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碓氷幸太は謳歌したい

聖域都市エファリスに着くなり、リンファとノアが先に降りていった。どうやら俺たちのことを説明しているらしい。


「……転生者って、やっぱり煙たがられたりするのかな」


知恵の輪をカチャカチャしながら、ルルカがボソッと言った。てかまだやってたの? いい加減諦めろよ……。


「まぁ、そういう部分もあるだろうな。まぁでも、人から嫌われるのなんか、転生者と戦うよりずっとマシ……」


と、会話していると。


「えぇっ! あの方々が!?」


なにやらすごい驚く声が聞こえてきた。ルルカと二人してそちらの方を見てみると、リンファと話している門番らしき人が、こちらを凝視してる様子がうかがえた。


「なんかすっごい見てない……? あの人……」


「あ、ああ……。やっぱり俺たちはお呼びじゃないってか……?」


なんて、二人でこそこそと話していると、門番らしき人がこちらに歩いてきた。そして……。


「あなたが勇者様ですか!!」


口を開くなり、俺の手を握りながら門番はそう言った。


「え」


「いやぁ、転生者の方が来ると聞いてましたので、とても警戒していたのですが……。まさか、勇者様だったとは! それなら安心です!」


「んー、ちょっと待ってくださいね」


興奮しまくる門番をいったん止めると、俺はリンファの方へと歩いていった。


「……お前なんて説明した?」


「いや、私はただコータの実力や、大会優勝者であることを伝えただけだが……」


そう言いながらリンファは、手を後ろに回し、もう片方の手で、銀髪をくるくると巻き始めた。そして……。


「……まぁあと私の勇者、とか言ったような気がする」


「うん、確実にそれだね、誤解の原因。お前恥ずかしがり屋なとこある癖にわりとすげぇこと言うときあるよね」


いくらなんでもチョロすぎないかこの聖騎士。男性経験なさそうなのは大会で薄々思ってたけど、自分の気持ちを吐露するのにあんま躊躇なさそうなのがたち悪い。


「だ、だって、あのときは本当に私はそう思ったから……!」


「いやそう思ってくれんのはありがたいんだけど言い回しがややこしすぎんだよ! 今さっき勇者がいないって話したばっかだったよな!? じゃあなおさら誤解招くじゃん!」


「う、うぅ……ごめんなさぃ……」


反省する子犬のような感じで、萎縮するリンファ。代わりに、ノアが苦笑しながら言った。


「すいません、この子、ときどき天然なところがあって……」


「うん、知ってた」


……まぁ、大したことじゃない。一瞬焦ったが、ちゃんと誤解を解けば……。


と、誤解を解こうと思ったとき、ルルカの知恵の輪を覗きこんでいたゼノンがぼそっと言った。


「……先ほどの門番さんが見当たりませんが」


「は?」


辺りをあわてて見渡すと、確かにいなくなっていた。あれ、いつの間に……。


と、思ったその時。


「おぉ! あれが勇者様か!」


「勇者様~、こっち向いて~!」


「勇者だ! すげぇ本物じゃん!」




――――勇者! 勇者! 勇者! 勇者!―――――




「……なんだこれ」


エファリスの門には、いつの間にか大勢の人が固まっていた。しかも、その全員が、明らかに俺の方を指差しながら、『勇者』と連呼している。


「……あ、解けた」


ルルカが、知恵の輪を外した音がした。


――――――――――――――――――――――――――


「勇者様! ぜひ今晩は私の宿に!」


「いや、私の宿だ! うちならタダで提供できるからな!」


「そんなことより、まずは我がアイテム屋へ! 勇者様にとっておきの品を揃えておりますので!」


周りが死ぬほど騒がしい。


なんだよ、揃いも揃って俺を勇者勇者って……。


―――やれやれ、チート転生者ってのは困ったもんだぜ。




――――勇者! 勇者! 勇者!―――




「そうです俺が勇者です! はい! 勇者! 勇者!」


俺は高らかに手をあげ、その場にいた市民の勇者コールを促した。それに合わせ、周りもひたすらに「勇者!」と叫ぶ。


……あ~あ、なんて気持ちいいのだろう。まさしく、これこそが俺の求めていたチート転生物語。


この世界が平和だったら、俺はこういう生き方がしたかったのは一貫している。俺の理想郷が、ここにはあった。


「はっ、何が勇者だ。俺らの方が強いぜェ?」


むっ、なにやら平和を脅かす影が。どうやらチンピラ三人が、俺に何か、文句があるらしい。


「ちょっと! 勇者様に失礼じゃない!」


その場にいた、金髪ツインテールのニーハイ美少女が、からんできたチンピラにたてついた。


