・コなんだよ」

 またもイータの言ったことが理解できなかったボクは、とりあえずその場をウロチョロしたり、飛び回ったり、軽く反復横跳びしてみたりする。

 しばらくして、少し気分が落ち着いたところで、軽くブリッジしながらイータのところへ戻った。

「フ~。ゴメンゴメン。このところ料理のしすぎで疲れちゃっててさ~」

「りょ、料理のしすぎでブリッジはしないと思うんだけど……」

「ああ、いいからいいから。で、何だって?」

「いや、だからね。君がアメだと思って食べたのは、実はウ――」

「かああああああつっ!」

 そこでボクはいきなり叫ぶ。

「もういいよ! ウ〇コウ〇コ言わなくて! こっちが変になっちゃうよ!」

「だから言ったじゃない。卒倒するくらい面白い話だって」

「卒倒はするけど面白くはないよ! 言っていい冗談と悪い冗談があるよ!」

「いやいや、それが冗談じゃないんだって。あれはね、元々他の種族との意思疎通を目的として創られた物で、この世界に生息する、とても個体数の少ないある生物のウ〇コをまずはよく乾燥させて、それから――」

「もういいから! ほんといいから! ここ、厨房だよ! 分かる? そういうバッチィネタは禁止!」

「いや、ソウ君が聞きたいって言ったんじゃないか」

「そんな話だとは思わなかったんだよ!」

「でもあれは、中々手に入らない逸品らしいよ。ほら希少価値ってやつ。あれ一つで城が買えるらしいし。ほら、君の世界にも、猫のウ〇コから取り出したコーヒーってのがあるだろ? それと同じようなものさ。もっとも、あれは消化されずに残ったコーヒー豆ではなく、ダイレクトにウ〇コを乾燥させたものだから――」

「もういい!」

 耳を塞いでボクは叫ぶ。

 ウ〇コを食べたという現実が、ボクの肩に重くのしかかる。

 いや、決してスウちゃんを責めてるわけじゃないんだけど、それでもウ〇コはやっぱり……

 ハア。もう忘れよう。

 よし、もう忘れた。

 ていうか、違うこと考えよう。

 そうだ。それがいい。

 そう、この城は謎でいっぱいだ。

 こっちに来たばかリの頃は気付かなかったけど、この城、まず窓がない。

 いや、正確に言えばあるのだが、その全てが鉄板などで打ち付けられており、外が全く見えない。

 たくさんある出入り口も同じ。

 まるで立てこもっているかのように、堅く閉じられている。

 おかげでボクは、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。

 今してる腕時計で、一応生活リズムは保てているけど。

 ……戦争でもしてるのかな?

「ねえイータ。ここってさ、今戦争でもしてるの?」

「!」

 その言葉を聞いたイータが、先ほどまでとは打って変わり、息を呑むようにしてピタリと喋るのをやめた。

「……ど、どうしたんだい? 急に」

「いやだってさ、この城、人も妙に少ないしさ。ここって窓も出入り口もみんな閉じられてるじゃん。だから、どこか他の国と戦争でもしてるのかな~って」

「……そうかもね。僕にはちょっとよく分からないな。しばらくこっちの世界にいなかったからさ」

「ふ~ん」

 なんか、分からないっていうより、知ってるけど言いたくないって感じがするけど、まあ、聞いても多分教えてくれないんだろうな~。

 おっ! そういえば……

「そういえばさ、牢屋に閉じ込められた時さ、月明かりが漏れてたよね? あそこはまだ閉じられてなかった。今度一緒に見に行こうよ」

「そ、そういえば、あそこはまだ閉じられてなかったね」

「うんうん。だから見に行こ。せっかく異世界に来たんだから、少しくらい外も見てみたいし……」

「ど、どうもッス~」

 ミウちゃんの声だ。

 いつの間に来たのか、ミウちゃんが入口のところから顔を覗かせている。

 食事はいつも、ミウちゃんか女王様がここまで取りに来て、どこかに運んでいく。

 理由、ボクには五十人分の料理を、このとてもとても広い城のどこかに運ぶことなどできないから。

 ちなみにミウちゃんと女王様は超力持ち。

 五十人分のスープが入った寸胴鍋を軽々と持ち、他の物と一緒に鼻歌交じりで運んでいく。

 ちなみに、スウちゃん、ミウちゃん、女王様にはそれぞれお務めという物があり、それぞれ時間も異なるらしいから、三人一緒には滅多に見ない(見たのは初めて会った時くらい)。二人揃って見ることだって珍しい。

 ミウちゃんと女王様は、ここに食事を取りに来る時に必ず見かける。

 スウちゃんは、(ボクの時計の時間で言うと)日中はお務め、夜はフリーで寝る前とかにたまにやってくる。

「お疲れさま~。できてるよ~」

 と声をかけてみたものの、ミウちゃんはいつもみたいに中に入ってこない。

 ? どうしたんだろ?

 イータはちゃんと遠ざけてあるのに。

「ミウちゃん? どうしたの?」

「い、いや……えと……その……」

 いつものサバサバした感じのミウちゃんに比べて、妙に歯切れが悪い。

 どこか痛いのかな?

「ねえ、ミウちゃん。ひょっとして、どこか調子悪いの?」

「い、いえいえ、ウチは全然。ただ……」

「ただ?」

「その~……ソ、ソウ君、ちょっとだけこっちに来てもらっていいッスか?」

 とミウちゃんがボクを呼ぶ。

 ボクは首を傾げながら廊下に出る。

 廊下に出ると、ミウちゃんが厨房のドアを閉めた。

 広い廊下にボクとミウちゃんの二人きり。

 相手がミウちゃんだからドギマギしないけど、なんかちょっと微妙な空気。

「え~と、どうかしたの?」

 ボクがそう尋ねると、ミウちゃんは少し頬を赤らめ、そして……

 いきなり服を脱ぎ始めた。



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