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ボクの章 第一節

 あ~きはばら~に到着。フウ。やっと着いた。しかし、やっぱり暑いなぁ。

 七月の夏休み初日、額から流れ落ちる汗をハンカチで拭いながら、ボク、信守蒼のぶもり そうはため息を吐いた。

 今日は、待ちに待った新作ゲームの発売日。予約特典が欲しくて、アキバの店に予約したのを取りに来たのだ。

 けど、やっぱりアキバはいいなぁ。

結構距離があるから、そうホイホイ来れないけど、歩いてるだけでも癒されるよ~。ボク、まだ十五だから、エッチなゲームは買えないけど。

 うう、友達は、自分は老けて見えるとか言って、普通にエッチなゲームを買えるんだけど(もちろんほんとはダメ)、ボクは背がちっこい上に、よく女の子に間違えられるくらいの童顔だから、絶対何か言われるもん。ああ、早く十八歳になりたいなぁ。

 ……よし。せっかくアキバに来たのに、落ち込んでいても仕方ない。とりあえず、目当てのゲームを買って、それからアキバをゆっくり見てまわ……そこでボクは、ある店の店頭で乱雑に箱に入れられていた木刀の中に変な物が入っていることに気が付いた。

 何だこれ?

 ボクは、ちょっと気になって、それを手に取ってみる。

それは……剣だった。ゲームとかに出てくる普通の(?)剣。と言っても、一緒に入れられている木刀より一回り短い。長さはせいぜい小太刀といったところだ。でも、割りと綺麗な西洋風の鞘に収められていて、柄の中心に深い蒼色の宝石が埋め込まれている(まあ、偽物だろうけど)。

 ボクは、その剣(まだ抜いてないけど、中身はどうせ竹光)が、妙に気に……ならなかった。

 ボクが今、最も気になっているのは、ボクが買う予定の新作ゲームだけだ。よってボクは、あっさりとその剣を、元あった箱に放り投げ、目的の場所に……「待って」

「え!」

 声が……聞こえた気がした。ボクは思わず振り向く。が、そこには誰もいない。

今、この店の周りには誰もいないし、店員さんも店の中で作業中。

 空耳か。ボクは再び目的の場所に向かってあるき……「だから、待ってってば!」

 またも声が聞こえた。今度は空耳じゃない。ボクはまたも振り向く。

 が、やっぱりそこには誰もいない。

「…………」

 まさかとは思うけど……。ボクは、先ほど放り投げた剣を、再度手に取った。

「……え~と、ひょっとして、ボクに声をかけたのって君?」

 頭の中で「ボクはまとも、ボクはまとも。決して、この暑さでお脳がやられたわけでも、変な病気でもない」と、必死に自分に言い聞かせて、ボクは剣に呼びかける。

「そうだよ」

「ウソ!」

 あっさりと剣から返ってきた返事に、ボクは思わず声を上げた。ま、周りに人がいなくて助かった。

 ボクは、慌てて剣を詳しく調べてみるけど、仕掛けっぽい物はない。

「な、何で喋れるの?」

「剣が喋っちゃおかしいかい?」

「おかしいよ! 普通の剣は喋らないもん!」

「う~ん。まあ、そうかもね。でも、僕は喋れる。ただそれだけのことさ」

 そ、それだけのことって……

「ねえ、それよりさ。僕を買ってくれない?」

「ええ!」

 まさか、剣に売り込みされるとは。

「いや~、ここにいるのも飽きちゃってさ~。ほら僕、剣だから自分で動けないじゃない? だから、君に買ってもらって、どこか別の場所に行ってみたいなぁって」

「そ、そんなこと言われても……」

 ボクは一応値札を確認。

「九千八百円! たっか!」

 ゲーム買えなくなっちゃうじゃん!

「あれ? 僕って高いの?」

「うん。ボクにとってはね」

「ふ~ん。でも、買ってくれたらお礼はするよ」

「お礼?」

「うん。毎朝、朝寝坊しないように起こしてあげる」

「……スマホのアラームがあるから平気だよ」

「じゃあ、君の話相手になってあげる。ほら、君って友達いないでしょ?」

「友達くらいいるよ! 失礼な奴だな!」

 やっぱり買うのやめた。

「どうやら、君とは気が合いそうにないから、ボクは帰る。誰か他の人に買ってもらいなよ」

「ええ! 待って、お願い! そ、そうだ! 僕を買ってくれたら、良いところに連れていってあげるよ」

「良いところ?」

「うん」

「どこ?」

「異世界」

「は?」

 ボクの目が点になる。

「君を異世界に連れて行ってあげる」

「……君、頭大丈夫? そんなもの、あるわけないじゃん」

「フフフ。疑う気持ちも、もちろん分かるけど、喋る剣の僕が言うんだよ。少しは信憑性があると思わない?」

「う!」

 確かにそうかも。でも、新作ゲームも欲しいし。

 ……三十分ほど悩んだ結果、ボクはゲームを諦めることにした。




 ハア~。何でこんな剣買っちゃったんだろ?

