一回戦を終えて
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激しい(?)戦いも終わり、俺は自分の控え室へと戻っていた。最初に皆でいた場所は、いわゆるロビーみたいなもので、基本的には一人一人に部屋が割り当ててある。なんかマジで芸能人になった気分だ。
転生してから一年……。ようやく自己肯定感というか、承認欲求的なものが満たされてきた気がする。なんせ、この世界にいると無双できないからなぁ。でもやっぱ、チート転生物語は称賛されてなんぼだよな! 俺が欲しかったのはこの感覚だよ!
と、愉悦に浸りながら、自室の部屋を開けると。
「あ、非転生者に負けそうになってた最弱転生者のコータ君じゃないですか!」
あのチート泣かせのデタラメ悪魔がいた。
初手嫌味はこの際スルー……というか慣れた。だが問題はそこじゃない。なんでこのデタラメ悪魔エプロン着てんの? なんで手にたくさんのアイテム抱えてんの? てかなんで俺の部屋にいんの?
俺が絶句しながら扉の前で立ち尽くしていると、ゼノンは何の気なしにべらべらと語り始めた。
「あ、もしかして私の格好が気になりますか? いやー、大会ということですからね。せっかくなので商売みたいなことしちゃおうかなーって! そうすれば家賃の足しにもなりますしね。例えばこの剣とかどうです? めちゃくちゃカッコいいでしょう?」
そう言って、箱から真っ黒な剣をニュッと出した。いやそれ以前に明らかに箱に収まる長さじゃないよねそれ。四○元ポケットか何か?
「こちら、名付けてゼノンセイバー! 今ならたったの2000ゼニス! すごいぞーカッコいいぞー」
「……で、実用性は?」
「一回振るごとに私の罵倒が聴けます」
そう言って、ゼノンはその場で剣を振ってみせた。
\アワレデスネー/
「……」
「……」
重苦しい静寂の中、再びゼノンが剣を振る。
\ソノテイドデスカー?/
「舐めてんの?」
「いいえ、大真面目です。あ、あと紙くらいなら切れますよ」
「ペーパーナイフかな? まだ修学旅行でつい買っちゃう木刀の方が実用性あるよ?」
「ではこのゼノンちゃん人形なんてどうでしょう」
今度はゼノンそっくりの、キーホルダーサイズの人形を渡してきた。確かに出来はいい。……が、多分これも……。
「どこへ捨てても持ち主のところへ戻ってくる呪いの人形です」
「そぉおいっ!!」
「あぁっ! ゼノンちゃん人形がっ!」
俺はそのヤバすぎる人形を窓から放り投げると、素早く窓の鍵を閉めた。
「インチキアイテム叩き売りすんのやめろや! せめて食べ物とか飲み物をだな……!」
「ああ、それなら適任者が今、売りこんでる最中です」
「……適任者?」
「はい」
そう言って、ゼノンは口にクッキーを放り込んだ。……クッキー? ってまさか……!
何かに感付いた俺は、たった今閉めた窓を再び開け、観客席の方を見渡した。と、同時に耳を澄ましてみる。すると……。
「はーい、今ならクッキーが五枚入りたったの500ゼニスですよ~! 普段は城下広場にて販売中でーす。みんな買ってね~」
ポーラとソフィアがクッキーを売りさばいていた。ポーラが声出し役で、ソフィアが愛想良くクッキーを手渡ししている。妹の可愛げな声に、年長者がニコニコしながら買い、姉の柔らかい物腰と美しさに、若者がデレデレしながら買っている。なんて恐ろしい戦略なんだ。てか値段上がってね?
「見掛ける度にたくましくなっていくなあの姉妹。とてもじゃないが一回村を滅ぼされたとは思えない」
「むしろ滅ぼされて強くなったとかありそうですね。コータ君とは大違い」
「お前一回は俺を蔑むくだり入れないと会話できない感じ?」
「え? ……あ、ほんとだ」
「無意識かよ。あーあ、せっかく控え室来たのに休めそうにないな。そろそろ二回戦始まりそうだし、俺はもう観客席行くわ」
「じゃ、私も売り子をやめて観戦といきますかね」
こうして、ゼノンと俺は控え室を後にした。さて、二回戦は誰と誰になるのだろう。
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「よぉし、いっちょかましてやりますか!」
闘技場の中心で、一際でかい声が響き渡った。観客もそれに合わせ、「うぉー」だの「やれー」だの返している。パフォーマンスとしては百点満点と言っても過言ではない。
「さすがですねぇルルカさんは。あっという間に場の空気を自分のものにしてしまいました」
ゼノンがクッキーを頬張りながらニヤついた表情で言った。
そう、二回戦の出場者は他でもない、うちのチート魔術師だった。そして相手は……。
「うわー。なんすかこの空気。この中でやるんすか……。うっ、吐きそう」
時雨の森でボロボロになっていた男、イスケである。あいつには悪いが、この戦い、ルルカが余計な事さえしなければ勝つんじゃないかな。余計な事さえしなければ。
「ルルカ、すごい人気だね。威勢の良さと見た目の良さがウケてるみたい」
隣でケティがエターナルドリンクを吸いながら言った。ケティとは、ゼノンのわけ分からん能力ですぐに合流できた。そういや、ギルド関係以外でケティと顔を合わせるのは今回が初めてだな。なんか学校以外で同級生の女の子と会うような気分だ。要するに気恥ずかしい。
今日のケティは、いつも着ている受付係の締まった服ではなく、ミニスカートに、モコモコしたセーターのようなものを着ていた。意外と女子力高いんだな。てかこの子、獣人なのに脚めっちゃツルツルやん……。
「どうしたの?」
「へっ!? あ、い、いや、うんっ。あのー、そう、ケティの私服姿、可愛いなって」
いきなり話しかけられ、焦ってつい口説き文句みたいなのが出てしまった。今の最高に気持ち悪かったなぁ。
と、思いながらケティを見てみると、普段眠たそうにしている目を大きく見開き、小さな口をポカンと開けて俺を見つめていた。わずかだが、耳としっぽがピョコピョコと動いている。いつもはポーカーフェイスである彼女が見せる新鮮な反応に、こちらも同じく口を開けていると……。
「……ありがとう」
それだけ呟いて、再び正面に向き直ってストローを咥え始めた。だよなぁ、陰キャがこんな台詞吐いたら引くよなぁ。あ、よく見たらドリンクをぶくぶくさせてる。やっぱ癪に障ったか……。反省しよう。
「コータ君……もしかして君も、ノアさんと同じでわざとやってるんですか?」
ゼノンが苦笑いしながら、小声で俺に聞いてきた。
「は? 人を不快にさせる行為をわざとやるわけねえだろ」
「君のその反応はイマドキの主人公ですら中々しませんよ。化石ですか君は?」
「え、いや待って本当になんのことか分からん」
「……鈍感系は流行りませんよ」
「え、なんか言ったか?」
ゼノンがぶつくさ横で何かを言っていたが、無視しておこう。……いや、正直なんとなく言ってることは分かるけど、俺にいたってそんなことはないだろう。『黒歴史はいつも勘違いから』。話しかけられただけで「もしかして俺の事好きなんじゃね?」みたいなのが許されるのは中学生までだ。




