表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

三章 「リニューアルしよう」

リニューアル?

「まず店構えを、一新しましょう」


 水篠さんはそう提案してきた。

 時間は朝7時。まだこの路地裏も住む人も眠っている。

 ぎんぎんとした視線も感じず、この時間帯は過ごしやすいなと新しい発見があった。

 私は、眠たい目を擦りながら話を聞いていた。

 大人しそうな見た目からは感じられないけど、水篠さんは意外とアクティブらしい。

 昨日の今日で、いきなり動き出すのだから。

 基本夜に店を出しているから、今ここにいるのは彼に呼び出されたからだ。

 店構えを一新する。

 そんな提案、普通ならいきなり親切にされて怪しむところだ。

 でも、水篠さんからはギラギラしたものを感じなかった。

 私は人を見る目には、絶対的な自信を持っている。

 だから私はそれに承諾して、費用はすべて出すといった。

 私はお金には困っていない。今も毎日一人でホテルで寝泊まりする生活だ。

 両親ともにいて、実家もある。

 でも、そこにはもう何年も帰っていない。 

 それには、ある理由があった。


 水篠さんはそれからすぐに買い出しに行った。

 「私も行こうか」と言ったけど、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。

 そんな優しさに甘えた。

 しばらくして、たくさんのものを運んできて、水篠さんは帰ってきた。

 お店をする上で、店の雰囲気やキャッチフレーズはかなり大切だと彼は作業しながら話しかけてきた。

 繁華街を歩いている人に警戒心をなくすことがまず必要だそうだ。

 そして、流行をとらえているか、インパクトはあるかなど、一つ一つ彼は詳しく説明してくれた。

 それとともに、どんな感じのお店を作りたいのか具体的に聞かれた。

 確かに流行りもあるけど、本人の意思が一番大事だと言っていた。

 私はよく考えて、それに答えた。

 私は涙を求めている。

 それは、私自身が涙を流したいからだ。

 作業する真剣な横顔を見ながら、彼はどこでそんな知識を身に着けてきたのだろうと私は思っていた。

 横顔をじっと見つめてしまう。

 とにかく、まず誰かの目に留まってもらわなければ、お店に訪れることはないらしいということだ。

 私は計画なんて立てず自分の感性の趣くままに動くので、水篠さんとは考え方がま反対のようだ。

 水篠さんの分析して、きっと考えを導く理系タイプだろう。

 性格は違うのに、なぜか話しづらさはなかった。

 こんなこと今までなかった。今まで同じような性格の人と一緒にいることが多かった。

 しかも会ったばかりの人とこんな風に自然と話せるなんて、私自身が驚いていた。

 こんなこと今まで一度もない。

 


「よし、まずは看板と旗ができました。葵さん来てください」


 看板と旗にはそれぞれこう書かれていた。


「涙の雫」


「涙する話をシェアしてみませんか?ほろっと温かくなります」


 それは、私の話したことを全て取り入れた理想のものだった。

 私のイメージするお店だった。

 さらに、店の回りも掃除され、きれいな植物が置かれていた。

 ただの木の机と椅子は、おしゃれな水色の机と椅子に変わっていた。

 オレンジ色のきれいな明かりも灯されていた。


「水篠さん、すごい。すでに人がきそう」


 私は歓喜のあまり、彼の名前を呼んでいた。

 そこで、彼のことを初めて名前で呼んだと気づいた。

 自分でも驚いた。

 コミュニケーションが苦手な私がこんなにも早く名前を呼ぶなんて、レアだ。

 それも意識して呼んだわけではなく、自然と出てきたのだった。

 

お読み頂きありがとうございます。



どんどん変わっていきます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