 千葉にある自室の机に、ボクは盛大に突っ伏していた。

 今、ボクの机には、新作ゲームの代わりに、先ほど買った剣がある。

ああ、発売日を指折り数えて待ってたんだけどなぁ。

今月のお小遣いは、もう使い果たしちゃったから、あのゲームはしばらく買えない。

ああ、ボクの予約分、きっとキャンセル扱いになるんだろうなぁ。生活費を節約すれば買えなくもないけど、そしたら今月は、カップ麺だけになる。

うう、それはイヤだ。ボクは、もう一度大きくため息を吐いた。

「あ~あ、何でこんな変な剣買っちゃうかな~」

「変な剣とは失敬な!」

 それまで黙っていた新作ゲームの代わりが抗議してくる。

 持って帰る途中は、絶対喋っちゃダメと言い含めておいたんだけど、もう大丈夫だと思ったみたい。

 ボクは、(めっちゃ疲れた顔しながら、店員さんが綺麗に包装してくれた)剣の包装を解き、机に放り出す。

「だって変じゃん。剣のくせに喋るなんて」

「何おう。剣が喋っちゃいけないなんて決まりがどこにあるんだね。まったく、君の固定観念を、僕に押し付けるのはやめてもらいたいな」

 ハア。まさか、剣にお説教される日が来るとはなぁ。

 いや、待てよ。ひょっとしたらこの剣、高く売れるかもな。喋る剣なんて珍しいしどころか、世紀の大発見じゃ……。

「君、なんか悪い顔になってるよ」

「うへ? いや、別にボクは悪いことなんて考えてないよ。喋る剣の君を高値で売って、そのお金でゲームいっぱい買おうとか考えてないよ」

「……ハア。君ってさ、嘘が吐けないタチみたいだね」

「う、うるさいなぁ」

 よく言われるけど。

「言っとくけど、もし僕を売ろうとしたら、僕はその瞬間から絶対喋らないよ。もし、喋る剣として僕を売っちゃったら、君は詐欺で訴えられるからね」

「クッ。なんてズル賢い剣なんだ」

「フフッ。こう見えても、僕はインテリ系なのさ」

「何言ってんだよ、剣のくせに。ところでさ、変な剣。いくつか質問があるんだけど」

「その、さも変な剣ってのが、僕の名前みたいに自然な感じで呼ぶのはやめてよ。僕にはちゃんと……イータって名前がある」

「イータ? やっぱり変な名前じゃん」

「うるさいな。ところで君の名前は何? お嬢さん?」

 プチ!

「ボクはお嬢さんじゃなくて男! 女じゃなくて男! 名前はそう! 信守蒼のぶもり そう! 女の子じゃない!」

 まったく、なんて失礼な剣なんだ! そりゃボクは、線は細いし、童顔だし、よく女の子に間違えられるけど。でも、ボクはれっきとした男だ。

「あれ? 君、男の子だったの? 失敬失敬。あんまり可愛らしいから女の子かと思ったよ」

「~~~~。次にそれ言ったら、粗大ゴミに出すからね」

「おお、怖い」

 イータが全く怯えを感じさせずに言う。

「……フウ。まあいいや。ところでイータ、いくつか質問があるんだけど」

「何だい? 何でも聞いてくれたまえ」

「何で日本語喋れるの?」

「そりゃ、この世界に来て長くなるからねぇ。特にアキバに流れ着いてからは、日本語だけじゃなく、外国人観光客から色んな言語を学んだよ。五ヶ国語は軽いんじゃないかな。ちなみに、言葉だけじゃなくて、この世界のことにも結構詳しいよ」

「マジで!」

 こ、こいつ、剣のくせにボクより賢い……

 ボクは、思わずイータを手に取って、凝視しながら言った。

「あれ?」

 何だろう? 急に体から力が抜ける。

 疲れてるのかな? 何だか眠くなってきた。

「で、他に聞きたいことは?」

 ボクに握られているイータが、そんなことを言ってきたけど……ダメだ、眠い。

「いや、やっぱり今日はいいよ。なんか疲れたから今日はもう寝る。続きはまた明日」

 そう言って、ボクはベッドに飛び込んだ。




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