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今宵はエファリスで

「何かあったのか、コータ!」


リンファが剣に手を添えながら、状況を聞く。さすが騎士団長、対応が早い。


「町にアンデッドが現れ始めたんだ! とにかく、すぐにみんなを助けないと!」


俺は必要最小限の情報だけを伝えると、窓から飛び降りた。レベル9999なら、これくらいの高低差は余裕だ。


石畳を強く鳴らしながら、華麗に上から参上する。登場の仕方や着地の華麗さに芸術点をあげたいところだが、今はそれどころではない。


「とりあえず、片っ端から……」


そう呟きながら、エクスカリバーに手をかけたその時。


上から何か、音がした。


「ん?」


俺がポカンとしたまま、そのままじっとしていると。


ぐしゃあ、という少しグロめの音が鳴り響き、いつの間にか俺は地面に叩きつけられていた。


「あー! ごめんっ!」


俺の上に思いっきり乗っかったままのアホ魔術師が、「てへぺろ

っ」としながら謝罪してきた。レベル9999でも、さすがにちょっと痛い。


「お前、ことあるごとに俺にダメージ与えてるけどなに? 恨みでもあんの?」


「ち、違うし! てか、かっこつけたままつっ立ってるコータもコータだし!」


「分かったからどいてくれる? 緊急事態なんだけど」


俺が愚痴ると同時、ルルカは慌ててその場から離れた。俺は改めて姿勢を正すと、エクスカリバーを引き抜いた。横で、ルルカも杖を構え始める。……お前は下手に動くと町の被害が倍になりそうなんだけど。


すると、突如、目の前にいたアンデッドの一匹が切り裂かれた。その素早く、華麗な剣術には見覚えがある。


「リンファ!」


我らが騎士団長、リンファ・エルフォードが、転生者二人を差し置いて華麗に参上した。人々も、口々に「リンファ様……!」と感動している。それ俺が欲しかったやつ!


だが今は欲しがっている場合ではない。俺はそのまま駆け出すと、今にも襲いかかりそうなアンデッドたちに、剣撃をお見舞いした。


軽い一振りだが、当たれば一撃。そんなチート武器『エクスカリバー』の力で、惜しむことなく、次々に薙ぎ払っていく。


アンデッドが俺の目の前から、若干のヘドロ臭さを残して、次々にその原形を崩していった。数が多いからか、やけに臭いが気になる。


俺が臭いに顔をしかめていると、近くで戦っていたリンファが言った。


「……すごいな、コータ」


「いや、俺がすごいってよりかは剣がすごいだけで……ってルルカ!?」


ふと、ルルカの方を見てみると、なぜかあいつは、アンデッドに襲われっぱなしのまま、泣きじゃくっていた。そのルルカの背後には、怯えてかがみこんでいる男の子がいる。え、あれどういう状況?


「お前何してんの!?」


「コータぁ……アンデッドこわいぃ~」


しまった、そういやあいつ、モンスター恐怖症だった! 加護のおかげで、アンデッドの攻撃を全て反射してはいるが……いや、下手に魔法発動されるよりマシなんだけど……。


「そんな怖いなら降りてくんなよ! なんで降りてきちゃったの!?」


「だってみんなを守りたいからぁ~……え~んっ……!!」


顔をぐしゃぐしゃにしながら、ルルカはそう答えた。


実際、ルルカの後ろには全くアンデッドはおらず、どうやら頑張って塞き止めているのだけは伝わった。だが、かくまってもらっているはずの男の子の方が「お姉ちゃん、大丈夫……?」と言う始末である。


時雨の森の時もそうだったが、相変わらず、やってることと本人の感情がちぐはぐなやつだな……。


それにしても、アンデッドの数が多すぎる。市民たちも、エファリス出身であることもあってか、光魔法でなんとかアンデッドと応戦しているが……。


だいたい、あのアンデッドたちはなぜ、急に涌き出てきたんだろう。というより、このエリアだけでなく、他のエリアにも現れているのだとしたら、俺たちだけでは対処のしようがない……!


