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ボクの章 第五節 いくらなんでもこの展開はあんまりです(泣)

「大丈夫? スウ」

 その凛とした少女の声は、目の前に立っているロボから発せられた。

 い、違和感ありすぎでしょ。あのロボから女声って……

「ん。だいじょぶ」

 と言って、スウちゃんがコックリと頷く。

「そう、よかった……って、ちょっとスウ、アンタなんてカッコしてんの!」

「ん? 裸」

「そんなの見たら分かるわよ!」

「お風呂から上がったばっかり」

「ああもう! とりあえずなんか着てらっしゃい! はしたない」

「ん。分かった」

 と言って、スウちゃんが近くにあった部屋へと入り――すぐ戻ってきた。

 その体にシーツのような白い布を巻き付けて。

「ツクヨミよ、一体どうしたというのだ? お前が助けを求めるとは……」

 今度はロボから野太いおじさんの声がした。

 ど、どうなってんの?

 このロボ、声音を自在に変えられるの?

 その機能、この状況じゃいらなくない?

 ていうか、それ以前に、その機能はそもそもいらなくない?

 疑問と恐怖と驚きで、ボクの頭はすでにショート寸前だった。

「侵入者です」

 と、ツクヨミさんがロボに答える。

「侵入者? どこ? どこ?」

 ツクヨミさんに向かって、ロボは女声で尋ねた。

 い、異常というか、微妙に気持ち悪い光景だな。

「アナタの目の前です」

「目の前って……貧弱そうなのが一人いるだけじゃない」

 貧弱そうなのってのは、どうやらボクのことらしい。

「な~んだ。普通の人間じゃない。てっきり奴らが侵入してきたのかと思っちゃった。っていうか、見ない顔ね。どこの子?」

「向こうの世界のお客様」

 と、スウちゃんが答える。

「向こうって……じゃあこの子、門を潜ってここに来たの⁉」

 女声のロボに、スウちゃんはコックリ。

「あちゃ~。それはまたタイミングが悪いわね~。まあ、まだ間に合うからいいんだけどさ」

 と言って、ロボが頭をかくような仕草をする。

 間に合う? 言ってる意味が全然分からない。

「ねーたま、シンテンを解く。ソウが驚いてる」

 ねーたま? ってことは、あのロボはスウちゃんのお姉さんってこと?

 マ、マジで……

 ひょっとして、スウちゃんも実は人型の機械ヒューマノイドってオチ?

