宴
その後、俺はそのまま屋敷へ帰宅し、ベッドの上にダイブした。
とりあえず、大会は終わった。その中で、さまざまな問題が新たに見つかった。
その一つ一つを解決していけば、いずれは世界を救うことになるのだろうか。……どちらにせよ、明確なゴールが見当たらない以上、目の前の事態を解決するしかないか。
「まずは……女王……それから……エファリス……」
うわ言のように、これからの目的を呟く。そうしているうちに、眠気が強くなってきた。やはり大会での疲労は凄まじかったらしい。
「……」
そしてそのまま、俺は眠りについた。
――――――――――――――
『……コータ』
誰かの呼ぶ声がする。俺は辺りを見回したが、視界を霧で遮られ、その声の主が見当たらない。
『誰だ……? どこにいるんだ?』
やみくもに、その空間を走り回る。いまいち進んでいる気がしないが、それでも俺は足を止めなかった。
そして、しばらく走った後――――。
『……あれは…………』
少し遠くに、ぼんやりとした人影が見えた。何人かいるのは分かるが、その正確な人数は分からない。その影は、ピクリとも動かず、ただ、そこにあるだけだった。
『そこにいるのは誰だ?』
こちらから呼び掛けても、何も反応がない。
やがて、霧が徐々に濃くなっていった。
『おい、ちょっと待って……』
なぜだか、俺は寂しい気持ちになりながら、再び人影に向かって呼び掛けた―――――
―――――――――――――――――――
「起きて~っ!!!」
「のわぁあぁっ!!?」
突然のルルカの声に、俺は飛び起きた。
ふと横を見ると、ルルカがニコニコしながら突っ立っていた。
「え、なに……」
「いいから! はやく食堂まで下りてきて!」
ルルカはそういうなり、俺の部屋の扉を乱暴に開けて出ていった。なんなのあの勢い。台風かよ。
「いつの間に寝てたんだ俺は……」
頭をポリポリ掻きながら、階段を下りていく。なんか夢を見ていたような気がするが、あまり思い出せない。だが、疲れはそれなりに取れていたらしく、足取りは軽かった。
下の階にに辿り着いた俺は、食堂へと向かった。
扉の前に立つと、やけに中から賑やかな声が聞こえた。どうやら、うちのパーティーメンバー以外にも誰かいるらしい。
「なんなんだ一体……」
まだおぼろげな意識の中で、ぼそっと呟きながら扉を開けた。
すると、
パァン☆
「コータ、優勝おめでとう~!」
ルルカが俺の顔面にクラッカーをぶっぱなしてきた。
「うぇっぷっ!?」
クラッカーの中身という中身が、俺に降り注ぐ。ルルカの身長的に、少しクラッカーを上に向けたら丁度俺の顔にかかるようになっている。やつはそれを計算に入れなかったらしい。
「あ、ごめん」
「いや、大丈夫だ。ルルカだし仕方ない」
「ん? もしかして貶してる?」
ルルカが二発目のクラッカーを構えながらにじり寄ってきたので、俺は慌てて話題を変えた。
「ってか、松田さんとか、リンファもいるじゃん……。ポーラにソフィアも……あれ、ケティまで!」
俺の言葉に、最初に反応したのは松田さんだった。
「もちろんさ。優勝者を祝うのは当たり前じゃないか」
「い、いや、でも……」
「分かってる。これからの事、だろう? でもさ、優勝したのは事実だし、常に気を張ってるのは疲れてしまう。だから、今日ぐらいは祝わせてくれ」
それに賛同するように、リンファが言った。
「そうだぞコータ。ただでさえお前は、表彰式でも暗い顔をし続けていたじゃないか。ここは素直に祝われとけ」
「リンファ……」
消化不良のまま終わってしまい、結果として残ったのが『不安』だけだった大会。
だが、それを明るく飾ってくれたのは、他でもない仲間たちだった。
だから。
「……頑張っててよかった」
つい、そんな言葉が出てしまっていた。
「……ほら、今日の主役は席に座る!」
ルルカがなにかを察してくれたのか、俺の背中をバンバン叩きながら、特等席へと誘導した。痛い。
「じゃ、私エターナルドリンク取ってくるから!」
俺を座らせたあと、ルルカはそう言うと、ケティに呼び掛けた。ケティは「ふふんっ」とどや顔をしながら、勢いよく立ち上がった。
「実はね、この宴に用意されたエターナルドリンクは、全部ギルドからのものなんだ。ぼくが厳選したんだよっ」
「お、おう……なんかいつもよりテンション高いな、ケティ。酔ってるのか?」
「酔ってないよ! ただちょっと獣人が気持ちよくなっちゃう成分が入ってるこの『エターナルドリンク(もふもふ味)』を飲んでるだけだよ!」
そう言いながら、ケティは誇らしげに、酒瓶に近い入れ物に入ったエターナルドリンクを掲げた。なぜ誇らしげなんだ。
「ほぉら、行くよケティ。コータに合うやつを探すの」
完全に保護者と化したルルカに、ケティは小さく「にゃー」と鳴きながら、首根っこを捕まれて連れていかれた。……ギルドのお仕事ってやっぱ疲れるのかな。
「んく……んく……」
こんなカオスな空間でも、ノアはエターナルドリンクをちびちび飲んでいた。俺がその様子をぼーっと見ていると、こちらの視線に気付いたのか、ノアは少し照れくさそうに手を振った。
「お兄ちゃん、ノアちゃんのこと見すぎ」
いつの間にか俺の横に移動していたポーラが、頬を膨らませながら言った。
「でもクッキーあげちゃう」
そう言いながら俺の皿にクッキーを一枚置くと、とてとてと去っていき、リンファの方へ向かっていった。
リンファは、突然やってきたポーラにどぎまぎしながらも、しゃがみこんで、「あーん」の口をした。どうやらクッキーを食べさせてあげる展開になったらしい。
対して、ポーラの姉であるソフィアの方はと言うと、ノアとずっと話し込んでいた。
「それで……回復魔法には光のマナが必要で……」
「なるほど……ノアさんは教えるのがお上手で分かりやすいです」
ソフィアはうんうんと頷きながら、なにやらメモを取っていた。……もしかして聖職者志望なのか?