そして、その最悪の予想が合っていたのか、ついに街中から悲鳴が聞こえ始めた。


「ぐあぁっ……!」


「い、痛い痛いぃっ!!」


「やめろ、放せ、放せよっ!」


耳を塞ぎたくなるほどの、絶叫。それは俺たちの士気を落とすどころか、生きている一般市民でさえも、パニックになるほどのものだった。


「コータ、どうしよう……どうしよう……!!」


ルルカが泣きながら、言葉を繰り返す。


「……っ!!」


騎士団長でありながら、市民を守りきれない現実を叩きつけられ、顔を歪ませるリンファ。


「くっそ……! エファリスを救いに来たってのにこれかよっ……!」


襲い来るアンデッドを斬りながら、俺もまた、その悔しさに顔を歪ませた。どれだけ力があっても、その『範囲』には限界がある。こうしている間にも、別の場所で、他の市民たちが襲われているかもしれないのに。


けど、今は目の前の命を、少しでも多く救うことしかできない。全員は救えなくとも、割り切って、やるしかないのだ……。


「なんか騒がしいですね」


俺がヒーローとしての苦悩を抱えている中、いつの間にか横でお菓子を頬張っていたゼノンが言った。


……何かを手に持っている。


「……お前、なに持ってんの?」


アンデッドの猛攻を捌きながら、顔をゼノンの方に向けて問い掛ける。


「これですか? んー、なんか賑やかだったので、もしかしたら今の雰囲気に合うんじゃないかと」


そう言いながら、ゼノンはくす玉ぐらいの大きさの球体をこちらに見せてきた。


「これが賑やかに見えるか?」


「まぁまぁ。とりあえず、これを今から空に打ち上げますね」


ゼノンは唐突にそういうと、くす玉らしき何かを思いっきり蹴飛ばした。


それは勢いよく飛んでいき、あっという間に、遥か上空へと到達した。


ゼノンはそれを見届けると、突然、メガホンを取り出し……。



「皆さーん! 空をご覧下さい! なんか飛んでますよねー! あれに光魔法をたっぷり注いで下さーい!」


……と、叫んだ。その呼び掛けに、エファリスの至る所から「は?」という声が聞こえる。メガホン通しただけなのに、どうやら全市民に伝わっているらしい。


「は?」


無論、俺もそう言ってしまった。だがゼノンは気にすることなく、さらに言った。


「ほらー、早くしないと皆さん死にますよー! 全員蘇生とかめんどーなんでー、死にたくないならやった方がいいですよー!」


もはや脅迫とも取れる物騒な言い回しである。さすがになりふりかまってられなくなったのか、あるいはパニックで行動が制御できなかったのか、その場にいた何人かが空に向かって光魔法を放ち始めた。


それをきっかけに、あちこちから光の線が見え始めた。その線は徐々に増えていき、くす玉らしき物体に集中していく。物体は、それに応えるように、光の強さを増していき、そして……。







『ミラーボール』になった。






「……ゼノン、あれ何?」


「ミラーボールです」


「なるほど」


もはやつっこむ気も失せ、俺はただ無表情で、空に浮かぶミラーボールを見ることしかできなかった。それは市民やリンファはもちろん、アンデッドすらも、空を見上げて止まったままである。


やがて、そのミラーボールがカラフルに光り、回転し始めた。


「え、ちょ、こわいこわい……。ほんとなんなのあれ……?」


「ミラーボールです」


ミラーボールですと淡々と答えるゼノンはなぜか愉しげで、こちらの感情とは全く釣り合っていない。置いてきぼりな感覚だけが増し、いつの間にか、アンデッドと交戦中であることを忘れていた。


そんな中、このシリアスブレイカーは、指をパチン、と鳴らすと。


「さぁ、ダンシングナイトの始まりです」


いつものように、愉快そうな笑みで言った。


次の瞬間、アンデッドたちがくねくねと動き始めたのである。その様子はまるで、ゼノンのかけ声に合わせ、踊っているかのように見えた。


「いやいやマジでこわいんだけど……? なんで急にス○ラー始まってんの……?」


「集めた光魔法を乱反射させ、エファリス全体に撒き散らしてるからです。アンデッドさんも楽しそうですね」


そう言いながら、ゼノンは自身も腕を振り始めた。いや多分アンデッドさんたちは今死ぬほど苦しんでると思うんですけど。いやもう死んでるんですけど。


「ちなみに光魔法の乱反射なので、一般人は回復しますよー」


そう言うと同時、今度はあちこちから市民の嬉々とした声が聞こえ始めた。


「すごい……どんどん傷が塞がっていく……!」


「あれ、もう痛くない……」


「んんっ! ワシの長年の腰痛が治っていくぞぉ!? 今ならなんでもできそうじゃあっ!!」


なんか治すべきなのか分からない範囲まで回復しているらしい。そのこともあってか、今度は市民たちが踊り始めた。


「喘息が治った!」


「関節痛が無くなったわ!」


「頭痛が消えたぞー!」


あらゆる症状がついでに回復し、楽しそうに踊る市民たち。光魔法の苦しみで、その身をくねらせて踊るアンデッドたち。愉快で楽しい、エファリスのダンシングなナイトが、そこにはあった。

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