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可能性

「嘘……そんなことって……」


ルルカが、口を押さえながら、絞り出すように言った。


「あくまで可能性の話だ。ただ、松田さんの言うとおり、今までの敵はみんな、似たような目的で動いてる気がする。まぁ、その目的を達成し続けたところで、『神以外の何者か』に、どういうメリットがあるのか分からんけどな」


そこまで話したところで、再び静寂が訪れた。ただの想像に過ぎない話だったが、振り返ってみると、わりと核心めいたものに近付いた気がする。これはいよいよ、エファリスで情報収集に努めた方がいいかもしれない。


各々が今の話を吟味し、黙りこくる中……。


「で? 話は終わったんですか?」


いつものシリアスブレイカーであるゼノンが、閃光花火を手にしながら、気の抜けた声で言った。……え、お前何持ってんの?


「あー! 花火だぁ! ねぇ一本ちょうだい! 閃光花火じゃなくて、こう、ブシューッてなるやつ!」


おいさっきまでのテンションはどこいったんだシリアスブレイカー2号。


「いいですよ。とりあえず十本くらいどうぞ」


ゼノンもノリノリで花火渡しちゃってるし。ルルカはルルカで、まるで風船をもらった子供のようにはしゃいでいる。


「ハナビ……とは、なんでしょうか? リンファは知っていますか?」


「い、いえ……。ただ……なんというか……すごく綺麗…………。……あっ、いや、はい、よく分からないですね! 魔法かなにかでしょうか!?」


聖職者組は、初めて見る『花火』に驚きを隠せないでいるようだ。リンファにいたっては、さっきから乙女チックな顔と、騎士としての顔を交互に入れ換えている。無理すんな乙女騎士。


「たはは……花火なんて何年ぶりに見たかなぁ……。社員旅行で見た気もするけど、僕はその時バーベキューの片付けばかりやらされていた気が……」


おぉ……どんどん松田さんがやつれていく……。花火を見て傷を抉る人もいるんですね……。大人になりたくねぇなぁ。


それぞれの花火に対するリアクションを観察していると、いつの間にか、ゼノンが俺に花火を差し出してきていた。


「はい、ヘビ花火です」


「あのさぁ……。なんてマニアックなとこ突くのお前は。俺もブシューってなるやつがいいんだけど」


そう言いながら、その花火を二刀流でぶん回してるルルカ(十九歳)を指差した。


「いいじゃないですか、ヘビ花火。あの黒い塊が湧き出てくるくだりが好きなんですよ」


「ちょっと分かっちゃうのが悔しいな。……まぁ、せっかくだからもらっとくよ。さんきゅ」


そう言って、素直に受けとると、ゼノンはにっこりしながらウィンクした。その後、全員に花火を渡していき、その夜はなぜか花火大会となった。


「ノア、リンファ! 見て見て! 二刀流大回転斬り~!」


「あ、危ないですよ、ルルカ! リンファ、あのような真似はしてはいけませんからね」


「か、カッコいい……! ルルカ、私にも貸してくれ!」


「お、乗り気だね~? いいよ、はいどーぞ」


「ちょ、ちょっとリンファ……!」


「す、すいません……! 花火が綺麗で、カッコよくて……つい……!」


「たはは、女の子たちは元気だね~」


「ほぉら、松田さんも一緒にやるよ!」


「え!? 僕なんかが参加していいのかい!? ……なんかおじさん嬉しすぎて涙出てきた……」


花火の光と、人の賑わいで照らされた、暗い森。鬱屈した考えはいつの間にか消えていて、いつまでもこうしていたい、という思いだけが、ただただ残った。


「はい、花火セットです。ご家族で楽しむといいですよ」


ゼノンのやつ、御者にまで花火渡してる……。配慮が行き届いてるなぁ。


「これで一発当てようと思ってるので、できるだけ外で、楽しそうにやって下さい」


「え、えぇ……分かりました……」


あ、マーケティングだったわ。この期に及んでやっぱりそういうことしか考えてなかったか。ゼノンらしいっちゃらしいけど。


こうして、一時の楽しい時間は過ぎていった……。


―――――――――――――――――――――――――――


みんなが寝静まった森の中で、俺は一人、夜空を見上げながら考えふけっていた。


悪の転生者……。転生システムの運が悪かっただけでなく、それに乗じるように“造られた悪”の可能性……。


確かにこの世界は、神々に見放された世界である。よって、転生時に何者かが悪を付与したとしても、全転生者を悪にする、みたいな露骨なことでもしない限りは、神々に感知されることはないはずだ。実際、ゼノンも管理の緩さをいいことに、この世界に遊びにきてるみたいだし。


だが、それをしたとして、なんの意味があるのだろう。松田さんの言う『犯罪者にも犯罪理由がある』の理屈でいけば、当然その親玉にもなんらかの理由があるはずだが……。


この世界を絶望に陥れる理由など、分かる気がしない。そもそも、転生者に干渉できる力があるなら、この世界を即破滅させることも可能だろうに。


「……ちょっと頭、冷やしてくるか」


結局、まったく寝付けそうになかったので、仕方なく俺は近くの水辺へと、足を運んだ。


そらに浮かぶ月が、水面を宝石の如く輝かせる。よく考えたら月ではないのかもしれないが、まぁ綺麗だからなんでもいい。


だが、俺はその場所でさらに綺麗なものを発見してしまった。


「……ノア?」


俺の呼ぶ声に、その小さな背中をくるっと回転させたのは、ノア・フェアリーベルだった。


ノアは、こちらに来ようともがいていたが、足を川に付けていたらしく、動きがぎこちなかった。俺はなんとなく申し訳ない気持ちになりながら、「そのままでいい」とだけ伝えると、横に座った。


「すいません……。よく眠れなくって」


「実は俺もなんだ。ルルカは爆睡してたけど」


あの魔術師ときたら、明日には女王討伐に向かうってのに、一番花火を消費したあ挙げ句、いつの間にか寝ていたのである。そのメンタルが羨ましすぎる。


ノアはふふっ、と小さく笑うと、川をぱちゃぱちゃと跳ねさせながら、言った。


「さっき、コータが話していたことが気になって……」


「ん? あぁ、悪い転生者の話か。まぁあれはただの憶測……」


「あ、いえ、その……実は、ずっと言えてなかったことがあって……。もしかしたら関係ないかもしれなくて、あの場では言い出せなかったんですけど」


ノアは、そこで足を止め、俺の方に向き直った。いきなりのことだったので少しうろたえたが、俺は姿勢を正すと、ノアの次の一言を待った。


「……悪い転生者からは、瘴気のようなものが漂っていました」

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