「あぁっ? 嬢ちゃん、生意気だなぁ? いいぜ、俺らが遊んでやるよォ!」


チンピラのうちの一人が、美少女に手を伸ばした――――



「―――――待て」


俺はその手を掴むと、ひょいと捻りあげた。


「あだだだだっ! なんだこの力はっ!?」


「お? わりぃわりぃ。ちょっと本気出しちまった」


「くっ……くっそぉ! お前らぁ! やっちまえっ!」


残りのチンピラ二人が、奇声をあげながら、こちらに向かってきた。


「へへっ、死になぁ! 《アイスランサー》!」


「くらえ! チンピラ秘術、《蛇の死重奏》!」


魔法と、鋭利なナイフが、俺に襲いかかる。すぐ後ろで、美少女が手を合わせながら心配そうに見ていた。


安心して、お嬢さん。


なぜなら、俺は――――






「いいのか? 俺、転生者だぜ?」





転生者、碓氷 幸太はそう言い放つと、チンピラの攻撃をすべて受け止めた。もちろん、レベル9999なのでダメージはない。


「なっ……!?」


「避けない……だとっ……!?」


「ん……? 今、俺に……何かしたか?」


首を鳴らしながら、すまし顔で問いかける。


「ひぃっ!」「うわぁあ!」――――そう叫びながら、走り去ろうとするチンピラたち。


「おいおい、忘れ物だぜ?」


俺はそういうと、手を掴んでいたチンピラを、逃走したやつらの方へ放り投げた。するとチンピラ共は、まるでボーリングのピンのように吹っ飛んでいった。


「もう悪さするなよー」


俺の呼び掛けに、三人とも体を震わせながら、慌てて立ち上がると、再び逃走していった。


「やれやれ……って、あれ、どうしたんだみんな?」


俺を囲んでいた市民たちが、揃いも揃って、目を見開き、口をアワアワとさせている。やがて、そのうちの一人が、震え声で俺に聞いた。


「い、今……いったい何を……?」


「何って……ただあいつらの攻撃を棒立ちで受け止めただけだが?」


俺が頭をポリポリと掻きながら、平然とそう答えると。


「……すげぇ~~!!」


「あ、ありえないっ……なんて力なんだっ……!」


「これが……勇者っ……!」


――――勇者! 勇者! 勇者!―――


俺の周りは再び、勇者コールで埋め尽くされた。


「勇者様っ!」


先ほどの金髪ツインテニーハイ美少女が、俺の方に来るなり、突然、腕に手を回してきた。そして――――





「――――結婚、して下さい……!」






うるうるとした眼差しで、かつ、上目遣いで、俺に言った。



「ははは……別に大したことしたつもりはないんだけどな……。なぁ、ルルカ?」


苦笑しながら、もう一人のチート転生者に問いかける。だがなぜか、ルルカはジト目で俺を見るばかりで、なにも返してくれない。


それどころか、リンファもノアも、なぜか無言のままだ。というか圧みたいなものを感じる。え、なんで?


「ちょ、ちょっとみんな、どうしたんだ? おいゼノン、これはいったい……」


ゼノンはというと、さっきからそっぽ向きながら口元を押さえ、小刻みに震えている。明らかに笑いを抑えているのが見てとれた。


「勇者様ぁ……(はぁと)」


おや、金髪ツインテニーハイ美少女が俺に語りかけているぞ。そういや求婚されてる最中だったか。うーん、でも結婚はまだ早いよなぁ。まずはとりあえずデートから……。


と、ニヤニヤしていた矢先。


「……あぁっもうっ! 寒気がするっ! ほら、行くよコータっ!」


ルルカが俺の反対の腕を強引に引っ張った。それにより、金髪ツインテニーハイ美少女の腕から、するりと抜けてしまった。


「ああっ、勇者様ぁ~」


名残惜しそうに俺を呼ぶ美少女。なんひどいことをするんだ、この極悪魔術師は。ようやく俺のチート転生物語にヒロイン役が現れたというのに!


「離せルルカ! 俺はまだ! あの子の名前を聞いていないっ!」


「なにバカなこと言ってんの? だいたいあんたは勇者じゃないでしょうが!」


「お、俺は! 勇者が現れなかったエファリス市民の方々に少しでも笑顔を取り戻そうと、勇者を演じていただけでっ……!」


「誤解に便乗してチート転生者気取ってただけじゃない! 発想がゲスすぎんのよあんたは!」


ぐうの音も出ない正論に、俺は押し黙ってしまった。でもやっぱり夢を見たいものなのだ。


今あった出来事も、もしかしたらあった世界線……いわゆるifルートなのである。そして、ヒロインはもちろんあの美少女……。


「まだニヤけてんの? ほら、しっかり歩く!」


「あぁ俺のヒロインちゃん~!」


道を曲がり、もうヒロインちゃんの姿は見えなくなった。俺の物語で最初で最後のヒロイン登場回は、秒で幕を閉じた。

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