バランスブレイカー
飛び散る転生者の肉片。男は、その一部を身に浴びながら、胸ポケットからハンカチを取り出すと、慣れた手付きで付着した肉片を、さっと払った。
その光景を見て、俺は変な笑い声を出してしまった。いや、だって、こんなの……笑うしかないだろ。即死レーザー(追尾式 & 乱射可能 & 弾数無制限)持ちのチート転生者が、いとも簡単にやられてしまった。
あの転生者には《精霊の加護》がついていた。その加護を持った者は、【魔法&呪術 無効】【0秒リカバリー】が付与されるチート加護。致命傷を与えても、なんなら爆散させても『0秒』で全回復する。つまりは倒せない。本物のチート野郎だ。
だが現実に、その転生者が今、爆散した。首を消された時点で《精霊の加護》が発動していてもいいはずだったのに。加護を解除する方法なんて聞いたことがないし、あったとしても【魔法&呪術無効】の相手に通じるわけがない。
「それにしても、逃げることないですよね。あんなに立派な加護を持っているのだから」
いつの間にか取り出していた黒い手袋をはめながら、男は言った。……まさかこいつ、俺の心が読めてるんじゃないだろうな。
疑心暗鬼になりながらも、「そりゃあ、」の一言をやっとこさ出した俺は、さらに続けた。
「あんたみたいなメチャクチャなのが出てきて、あんだけメチャクチャなことしたら、ああなるよ。自分の能力さえ、信用できなくなる」
「へぇ、そういうものですか」
つまらない、と言わんばかりに、男は呟いた。手袋の感覚を試すように、手をにぎにぎしている。
「なぁ……実際のところ、どうやってあいつを倒したんだ? レーザーだって簡単に弾いちゃうし、あれだけダメージを食らっても、再生する。あんた、一体どんな『チート能力』持ちなんだ?」
俺は今起きた一連の流れの、まっとうな説明がほしくて、男に訊ねた。あれだけのことをする男だ、きっと複数のチート能力を持っているのだろう。やはり【不死身】はあるだろう。【手で攻撃をはじく能力】とかもあるんだろうか。
「チート? そんな物、持ってませんよ」
不思議そうに首を傾げ、「何言ってんのお前?」といった眼差しで、こちらを見据える男。……いや、首を傾げたいのはこっちなんだけど。
「そんなはずない! じゃあなんで勝てたんだよ!」
誰もが疑問に思う、その至極当たり前な問いかけに。
「だって私、めちゃくちゃ強いですもん」
それこそ、『当たり前』な答えを返してきた。