6話 ステータス改竄
入学を明日に控え、執事のウォルターは次々と侍女達に指示を出し、入学準備の最終確認をしていた。
その最中、ウォルターは執務机にて入学式当日に持参する書類にサラサラと必要事項を書き込でいた。
── 書類上は種族や出身を誤魔化すことはできても、【鑑定スキル】持ちや大神殿のオーブ等は誤魔化せませんからねぇ……。ここはやはりステータス改竄とするしかありませんね。
アルサエル様の養子と養女にするのは先月手続きが終わってますから、問題になりそうなのは種族と武術・魔術・スキルのレベルあたりですかね。基礎ステータスも子供の範囲を遥かに超えてますねぇ。元々人族では到底達する事のできない領域のお二方でしたが、この3ヶ月間、本当によく頑張りましたから。
精霊魔術は全部使えるとなると目立つでしょうから、授業で契約する日に合わせて開示していきますか。
あぁ、授業での魔力放出を抑える指輪を渡しておかねば。
筆記テストでも2~3問わざと間違えるように言いたいところですが、2人ともそういうのは嫌がりますからねぇ。
はぁぁぁぁぁ~……色々心配ですねぇ。
書き込み終わった書類を片手にアルサエルの執務室へ訪れ、主の帰宅を待った。暫くすると瞬間移動でアルサエルが戻ってきた。直ぐに手元の書類を渡し、許可を貰う。
「これでよい。ステータス改竄はお前が見てやってくれ。私は2人に声をかけ次第、直ぐに戦場へ戻らねばならん」
「かしこまりました」
昨晩、王国の外れでスタンピート(モンスターの異常発生)が起こり、騎士団や魔道師団が現場へ到着するまでアルサエル一人で先行し駆逐していた。今は騎士団達が現場に到着し、やっとアルサエルは休憩を取れた所だった。
アルサエルは足早にカティエルとラスヴェートが居る食卓へ向かうと、立ち上がろうとした2人を手で制し席につく。一口水を飲み、一息つくと2人に向き直った。
「明日の入学式に出れるかわからんので、取り急ぎ用件を伝える。
2人とも私の養子と養女になったので、『デュ・ヴァンス』と名乗り時に付けること。『ヴァンス侯爵家』の人間として学校生活は送って貰うことになる。今後は侯爵家として恥ずかしくない振舞いや言動に気を付けること。極力目立たない事。できるな?」
「「 はい 」」
「よし。ではウォルター。後は任せた」
「かしこまりました。無事のご帰還を」
「うむ」
それだけ言うと、アルサエルは直ぐに瞬間移動で消えてしまった。
2人は今朝の時点でアルサエルがスタンピート対応で出掛けたことは聞いていたが、その割には反り血も匂いもせず、戦いの痕跡が全く見えなかった事に驚愕していた。
「どれくらいの規模かわからないけど、やっぱりアルって凄いのね」
「うん。僕もアルみたいになる」
ウォルターは父親を慕うような微笑ましい2人の姿を見て、うんうんと何度も頷くのだった。
さて、食事も終わり、いよいよステータスの改竄だ。
ステータス改竄は本人の鑑定スキルLv10であれば実施可能となる。ラスヴェートもカティエルも、料理の食材や武器や防具、屋敷の中を鑑定しまくり、鑑定スキルLvはMaxにしてあるので問題ない。
むしろ、初めから改竄を視野にカリキュラムに入れていたので、この時点でMaxになってないとなると、サボっていた事がバレてしまう。
2人ともきちんと取り組んでいたので鑑定スキルに関しては問題なかった。
「では、ステータスの改竄を行いましょう。これは本来滅多に行われないのですが、潜入する時や国境での検問をスムーズに通る為に使われることがございます。ステータスは自分達より高い鑑定スキルを持つ者には隠せない為、国境に配備されている鑑定スキル持ちを誤魔化すことは不可能です。
まぁ、お2人が国境を超えるのは学校を卒業してからになりますので、あまり深く考えなくて良ろしいでしょう」
「「 はい 」」
「先ずは自分のステータスを表示してみてください」
「「 ステータスオープン 」」
「では、それぞれ今から渡す紙の通りのないように書き換えてください。書き換えたい場所を少し長めに触れれば該当箇所が点滅しますので、そうしたらそこに入れる文字を念じてもう一度触れれば書き換え完了となります」
言われた通り、ラスヴェートもカティエルも慎重に書き換えていく。何度も確認しつつ書き換え終わると、ウォルターによる最終確認が行われた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
*変更前の値は後書きに記載
名 前:カティエル・デュ・ヴァンス
種 族:人族
年 齢:7才
役 職:──
職 業:──
称 号:賢者の弟子
レベル: 1
体 力:125
魔 力:516
攻撃力:471
耐久力:135
素早さ:316
知 力:274
幸 運: 73
スキル:料理(Lv3)
精霊魔術:───
武 術:片手剣(Lv1)│双剣(Lv2)│弓(Lv1)
体 術:Lv2
治癒術:──
仙 術:──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
名 前:ラスヴェート・デュ・ヴァンス
種 族:人族
年 齢:10才
役 職:──
職 業:──
称 号:賢者の弟子
レベル: 5
体 力:528
魔 力:211
攻撃力:674
耐久力:439
素早さ:112
知 力:123
幸 運: 33
スキル:料理(Lv2)
精霊魔術:───
武 術:片手剣(Lv1)│両手剣(Lv2)│槍(Lv2)
体 術:Lv5
治癒術:──
仙 術:──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「大変よくできました。これでステータスの改竄は完了です」