「とと、そういえばそうね。じゃあ早速――」

「なりません!」

 ツクヨミさんが、いきなり鋭い声で叫んだ。

「ど、どうしたの、ツクヨミ? そんな怖い声出して」

 と、女声のロボが、少しビックリしたように尋ねた。

「レウ殿、まだシンテンは解かないでください。ゼウス、アナタは何も感じないのですか?」

「感じる……とは?」

 ツクヨミさんの声に、ロボが野太い男の声で答えた。

 どうやらあのロボの中には、二つの人格らしきものが入っているらしい。

 す、すごい設定だな……

「……目の前の者が手にしている剣をよく感じてください」

「そう言われてもな。ワシはお前ほど感知には長けていな――!」

 ロボから息を呑むような声がする。

「こ、これは……まさか……」

「そう。そのまさかです」

 驚愕の声をこぼすロボ(男声)に、ツクヨミさんは硬い声でそう答える。

「な、何故あれがここに……一体どうやって……」

「どうやらあれが、あの者をここに誘ったようです」

「そんな馬鹿な! ではあの者は、あれに触れて五体満足だというのか!」

 さっきからロボとツクヨミさんがあれあれ言ってるけど、あれって多分イータのことだよね。

「……信じられん。あれがこの世界に戻ってきたことも信じられんが、あれに触れて五体満足な者がいることの方が信じられん」

「ですが、事実あの者は平然としている」

「う~む。あれの偽物ということはないのか?」

「そう思いますか?」

「いや、ありえんな。ワシらがあれの波動を間違うことはない。発している波動こそ微弱だが、あの波動は間違いなくあれの物だ」

「ねえゼウス、さっきからツクヨミと何言ってんの?」

 とロボ(女声)が、ロボ(男声)に尋ねた。

「……そうかレウ。お前は知りこそすれ、直接見たのは初めてか。レウよ、あれが『もう一つの災厄』だ」

「災厄って……ウソッ! あれが!」

「……ああ、間違いない」

「そんな……」

 ロボ(男声)の言葉に、ロボ(女声)が驚嘆の声を漏らす。

「うう~」

 そんなシリアスな空気の中に、スウちゃんのぐずるような声が響いた。

「みんな、ヒドイ! スウだけ仲間外れ。スウ、みんなが何言ってるか全然分からない!」

 と言って、スウちゃんが目に涙を浮かべる。

「ああ! ゴメンね、スウ。でもそっか、スウは何も知らないのか……」

「……ええ。スウには知らせないよう取り計らいましたから」

「そうね。その方がいいかもね」

「なるほど。しかしどうするのだ? あの人間をこのままにしておくというわけにもいくまい」

 と、ロボ(男声)が言った。

「おもてなしする」

 と、スウちゃんが答える。

「なりません、スウ」

 そんなスウちゃんをツクヨミさんが諫めた。

「どしてか?」

 スウちゃんが首を傾げる。

「あの者は客人ではありません。むしろ敵である可能性が高いのです」

「じゃあやっぱ殺しとく?」

 ツクヨミさんの言葉に、ロボ(女声)がそう言って、ボクに砲を向けた。

「ええ! ちょっと待ってくださいよ! ボクは敵なんかじゃありませんって! そりゃ確かに、無断でここに入ったのはゴメンなさいですけど、別に何か悪さをしにきたってわけじゃ……」

「信じられないわね。あれをこの世界に持ってきた奴の言葉なんて」

「あれってイータのことですよね? イータはただの喋る変な剣ですよ。確かに口は悪いけど、何も害なんてないし」

「ただの喋る剣? アンタ、それ本気で言ってんの? それはね……っていうか、その前に一つ。アンタ、何でその剣持って平然としていられるわけ?」

「な、何でって言われても……ボクには、皆さんが何をそんなに怯えているのか不思議なんですけど……」

「……それ、どこで手に入れたの?」

「お店です。ボクの世界の?」

「お店? どっかの武器屋でってこと?」

「いえいえ、そんな物騒なところじゃなくて、普通にアキバのお店で……」

「アキバ? 何それ? まあいいわ。とりあえず、アンタには悪いんだけど、これも一つ運が悪かったと思って……」

 ロボの砲にエネルギーのような物が集まっていく。

「死んでくれる?」

 ヤバい!

 あのロボ、何か撃つ気だ。

 逃げなきゃ!

 と、思ってはみたものの、足が竦んで動けない。

 ウソでしょ!

 ボク、こんなところで死ぬの⁉

「ダメッ!」

 しかし、ロボが砲を撃とうとしたまさにその時、誰かがボクを守るようにして、ロボの前に立ち塞がった。

 スウちゃんだ。

 スウちゃんが、両手をいっぱいに広げてロボの砲から僕を守ってくれてる。

「スウ、いい子だからそこをどいて」

「ダメ。どいたら、ねーたま、ソウにヒドイことする」

「ソウ? それがソイツの名前ってわけ? まあいいわ。ねえスウ、ソイツは危険なの。だから処分しなくちゃならないの。お願いだから、分かって」

「ヤッ!」

 と言って、スウちゃんが柔らかそうなほっぺをぷっくりと膨らませ、そっぽを向く。

「スウ! そんな聞き分けのないこと――」

「ソウにヒドイことするねーたまなんて……キライ!」

 それを聞いた瞬間、ロボが落雷にでも打たれたかのように固まった。

「ああ、スウ! 怒らないで! 分かったから! お姉ちゃんが悪かったから!」

 ロボがいきなりテンパって、わたわたと手足をバタつかせる。

 どうやらあのロボは、よほどスウちゃんに嫌われるのが怖いらしい。

「ゴメンね、スウ。機嫌直して」

「……ソウにヒドイことしない?」

「しないしない。お姉ちゃんがスウの嫌がることするわけないじゃない」

「……レウよ。今はそんなことを言ってる場合では――」

「ゼウスは黙ってて! アタシはスウに嫌われたら生きていけないの!」

「しかしレウ殿、この者をこのままには――」

「ウッサイわよ、ツクヨミ。コイツのことよりもスウ優先!」

 す、すごい光景だな……

 と、完全に放置されていたボクは思った。

「フウ。とにかく……」

 と言って、レウと呼ばれていた方のロボ(女声)が、疲れたようにため息を吐く。

「とりあえずソイツ、監禁しときましょ」

 と、ロボ(女声)が言った次の瞬間、ボクの立っていた場所に穴が開く。

「え?」

 急激にボクを襲う浮遊感。そして――

「ウソォォォォォォォォ!」

 それは急激な落下へと変わった。


 痛った~。

 落下のすぐ後に行き当たったスロープに乗って着いた先は、鉄格子のはまった牢屋だった。

 な、何で牢屋に閉じ込められるの……?

