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最凶VS最強

ゼノンが消えた途端、目の前に巨大なスクリーンが現れた。かつて俺が隕石を受け、ヒキガエルみたいに死んでいた様子を映し出した画面と同じだ。……嫌なこと思い出しちゃったな。


そしてそこには、絶望しきった表情で膝をついている俺の仲間たちと、つまらなそうに俺の遺体を地面に放り投げる女王の姿が、映し出されていた。


「まずは、一人目」


アリスはそう呟くと、涙さえも枯れ、膝をつき、地面を呆然とみているルルカに近付いた。そして、その様子を見下ろしながら、まるでゼノンのような台詞を吐いた。


「一瞬で全員殺すことはできるけど、それだとつまらないわ。せっかくのおもちゃがもったいない。だから、あなたは『二人目』。さ、せいぜいあがいてみせて。このままおしまいなんて嫌よ?」


「…………」


アリスの言葉は、ルルカには届いていない様子だった。アリスは小さくため息をつくと、ルルカの方へ手を伸ばした。




――――その時。





「「一瞬で終わらせられるが、それだとつまらない」。その気持ち、よく分かります。 もしかしたら私とあなた、気が合うのかもしれませんね」






満を持して、あのデタラメ悪魔が現れた。


「………………っ…………!!」


失意の底にいたルルカの瞳に、再び光が宿る。もう来ないかと思っていた、絶望世界の、唯一の光。そんな存在が、目の前に現れたのだ。この時のルルカの感情は、きっと口で説明できるようなものではなかっただろう。


「……あなた、誰かしら?」


「私はゼノン。とりあえずルルカさんは返してもらいますね」


ゼノンは自己紹介もほどほどに、指をパチン、と鳴らすと、ルルカをみんながいる場所へと転送させた。いつの間にか、みんなは動けるようになっており、手をわきわきとさせながら、何が起こったのかを、必死に理解しようとしている。


「へぇ、不思議な力を使うのね」


アリスが、興味深そうにゼノンを観察する。またひとつ、新しいおもちゃが増えた、と言いたげな表情だった。ゼノンはそれに答えず、城の上にいる最凶の女王を見上げながら言った。


「一瞬で終わるのはつまらないのでしょう? ほら、好きに動くといいですよ。あなたは盤面を支配する、『クイーン』なのですから」


そして、俺たちの最終兵器は、スクリーンを見ている俺の方へと顔を向けた。そして、いつもの狐のような表情で、にやりと笑いながら。


「今回ばかりは仕方がないから、私が、直々に、単独で戦ってあげますよ。高次元の存在とはなんなのか、その目に焼き付けるといいです」


……と、希望の幕開けの合図をした。


「とても楽しそうね。けれど、あなたもどうやら礼儀知らずみたい。しつけが必要ね」


そして、それに相反するように、悲劇の終幕を望んだ存在が、その希望を摘もうと、あの言葉を吐く。


「跪きなさい」


「嫌です」


…………………………………………………………………。


「……聞こえなかったかしら。ひざま」


「だから、嫌ですってば」


…………………………………………………………………。


うわぁ……なんだこの空気。すげぇ気まずいじゃん。場が凍るなんてレベルじゃない。時間が止まってる。あれ、イスケの仕業かな? ともかく、あんな空気の中にいなくてよかった……。


