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ルベルジュの守護者  作者: REN-REN
第1章 飛竜乗雲
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5話 ラスは脳筋

ラスヴェートの故郷から戻ってきて早3ヶ月。

王都にあるアルサエルの館では、人族の生活に馴れる為の地獄のブートキャンプが行われていた。



5:30 起床

6:00 早朝訓練(基礎体力)

8:00 朝食

9:00 魔術

11:00 武術

13:00 昼食

14:00 座学

18:00 料理

19:00 夕食

20:00 魔力枯渇まで模擬戦

22:00 就寝



このスケジュールは、来月カティとラスが学校に通う事になった時に、人族の時間に予め馴れておく為に立てられた。


当初、アルサエルが一通り教える予定であったが、アルサエルが館を構えるここ、エフェス王国から暇を貰う為にも引き継ぎ等をしなくてはならなくなった為、2人には一般レベルや他人とのコミュニケーション能力を磨く等の目的も含め、学校で基礎を学ばせることにしたのだ。


入学までの間は執事のウォルターにほぼ任せっきりではあるが、1日の最後にある模擬戦はどんなに忙しくても必ずアルサエルが2人の相手をし、2人の成長を確認するように努めた。


そこで出された課題を翌日ウォルターと共に取り組み、夜に改善した状態で挑みまた課題を貰う……という毎日の繰り返しだ。


ラスヴェートは時間が来ると強制的に次の教科に進まなくてはならないのが非常にストレスとなっていた。


せっかく新しい魔術を修得できそうな時に限って、武術の時間がやって来てしまうのだ。夜に練習したくとも、魔力枯渇まで模擬戦をするので、練習用の魔力さえ残らない。


「アル~、1日35時間にする事とかできないのかよ」


「時空魔法を覚えれば異なる時の流れで修行する事はできるな」


「えっ!? だったらそれ使って修行したいよね、カティ?」


「私はどっちでもいいや」


カティエルは自分達で作った料理を食べては苦い顔をしつつ、何とか飲み込んでいた。今日の料理はラスヴェートが火加減を誤り、やや炭っぽいのだ。


テーブルに出されたものは残さず食べる。

失敗したものもそのまま食べる。


というウォルターからの厳しい指導の上、どんな失敗した料理もこうやって食べなくてはならない。巻き添えを喰らうアルサエルが抗議したところ、ウォルターから「嫌ならご自分でお作りください」と一刀両断されてしまった。


そんな失敗料理を顔をしかめて咀嚼しながらも、アルサエルはラスヴェートの提案を却下した。


「何とも意欲的で大変結構……とも言えるが、時空魔法の空間をその幼い体では過ごすには3日続けばいい方だろう。魔力が増えればその体を成長させる事もできると思うが、今は基礎体力と魔力を伸ばしなさい」


「基礎基礎基礎基礎……基礎ばっかり飽きるんだよ!」


テーブルをドンっ!と叩き席を立つラスヴェート。それをマナーが悪いと叱るウォルターを横目で見ながらアルサエルは考える。


── やはり竜は基本的に単独行動だから、基礎は飽きるのが早いと思っていたが、まあこれでも保った方か。カティは堅実だから文句は言わないな。ふむ。ここは1つ2人を対戦させてみるか。


「わかった。では、こうしよう。今からラスとカティで模擬戦をして、ラスが勝てば次の段階へ。カティが勝てば現状維持。お互いに人型での対戦だ。それでどうだ?」


「やる!」


ふんす!と鼻息粗いラスヴェートに比べ、カティエルは面倒臭そうな顔をした。カティエルはアルサエルの戦闘での動きを観るのが好きで、その時間を削られるのが嫌でたまらなかった。


── これは早々にラスヴェートを倒して、アルサエルに模擬戦をして貰おう。そうしたら2時間丸々アルサエルと模擬戦できるかも。そうなるなら付き合ってあげてもいいか。


カティエルはそう思い直すと気持ちが軽くなり、失敗した夕食を綺麗に平らげながらラスヴェートとの対戦のシミュレーションを脳内で10回程行う。1番効率が良さそうなパターンが確定し、準備万端となった時には丁度食事が終わった。