ステータス改竄に思いの外魔力を取られ、集中力を要したおかげで、ウォルターから承認を得ると、カティエル達はどちらからともなく深く息を吐いた。
「次は訓練場で少し試したいことがございますので、地下へ移動しましょう」
息が詰まる作業だったので、2人は嬉々として地下の訓練場に向かう。そして、そこで渡されたのは【ディナックの指輪】というアイテムだった。
「先ず、指輪を嵌めない状態であの的に向かって全力の火球を放ってみてください。次に、指輪を嵌めてから同じように全力で火球を的に向けて放ってください」
「「 はい 」」
「では、ラスヴェート様からお願いします」
ラスヴェートは得意気に胸を反らしながら火球に魔力を注ぎ込んでいく。そして瞬間的最大魔力を火球に込めて、直径5メートルはある巨大な火球を勢い良く的に向かって飛ばす。
「合格です。では次は指輪を嵌めて同じ事をやってみてください」
言われた通りに指輪を嵌め同じように火球を作り出すが、どんなに魔力を注ごうが拳サイズにしかならない。
「え?……これって……」
「ラスヴェート様、そのままで結構ですので、的に向かって投げてみてください」
言われた通り、恐る恐る的に向かって投げると、的に辿り着く前に霧散してしまった。
「はい、合格です。カティエル様も同じ事をお願いします」
同じく直径5メートルの火球を投げ終えた後、指輪を嵌めて小さな火球を飛ばした。唯一ラスヴェートと違うとすれば、カティエルの火球は的に当たって霧散した位だろうか。
「はい、合格です」
自分の出番が終わってから、ずっと指輪を外そうと格闘していたラスヴェートか、どうやっても外れない指輪に腹を立てて居た。
「ウォルターさん、これ、外れないんだけど??」
「【ディナックの指輪】は呪いのアイテムなので、教会でないと外せません。」
「「 えっ? 」」
「その指輪は自身にデバフ効果をもたらす指輪でして。お二人がそのままの状態で学校に通われると、授業中に校舎等を破損してしまう恐れがある為、用意させて頂きました。これは他の方々を巻き込まない為の必要処置でもありますので、卒業までは受け入れてくださいませ」
ウォルターの説明を聞いて、2人ともガックリと項垂れた。アルサエルとウォルター以外と手合わせをしたことの無い2人は、学校に行ったらさぞ強者達で溢れている事だろうと楽しみにしていたのだ。それなのに、制御装置をつけられてしまうとは……。
「学校では、周りのペースに合わせて目立たない事が大事です」
「何で目立つとダメなの?」
そう言えばアルサエルも極力目立たないようにって言ってたなぁと思いながら、カティエルはウォルターに聞く。
「色々と面倒だからです。お二人とも、自分の時間を取られるのはお嫌いでしょう? お二人が将来有望と目をつけられてしまうと、貴族や豪商等はあの手この手でお二人を手元に置こうと動きます。そのような事態になる事は、アルサエル様は1番お嫌いですので、どうか目立たないようにお過ごしください」
とは言え、目立つでしょうな……とウォルターは内心思う。
2人とも人族ではないので見た目からして整っているし、アルサエルの養子と養女だ。縁を結びたがる貴族の他、現在在学中の第一王子、第二王子に勢力として狙われる可能性は大いにある。
こんな小さな内から勢力争い等には巻き込まれて欲しくはない。できることなら従者として同行したい位だ。
だが、そんな事をしてはアルサエル様が笑われてしまうだろうと思うと、使い魔で盗み見するのがせいぜいであると項垂れる。
「あぁ、行き帰りは馬車で送迎致しますので、帰りは我々がお迎えに上がるまでお待ちください」
「えー、歩いた方が運動になるから歩きでいいよ」
「ラスヴェート様、貴族たる者、徒歩はなりません」
「面倒臭っ」
ウォルターから他にも注意事項をこれでもかと並べられ、夕飯時まで続き、げんなりとした2人は料理の時間になると逃げるように厨房へ消えていった。
*変更前の値
名 前:カティエル
種 族:天使
年 齢:116日
役 職:熾天使
職 業:
称 号:堕天使
レベル: 100
体 力: 2,597
魔 力:68,751
攻撃力:58,741
耐久力: 3,579
素早さ:13,678
知 力:85,274
幸 運: 573
スキル:料理(Lv3)│鑑定(Lv10)
精霊魔術:
火 (Lv3)│水 (Lv2)│雷 (Lv3)
土 (Lv3)│風 (Lv2)│光 (Lv2)│闇 (Lv2)
武 術:
片手剣(Lv3)│両手剣(Lv3)│双剣(Lv5)│斧(Lv2)
槍(Lv3)│棒(Lv2)│鎌(Lv2)│弓(Lv3)
体 術:Lv4
治癒術:Lv3
仙 術:Lv3
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
名 前:ラスヴェート・アルバ
種 族:エンシェントドラゴン
年 齢:62才
役 職:──
職 業:──
称 号:──
レベル: 56
体 力:1,528
魔 力:2,211
攻撃力:9,674
耐久力:7,433
素早さ:2,112
知 力:1,123
幸 運: 833
スキル:料理(Lv2)│鑑定(Lv10)
精霊魔術:
火 (Lv3)│水 (Lv1)│雷 (Lv3)
土 (Lv1)│風 (Lv4)│光 (Lv1)│闇 (Lv5)
武 術:
片手剣(Lv2)│両手剣(Lv3)│双剣(Lv2)│斧(Lv3)
槍(Lv2)│棒(Lv2)│鎌(Lv2)│弓(Lv2)
体 術:Lv6
治癒術:Lv2
仙 術:Lv3