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ゼノンの真意

―――――――――――――――――


見覚えのある空間で、俺は目覚めた。


「……あぁ、俺、また死んだのか…………」


そこは、かつて隕石をくらい、死亡したときにきた場所だった。もし、あの時と状況が同じだとすれば、この空間にはもう一人いるはずだ。


「いるんだろ、ゼノン」


屋敷の中で、普段あいつを呼ぶトーンで、その名前を呼んだ。


「はい、後ろに」


「うっわっ! びっくりしたぁ! お前、だから出てくるときはもうちょっと考えて……」


そこまで言いかけて、止めた。今さらこんなやりとりをしたところで、俺が死んだことはおろか、ルルカたちが絶望的な状況にいることに、変わりはない。


そして、ゼノンが、この世界の攻略に、飽きてしまったことも。


「どうしたんですか、コータ君?」


「いや、別に。ただ、まぁ……」


ここで、ゼノンに懇願したところで、きっと動きはしないだろう。結局、どこまでいっても、こいつと俺たちでは、何もかもが別次元。こいつからしてみれば、飽きたゲームを放棄することに変わりはない。……きっと、それくらいの認識なのだ。


でも、どういう認識とか、意思とかじゃない。それで救われた者がいる。……生前、とある聖騎士が、そんなこと、言ってたっけ。


……だから。


「今まで、ありがとう」


感謝の気持ちだけを、しっかり伝えた。


「……コータ君」


ゼノンが、今までにないくらい、真剣な表情で、俺の名前を呼んだ。構わず、俺は続ける。


「お前がいなかったらさ、とっくに俺たちって全滅してたわけじゃん。本来なら、絶対に楽しめなかったはずの世界だったけど……。それなりに、楽しかった。だからさ、ここまで夢見させてくれて、ありがとな」


俺の台詞に、いつもなら茶化すはずのゼノンが、目を閉じながら、相槌を打つようすが、本当に物語の最後を告げているようで、少し、寂しくなった。


そして、ゼノンが俺をまっすぐ見つめて、言った。


「……君はよくやった方ですよ、コータ君。花火の時にも言いましたが、君は、本当に、よく戦い続けました」


「ったく、お前らしくないな。そこはもっと俺を貶すところ……」


「いいえ、貶しませんよ」


ゼノンは、少し寂しそうに笑った。また……そうやって、見たことのない表情をする。思えば、あの時のゼノンらしくない部分の数々は、きっと、飽きつつある自身との葛藤だったのかもしれない。


「君は、本当によく頑張ってくれました」


ゼノンが、再び俺を称える。改めて、面と面を向かって言われると、やはり恥ずかしい。そんな、気恥ずかしさと、


「……あれ、俺、泣いてんじゃん」


涙が、俺の中から溢れてきた。目の前にいるはずの、ゼノンの表情が、だんだん見えなくなってくる。くそ、一番泣きたくない奴の前で泣いちまった。


ゼノンは黙って、胸のポケットからハンカチを取り出した。


「こういうときぐらいは、受け取ってください」


「……ぉぅ」


涙声になりつつある自分の声に、俺はまた恥ずかしくなった。


もう、これで終わりなんだな。


残された仲間たちが無事であってくれたらいいな。そうはいかなくても、せめて、苦しまずに……。


「じゃあ、私はもう行きます」


ゼノンの声が聞こえた。その表情は、視界がぼやけてよく見えない。


俺にゼノンを止める権利はない。それにあいつは、懇願したところで、その足を止めるようなやつではない。それは、俺が一番理解していた。


「そうか……」


「ええ、我慢できないので」


……あいつがどういう性格かは、分かっているつもりだが、まさかそんなに早く帰りたかったとは。どうやら、ゼノンも無理していたらしい。


「なんか、ごめんな? 今まで、そこまで我慢させちゃって」


申し訳ない気持ちを言葉に乗せると、ゼノンはこちらに振り向き、こくん、と頷いた。


「本当ですよ。だってあまりにもコータ君や君の仲間が頑張るんですもの」


「……ちょっと待って、なんか噛み合ってない気がする」


完全にお別れムードの中、なにやら違和感がさっきから拭えない。俺は引っ込みつつある涙をハンカチで拭きながら、聞いた。


「お前は、飽きたんだよな?」


「ええ、飽きちゃいました」


「……何に?」


「何ってそりゃ……私の活躍の場がほとんどないことですが」


え、ちょっと待ってこいつなに言ってんの? 


「いやいやいや! お前充分活躍してたよな!? 何が気にくわないの!?」


ゼノンはそこで、わざとらしく口を尖らせると、言った。


「そりゃあまぁ、最初の村とかは活躍しましたけど……。魔術師の始祖の時は、実質ルルカさんの功績ですし、イスケ君のときも、なんか不完全燃焼で終わっちゃいましたしー」


俺は「お、おう……」としか言えず、ひたすら聞くだけのポジションとなった。よっぽど我慢していたのか、ゼノンの口がだんだん早くなっていく。


「おまけに『荒地の影』も攻略しちゃいますし。私が一番最後に活躍したのって、多分、《ウタカタ》で消えた人たちを引っ張りだした時な気がするんですよね。そのあとはほとんど、戦闘以外のところで活躍してただけですし! ずるいですよコータ君、仲間と仲良く、しっかり冒険しちゃって! 私だっていろいろ解放したいんですよ!」


「え、なに? お前さっき俺が頑張ってるの褒めてくれたじゃん。あれはなんだったの?」


「は? 皮肉に決まってるじゃないですか。だって君、ただの雑魚転生者だと思っていたら、そこそこやっちゃうんですもん。まぁ確かに? あんま介入せずに見届けるスタンスでしたけど? あくまでサポートに徹する気持ちでいましたけど? さすがに限度ってものがあるでしょう! 私だって! たまには暴れたいっ!」


「おぉ……お前今日めっちゃ喋るじゃん……」


ある意味(?)その胸のうちにある感情を吐露した、高次元の存在に、俺は引き笑い気味でいた。


……と、途中までは聞き流していたのだが、ふと、重要な、それこそ最重要なことに、疑念を抱かずにはいられなかった。


「あのさ……じゃあ一つ聞きたいんだけど」


「なんです?」


「なんで俺死んだの? そんなに戦いたかったんなら、お前が早く来れば、俺死ななくて済んだよね?」


「あー……」


そこでゼノンは、顎に手を当て、うーんと唸りながら上を見上げた挙げ句……。


「どうせコータ君のことだからまたなんとかするだろって思って見てたら死んじゃいました」


てへっ☆と舌を出しながら言った。


「なんとかできるわけねえだろ! あの状況で、しかも相手はなんでもできるお前みたいな奴なんだぞ!? よく俺にそこまで期待できたものだよねぇ!?」


「はい、買いかぶりすぎでしたね。まさかあんなあっけなく死ぬとは思いませんでした。やっぱり君は雑魚転生者ですね」


「ゼノンっ……てんめぇぇえっ…………!!!」


さっきまでの俺の涙を返してほしい。俺がどんな思いでアリスに殺されたか分かってんのかこいつは……! ああああああダメだ今すぐにぶん殴りたいいいぃぃいいい!


俺の、やり場のない感情を爆発させているようすを、やつはクスクスと笑いながら見ていた。そして、ひとしきり笑い終えた後……。


「じゃあ、今度こそ行ってきます。君はせっかく死んだのですから、その特等席で、せいぜい下界の様子でも見てなさい」


そう言って、ゼノンは指をパチンっ、と鳴らし、消えた。

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