ラスヴェートはシミュレーションをした様子は全く無く、ウォルターと武器の話ばかりをしていた。


食後、ウォルターを合わせた4人で館の地下に向かう。


ここはアルサエル曰く、「例え魔王が来ても安全な場所」と言えるほど頑丈な訓練場らしい。


模擬戦で使用するラスヴェートの武器はドラゴンの時とあまり勝手が変わらないよう、最近のお気に入りはナックルとグリーヴ(脚甲)だ。強化魔法をかけた状態で肉弾戦で戦うスタイルを好んでいる。


カティエルはというと二刀流。恐らく体が小さい為に素早さを活かして急所をつくつもりだろう。


アルサエルは2人を見ながら大体の予想をつけつつ、ルール説明を始める。


「ダウンしてスリーカウントで起きなければ相手の勝ち。

 殺しそうな一撃は私が止めに入る。

 途中での武器の交換や魔法も好きにするばいい。

 では、始め!」


合図と同時にアルサエルがその場から消えたのを確認すると、ラスヴェートはカティエルに真っ直ぐ突っ込んで行く。身体強化により通常の10倍近い速さである。


が、カティエルはそれをひょいっと躱した瞬間に右手をラスヴェートの頭に押し付け、重力の魔法を発動させた。


空気圧(エアプレッシャー)


そのままラスヴェートの頭は地面にめり込み、3秒が経った。


「単純ね」


「その様子だと食事の席で全て決めてたな」


「もちろん。『戦いは実践の前から始まっている』ですよね?」


「その通りだ。

 暫くラスは起きれないだろうから、私に全力でかかってきてみなさい。私に傷を1つでもつけられたら何か欲しいものをくれてやる」


「では、遠慮無く行かせて頂きます!」


瞬間、カティエルは両手に持った剣に切れ味が増すよう雷の魔力を纏わせ、足にも雷の魔力を纏わせ、スピードアップを図る補助をかけた。そして万が一用の結界も張る。


雷の補助を借りたカティエルは、容赦なくアルサエルを襲う。2本の剣が舞う中、2回3回と足蹴も挟みつつ、所々重力魔法や風魔法で緩急を付ける。


── よしよし。予定通りラスヴェートとは正反対に育ってきたな。細かいコントロールができるからこそ、多彩な手段を用いる事ができるタイプか。カティはこのまま満遍なく育て、脳筋のラスはある程度狭めた範囲を伸ばした方が良いかもしれんな。


未だに顔面を地面にめり込ませたまま延びているラスヴェートをチラリと見ながらそんな事を考えていると、余所見をするなと言わんばかりに剣と剣から発せられるカマイタチが襲ってきた。


暫くしてやっとラスヴェートに動きが見えたので、アルサエルとの模擬戦は終わりを告げられてしまった。


「もう少し寝ててくれても良かったのに」


「……酷いよ、カティ」


「真っ直ぐ突っ込んでくるラスが悪いのよ」


「う……」


ラスヴェートはもっともな事を言われて俯く。そこに追い討ちをかけるようにアルサエルからのお小言だ。


「お前が嫌いな基礎をきちんと理解していない証拠だ。課題をこなすだけでなく、理解しながらこなしなさい」


ですよね~……と言いたいけど言えず、ラスヴェートはアルサエルから目を反らす。


「武術や武器の扱いはウォルターに任せるが、戦術の組み立てや基本パターンの動きができなければ、またカティに出鼻を叩かれて終わるぞ。その辺はイメトレで何度も戦況を描く事が大事だからな。

 ラスは戦闘パターンの組み立てを頑張れば、直ぐに冒険者としてもやっていけるだろう。そう気を落とすな」


アルサエルに頭をわしゃわしゃされたラスヴェートは嬉しそうに口を弛ませた。散々文句を言ってきた基礎だが、今度こそちゃんとやろうと心に決める。


それを見ていたカティエルは「やっぱりラスは単純でチョロいヤツ」と再確認するのであった。



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