デタラメすぎる男
もはや、これ以上驚くことはなかった。ただただ、脳がショートしているのだけが感じ取れる。
さっきからなんなんだ、あれ。
直撃したら死ぬレーザーを手ではらう。
体に無数の穴が空いてるのに動く。
ポテチから新しい顔を取り出してはめ込む。ア◯パンマンかお前。
とにかく、その何もかもが異次元で、人間が認識できる範囲をとうに超えていた。おかしい。意味が分からない。what?
それは敵も同じようで、もう考えるのをやめている様子だった。今起きた、トンデモ人体マジックを、認識しきれていないのだろう。
奴もチート能力と言う意味では人外レベルだし、正直言えば、むちゃくちゃな能力者だ。にもかかわらず、それさえも遥かに凌駕する芸当の数々。そんなものを見せられたら、誰でもそうなる。
「さすがですね~。発狂する演技で、注意を惹く! まんまと油断してしまいました。もうちょっと周りを確認するべきでしたよ」
男はまるで「あの映画見た? 良かったよね~アレ!」みたいなトーンで語り始めた。
「つい、レーザーをはたくのが楽しくって夢中になってしまいました。それにしても、機転は利くし、チート能力も使いこなすなんて……。まるで転生モノの主人公みたい!」
『そうそう、首がポーンって! 視界がグルグル~って! いやぁ、ジェットコースター乗ってる気分でしたよ』
今度は地面に落ちた首が、急に喋り始めた。
『ところで、私はいつまで地面とキスしてればいいんですかね』と首。
「後で拾ってあげますよ。なんなら家に飾っときましょうか」と男。
『おお! 英雄として神棚に置かれ、奉られるわけですか! 悪くない、悪くない』と首。
「なんなら頭に電球突っ込んで、間接照明として置くのもオシャレでは? インテリアとして映えますよ」と男。
もうダメだ。俺は多分、あまりにも絶望的な状況に、きっと精神をおかしくしたのだろう。目の前で、首と男が漫談している。俺は何を言っているんだ。てか何を見ているんだ。
だがどうやら、俺がおかしくなったわけではないらしい。その光景を見ていた敵の転生者が、とうとう逃げ出したからだ。
「うわああああああああああああっっ!!!」
今度は演技ではなく、本物の発狂に聞こえた。さっきまでの威勢は完全に失われ、自身の身の危険を案じて、一目散に逃げる転生者。完全に、形勢が逆転していた。
「あれ、どうしたのですか。もうおしまいですか?」
その転生者の横を並走する、タキシードの男。その手には、自分の首が乗っている。それを見てさらに発狂する転生者。
「やめろ、近寄るなぁ!! やめろ! やめっ」
急に転生者の声が途絶えた。また何か起きたのだろう。もうお腹いっぱいなんだが。いったいどうしたというんだ。
ああ、そうなっちゃったのか。
転生者の首が無くなっていた。これじゃ、道理で声が出せないわけだ。声帯ないもん。そりゃ無理だよな。あれ、俺もしかして壊れ始めてる?
そんな、頭を失った転生者の体は、惰性でまだ走り続けていた。そして、それと並走していたタキシードの男は。
その転生者の体に、自分の頭を乗っけた。
「ありゃ、インテリア計画は断念したのですか?」
転生者の体を手にいれた【元】首が、首を傾げる。
「ん~、そのつもりで首を乗せたつもりだったのですが……。なんかアンバランスですね」
う~ん、と、唸りながら【元】首に語りかける、タキシードの男。そしてしばらく、唸り続けた後……。
「ダメだ、やっぱやめにしましょう。はい、爆散!」
「解散!」と同じトーンで言いながら、指をパチン、と鳴らした。次の瞬間、【元】首は、爆笑しながら爆散した。