アリスの要求は、ルルカたちにも通らなかったらしく、全員「?」を浮かべた顔をしていた。その様子が、より一層、気まずい空気を生んだ。


だが、その中でアリスは、楽しそうに笑っていた。


「素晴らしいわ。『相手の加護を貫通する能力』、『相手の授かったスキルを打ち消す能力』を要求済みの私の力を、どうやって回避したのかしら?」


「回避も何も、加護もチートスキルも持ってない私にその能力は無駄かと」


ゼノンがおどけて答えるのを見て、アリスがさらに、笑い声をあげる。


「あはははっ! 面白いことを言うのね! 気に入ったわ。じゃあ、こんなのはどうかしら」


アリスが再び、その口を開く。


「《水爆》」


次の瞬間、俺たちの世界では言わずとしれた、史上最凶の兵器、『水素爆弾』が、ミスベルの上空から降ってきた。


「な、なぜあんなものが出せる……!? あれはこの世界にはない物のはずだぞ……!!」


松田さんが目を見開きながら言う。それに対し、アリスは日傘をくるくると回しながら言った。


「『私が望むイメージに近いものを引っ張り出す能力』を要求しているからよ。どうやらあの兵器は異世界の物のようね。イメージと同時に、その名称が頭に入ってきたわ」


おいおい……! なんなんだよそのなんでもありな能力は……! ここまで来ると、本当にゼノンと変わらないじゃないか……。


だが、アリスの能力に感心している場合ではない。このままでは、ルルカたちはおろか、ミスベル……いや、その他の国までもが消し飛んでしまう。


「ほら、早く対処しないとみんな死ぬわよ? 私は大丈夫だけど」


そう微笑むアリスの言葉に、きっと嘘偽りはないのだろう。いったいどれだけの《加護》を所持していれば、あれほどに余裕でいられるのか。もはやチートなんて次元ではないことを、俺は再認識した。


では、肝心のゼノンはというと……。


閃光花火に火を灯そうとしていた。だが、しけっているからのか、何度も着火を試みては失敗を繰り返している。


「お、おい! 何をしているんだ君は!」


「そうだぞゼノン殿! 今はそれどころではないだろう!」


さすがに心配し始めたのか、あいつのデタラメっぷりを知らない松田さんとリンファが同時に注意を呼び掛ける。ノアはその横で、ぎゅっと手を合わせていた。そうしている間にも、水素爆弾は、地上へと接近していく。


「う~ん、なかなか点きませんね…………。………おや」


水爆着弾数秒前。


ゼノンは呑気にふらぁ、と天を見上げると。


「ふっ」


息を吹いた。


次の瞬間、水爆はまるでアニメの世界の表現かのように、その軌道をくるくるとさせながら、コミカルなSEと共に遥か上空まで上っていき……。


バァン、と弾けて、綺麗な『花火』となって散った。


「ちょうどいいところに花火がきました。た~まや~」


常套句を天に向かって告げるゼノン。天に向かって口を開ける俺の仲間たち。そして……。


「……………………」


今まで、一度たりとも焦りをを見せなかったアリスが、天を見上げて、絶句していた。


「本当になんでもできるんですねぇ。すごいすごい」


パチパチと乾いた拍手をするゼノンは、その場ではとても異質に見えた。アリスは、その拍手がなる方へゆっくりと顔を向けると、言い放った。


「《時間逆行》」


アリスがそう言うと同時、スクリーンに映し出された映像は、全く違うものとなった。


言葉通りに受けとるなら、彼女はどうやら、過去に向かっているらしい。その過去へと移動する、奇妙な空間の中で、アリスは一人、笑い声をあげながら言った。


「今殺せないなら、あいつの元を絶てばいいじゃない」


ゼノンが誕生した時代へ向かって、元を絶つ……? そんな方法、考えもしなかった。これはもしかすると……かなりまずい状況かもしれない。


元を絶たれたら、きっと現在のゼノンの存在も消えてしまう。だが、肝心のゼノンがアリスのそばにいない。なにやってんだあいつは……! まさか、時間移動はさすがのあいつでも不可能だったのか……?


俺がスクリーンを食いつくように見る中、アリスは難なく、そのまま逆行していき……。


そして、謎の空間にたどり着いた。


「ここが、あいつの……。ふふっ、じゃあさっさと済ませて、終わりにしましょうか」


アリスは、謎の空間で、一際大きな声で言った。


「この世界の『ゼノン』は、消えなさい」


アリスが言い終わると同時、スクリーンは強制的に現代へと遡り――――


――――――――――――――


―――――――――


―――




パァンっ☆




「お帰りなさい!」


ゼノンが、にっこりとしながらクラッカーを鳴らした。クラッカーの中身がアリスにぱらぱらと降り注ぐ。


「どうでしたか、時間旅行は。やっぱり時差ボケとかあったりします?」


「…………?」


とうとうアリスが、固まった。


「あれ、アリスさん? どうしました?」


「……なんで……確かに……私は」


「私の起源を根絶したはず、ですか? うーん、でもそれって私に『始まり』という概念があればの話ですよねぇ?」


さらっととんでもないことを、高次元の存在が言った。もはや人が考えうる論理を超越し過ぎていて、何を言ってるか分からない。……あぁ、なるほど。これじゃ説明を聞きすぎたらバグるわ。