 硬くて冷たい床。粗末な寝床。ファンタジーに出てくる、まさしく牢屋って感じの場所。

 明かりはなく、月明かりだけがわずかにボクを照らし出す。

 ハア、何でこんなことに。

 その元凶は、先ほどからずっとボクの背中で黙り込んでいる。

 冷えた床に座り込んで、ボクはため息を吐いた。

 ハア、ほんとどうしよ……

 そりゃ夢いっぱいのファンタジー的な流れを期待したわけじゃないけど、それにしてもこの展開はあんまりじゃん。

 ボク、何にも悪いことしてないのに。

 今のボクは、ここに一人ぼっち。

 見張りもいない。他の囚人もいない。

 あっ、一応イータもいるか。

 けど、ほんとにさっきから何も喋らない。

「ねえ、イータ。いい加減なんか喋ってよ」

 反応なし。

「どうやらボクがこうなった原因は君にあるみたいなんだけど」

 それでも反応なし。

「友達なら少しくらい事情を話してくれてもいいんじゃないかな」

「……だから言ったじゃないか。ここに来るのはやめた方がいいって」

「ようやく喋った。もうちょっと早く口を開いてくれたら、ボクはこんな思いをしなくてすんだかもしれないのに」

「……逆だよ、ソウ君。もしあの時、僕が口を開いていたら、もっと事態は深刻なことになっていた」

「えっ……?」

「それこそ、あの場で殺されてもおかしくなかった」

「……じょ、冗談だよね?」

「冗談に聞こえるかい?」

「き、聞こえないけど……けど、だからってそんな……」

「止めはした。けど、それを聞かなかったのは君だよ」

「そ、そりゃそうだけど……けど、まさかこんな扱いを受けるだなんて思わなかったんだもん」

「クスッ。アニメやマンガみたいに、勇者扱いされて、ヒロインと共に大魔王とでも戦うと思ったのかい?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「これが現実さ。異世界なんてこんなものなんだよ」

「ね、ねえ、ここってひょっとしてすごく怖いところなの?」

「そうだね。怖いところではあるね。少なくとも僕にとっては」

「君にとっては?」

「ああ、僕にとってここは悪夢の世界なんだ。本当にね」

「け、けど、あの人達の様子を見ると、なんか君の方が怖がられてるみたいだったけど……」

「ああ、それは間違いない。少なくともこの世界にいる者の大半は、僕を恐れている。もしくは嫌っている」

「じゃ、じゃあボクがこうなってるのって、君が原因なの?」

「……ゴメン」

 その謝罪は、とても弱々しいものだった。

 申し訳なさと悲しさと、そして寂しさの入り混じった言葉。

 ボクの胸がチクリと痛む。

「君は、ここで何をしたの?」

「…………」

「よほどのことをしなきゃ、あんな態度は取られないよね?」

「……何もしてないよ」

「そんなはずないだろ! 何もしてないなら、あんなに怖がられたりするもんか!」

 ボクは語気を荒げて言う。

「……ほんとだよ。僕は何もしていない。僕は何もしようとなんてしてない。僕は何かしたいなんて微塵も思ったことはない!」

「じゃあ、何でだよ!」

 ボクは怒鳴った。

「何でボクがこんな目に遭わなきゃならないんだよ!」

 胸に溜まった思いは止まらず――

「全部君のせいじゃないか!」

 ボクの口から溢れ出る。

「……ゴメン」

「ッ! ~~~~」

 さらに溢れ出そうとした言葉が止まる。

 呻くようにこぼれたその言葉で止まる。

「ねえ、ソウ君……」

「……何だよ?」

「何で僕には、意思なんてものがあるんだろうね」

「……えっ?」

「僕に意思なんてものがなかったら、感情なんてものがなかったら、こんな思いをしなくてすんだのに」

「…………」

「ただの剣で、ただの鉄で、ただの物でいられたのに」

「…………」

「もし僕を創った者達に会えたなら――もっとも、もう全員死んでいるからそんなことはありえないんだけど、もし仮に会えたとしたら、僕は、僕の考えうるありとあらゆる罵詈雑言を奴らに浴びせるだろう。それこそ、あらん限りの呪詛の念を込めて」

「…………」

「いや、違うか。ひょっとした懇願するかもね。『お願いです。お願いですから、僕から意思を、感情を排除してください。僕をただの鉄の塊に戻してください』ってさ」

「…………」

「本当に……何で剣に意思なんてものがあるんだか……」

 泣いている、とボクは思った。

 変な話だ。剣なのに。物なのに。涙なんて流れるはずないのに。

 それでもボクは、イータが泣いているように思えた。

 不意に、ボクの目から涙がこぼれる。

 これはボクの涙なのか、それともイータの涙なのか。

 ボクには分からなかった。

「……ゴメン」

 ボクは、自責の念にかられて謝罪する。

「何で君が謝るのさ。謝るのは僕の方だろ?」

「……ゴメンね、イータ」

「だから謝らないでよ。君は何一つ悪くなんてないんだから」

「…………」

「君はさ、ソウ君。いい奴だね」

「……えっ?」

「人から謝られたのは初めてだよ。ありがとう」

「変な奴だな。どう考えてもお礼を言うところじゃないのに」

「嬉しかったのさ。僕にとってはね」

「……そっか」

「少し眠った方がいいよ。今日はいろいろあって疲れただろ?」

「……うん」

 ボクは、牢屋の隅にある簡素なベッドに横になった。

「ねえ、ソウ君……」

「何?」

「その……こんな目に遭わせちゃったけど……まだ、僕の友達でいてくれる?」

 それは、怯えたような問いかけだった。

まるで捨てられた子犬のような……そんな光景を連想させる問いかけだった。

ボクは、その問いかけに目を閉じて言った。

「当たり前だろ」



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