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平等に傷付け合いましょう

「よくも、おめおめと顔を出せたものね……」

 鉄製の扉を抜け、カトレアが療養する塔の頂上にやって来た青年は二人。

 王国に忠誠を誓った騎士であるギルディオと、彼の友人で文官のリューリ。

 どちらも、三日と空けずカトレアを見舞ってくれていた。

 革命軍を率いているのは彼らだと侍女から告げられた時、にわかには信じられなかった。

 優しい彼らが民衆を扇動し、カトレアの家族を討ち取った?

 嘘だと思いたかったのに……鎧を着込んだ姿と、何より罪悪感に満ちた眼差しが稲光に照らし出され、残酷な真実を呑み込むしかなかった。

 ギルディオが近付いて来るのを牽制するために、さらに城壁の際へとにじり寄る。彼は焦りも露わに歩みを止めた。

「近寄らないで。――裏切り者」

 冷たい唇から、刺すような声がこぼれる。

 彼らの反応は顕著で、はっきりと顔が強張った。そして、一切否定しない。

 しばらく黙り込んでいたリューリが、土砂降りの雨に打たれながら慎重に口を開く。

「……お体に悪いです。カトレア様、どうか一先ず中へ……」

「何も聞きたくないわ。私はあなた達を……信じていたのよ……」

 今さら気遣われても虚しいばかりだった。

 優しい微笑みの裏で、彼らはカトレアを殺すことを算段していたのだ。

「親しげに振る舞っていたのもこの日のためなのでしょう? 父上やお兄様にも、あなた達の仲間が近付いて、時間をかけて信頼を築き上げていったのでしょうね。全ては王族を油断させて、城の中枢へと食い込むための……お芝居だった」

 革命のため雌伏の時を耐え、晴れてこの日を迎えたのだろう。

 きっと彼らにとっては自由を勝ち取った大いなる一歩。民衆にとっても。

 せめてカトレアだけは、それらに疑問を提示し続けよう。血に塗れた革命に、果たして正義などあるのかと。

「両親を殺し、兄と姉を殺し、たとえ革命が成されたのだとしても――私は永劫許さない。この場で命を散らしたとて、あなた達を憎み、呪い続ける……!」

 怨嗟の声を上げると、大声に耐えきれず空咳が漏れた。その拍子に吐血し、真っ白だった夜着が赤黒く染まっていく。

「カトレア様……!」

 降りしきる雨に濡れそぼる彼らの顔は青白く、驚愕に彩られていた。

 まだだ。あらん限りの呪詛をぶちまける。

 乱れに乱れた銀髪に、青白い面。夜着を汚した血の色だけが赤く、闇の中で鮮烈に浮かび上がっている。口端に残る血を拭い、カトレアは凄絶に笑った。

「この身を焼き焦がす憎しみの炎が、いつか必ずあなた達に災いを招くだろう。……苦しめばいい。果てのない苦しみに、絶望しながら生きるがいい……!」

 高らかな哄笑を響かせながら、宙空に一歩踏み出す。軽い体はあまりに容易く塔の頂上から投げ出された。

 不快な浮遊感と、制止する声。ギルディオが必死に腕を伸ばしているのを視界の端で捉え、それも一瞬で置き去りにしていく。

 地面に全身を叩き付けられたあとも、不思議と痛みはなかった。いつでも全身が痛みを訴えていたからか、むしろ感覚が遠ざかり鈍くなっているようだ。

 雷光で辺りがにわかに明るくなり、顔前に咲く可憐な花に気付いた。

 どこまでも素朴で、どこまでも清廉で。受け取るたび、彼の真心を差し出されたように感じていた、かつての自分を嘲笑う。

 一筋の涙が頬を流れ、雨に混じって消えていく。

 そうして、何もかも分からなくなった。


   ◇ ◆ ◇


 次に目覚めた時、カトレアはまだ乳飲み子だった。

 そしてなぜか、レディラム王国国王の末娘として生きた、十七年分の記憶を持っている。

 あの夜の出来事は獣人革命と呼ばれるようになっており、今や国民の祭日らしい。

 お祭り騒ぎの下街を眺めながら、もしや自分は死んだ直後に生まれ変わったのではないか、と考えるようになった。

 だって、浮かれる彼らを見ていると、耐えがたいほど胸が痛くなるのだ。

 父は、そこまで否定されるような人だっただろうか。こんなにも死を喜ばれているなんて。

 一方で、親に捨てられ養護院に預けられた現世の価値観で、分かってしまうのだ。

 養護院すら貧しいながらに明るい雰囲気に満ちている今の方が、きっと良い国なのだと。

 誰もが前向きで健全。それは王政から解放され、未来に希望を抱いているからだろう。

 彼らが幸せそうであるほど、前世の自分をみじめに感じた。まるで自らの罪を見せつけられているようだ。

 現在の養父と出会ったのは、カトレアが四歳の頃だった。

 銀色の髪に、日暮れの空のごとき瑠璃色の瞳。整った目鼻立ち。垢だらけの顔やボサボサの髪では隠しきれないほど前世そのままの顔立ちをしたカトレアを認めると、彼は驚愕した。

 現在宰相を務めているという彼は、すぐに養護院長へ養子を申し出た。

 表情も年相応の闊達さも乏しいカトレアは周囲から浮いていたため、誰にも惜しまれることなく養護院を放り出された。

「あなたは今日からカトレアです。カトレアと名乗ってください」

 宰相であり養父であるのに、彼は四歳児に向かって敬語で話す。

 王女だった頃と同じ名を与えられ、同じようにうやうやしく接される。

 なぜ生まれ変わってしまったのだろう。

 まさか、革命を主導していたリューリに引き取られるとは思わなかった。彼と義理でも親子関係だなんて、どのような皮肉か。

 けれど、逆に考えればこれは好機。

 信じていた臣下に裏切られ、家族を殺され。

 諦めるのが前世での癖だったけれど、これは仕方がなかったで納得できることではない。

 王族が民衆を苦しめたのは、贅沢な暮らしを続けるため。

 民衆が蜂起したのは、自分達を苦しめる王族から解放されるため。

 どれほど美しい言葉で飾り立てても、結局どちらも自己都合だ。

 ならば、カトレアが復讐を誓うのもまた、自分自身のため。

 やられたらやり返す。さらにやり返されると理解していたって、復讐心は消えないのだから。


 ――さぁ、平等に傷付け合いましょう。



既にお気付きの方もいるかもしれませんが、

一話ずつの文字数を実験的に減らしてみてます!(どうでもいい)

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