「は……? 何を言っているの……? 全てには『始まり』があって……それで……」


「まぁあなたたちはそうなんでしょうね。でも私は高次元の存在ですよ? 『始まり』とか『終わり』とか、そんなつまらない枠に収まるわけないじゃないですか。勝手にあなた方の常識に巻き込まないでいただけますかね」


ちょっとマジで何を言ってるか分からない。ただでさえわけ分からん能力を見せつけられているのに、そんな支離滅裂な説明なんか聞いたら、いよいよ頭がバグりそうだわ。


「……《時空転移》!!」


アリスがついに、声を荒立てながら能力を使い始めた。再び、スクリーンが変わる。だが、次に映し出されたところにアリスの姿はなく、ゼノンだけが取り残されていた。


そこは、何もない、ただ真っ白な空間。……いや、空間……なのか? スクリーンごしに見える情報量ではただの『白い空間』にしか見えないが、なぜか違和感がある。さすがのゼノンも、これから起きることを想像できないらしく、首を傾げていた。


そんな中、その『白い空間』に、アリスの声が響く。


「『他世界の知識を総動員』し、『人類が考えうる最大の方法での殺害』を要求」


そう要求すると同時、スクリーンの中心に、小さな光が生み出された。


「……ねぇ、私たちが生きるこの世界って、どう誕生したか知ってる?」


アリスが、意味ありげな言葉を吐く。対し、ゼノンは動かないままだ。


「常識も物理法則も効かないなら、同じくらい、デタラメな物をぶつければいいと思うの」


……まさか、アリスがやろうとしてることって――――――







「《ビッグバン》」







次の瞬間、スクリーンが強烈な光で埋め尽くされた。









そして、スクリーンから放たれた光は、徐々にその光度を失っていき……。








「ありがとうございます~! しけった閃光花火にようやく火が灯りました~!」


ゼノンがミスベルで閃光花火をする映像に切り替わった。








「《ビッグバン》で点火するやつがいるかぁっ!!!」


俺はついに抑えきれず、スクリーンごしに叫んだ。なんでピンピンしてんだよとか閃光花火ごと消えんだろとかいろいろツッコみたいけど、誰もいないこの空間でそれをするのは虚しいからこれくらいにしておこう。


「ひっ……」


アリスは、ビッグバンからひょっこり生還してきたゼノンを見るなり、その場で後ずさった。


「ほら見てください。これは閃光花火と言いましてね、小さくプツプツと光るのが特徴で……」


ゼノンは、そんなアリスにお構い無しに、閃光花火の魅力について語っていた。もう何もかもが場違い過ぎる。宇宙の誕生より閃光花火ってお前……なんかもういいや……。


「よ」


「はい? どうしました?」


「寄らないでっ!!」


アリスが必死に、後ろへ下がりながら《要求》する。そんな要求、当然あのゼノンに通じるはずがない。


コツ……コツ……と、革靴の心地良い音を響かせながら(あと閃光花火持ちながら)、ゼノンがアリスに近付いていく。一見すれば、なんてことないはずの光景なのに、経緯を見せつけられた側からすれば、これほど“絶望的な状況”はない。


「なんなのあなた!? 要求も効かない、水爆も効かない、時を遡っても殺せない、ビッグバンも効かない……!!! どうしてなの!?」


アリスがガタガタと震えながら、自身が試してきた攻撃方法を捲し立てる。それに対し、ゼノンは、それこそ、いつものように。






「うーん、多分、私が超強いからじゃないですかね?」





と、もはや決め台詞になりつつある、アホみたいな理由を答えた。

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