「もう、『ノア』でいいですよー。一緒に街中を駆け巡った中じゃないですか」
「え~? じゃ、じゃあ……ノア」
「ぎこちないです」
「もう~いじわるしないで~」
ソフィアとノアがそう掛け合いながら互いの体を突っつき始めた。君たちいつからそんな仲良くなったの? てか女の子特有のあのじゃれ合いなんなん? あと街中駆け巡ったって何? プチクエの話? もう尊いが尊すぎてバカになるわ。
「はい、おまたせしましたよっと。はい、コータに合うやつ」
ケティと共に戻ってきたルルカが、俺の前にエターナルドリンクを置く。
「おぉ、ありがとな」
俺はそれを手に取ると、そのまま口へ運んだ。すると……。
「……んく………ぶっ、ちょ、ちょっと待て、なんだこれっ! なんかやばい、舌やばいっ!!」
なんかやたらに刺激が強い。味は普通にうまいが、炭酸がだいぶ強力な気がする。
ふと、目の前を見ると、反対の席で、ルルカとケティが笑うのを我慢している様子が見てとれた。
「お前ら……なに持ってきたんだぁ……?」
恨めしそうに問いかけると、二人はドッと笑いだした。
「あっはっは!!! ほらね、コータのリアクション面白いでしょ!?」
「ふふっ……! 確かに……! ぼくの同僚でもあんな反応にはならなかったよ……!」
やっぱり意図的なものだったらしい。
「質問に答えろー! まだピリピリすんだけどマジでなんなんだこれぇ!」
よほど俺の反応が面白かったのか、ケティはテーブルをバンバン叩きながら爆笑しつつ説明した。
「ぶふっ……それはね……エターナルドリンク(煉獄味)だよ。あまりの強炭酸っぷりに、即販売停止になった希少品さ。まぁその在庫の一部をギルドが抱えているから、こういった場に持っていくとめちゃくちゃ盛り上がるんだ……ふふっ」
こ、この泥酔獣人幼女め……。やっぱりこの子、本質はSだ。おとなしく見えて、リミッターが外れるとだいぶキャラが変わるな……。
「コータ君もやられたかい……。実は僕もなんだ……」
松田さんが、たはは、と笑った。被害者は他にもいたのか。あまりおじさんをいじめるんじゃない、かわいそうだろ!
「でもうまいんだよね…………」
「……はい、正直むちゃくちゃうまいっす」
被害者の会になるかと思いきや、普通に味の感想会となった。なんだかんだ、信頼と安心のエターナルドリンク、味はしっかりうまいのである。
「つーか、ゼノンのやつはどこいったんだよ」
未だゲラゲラ笑うルルカに、俺は問いかけた。ルルカは涙を拭きながら、呼吸を整え、言った。
「こんだけエターナルドリンクがある中で、あいつが参加すると思う?」
「ありえねぇな」
言われてみればそうである。ましてやエターナルドリンク(煉獄味)なんか飲ませた日には、もしかしたらあいつを倒すことができるかもしれない。
「……なぁケティ。煉獄味、まだ残ってるか」
「んー? たくさんあるよー?」
「一本くれ。もしかしたら使うかもしれない」
「使う……? よく分かんないけど、いいよ。なんなら全部置いてく?」
「いやそれは勘弁してください」
とりあえず、対ゼノン用兵器は確保できた。問題はどう飲ませるかだが、まぁそのとき考えりゃいいだろ。
いつか、さんざんいじり倒してくれた分を返してやるぜぇ!




