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転生者VS『非』転生者

俺が剣を構えたと同時に、リンファの剣が俺の横腹に迫ってきた。それを《獅子王の加護》により、なんとか捌いていくも、隙を与えずに二撃目、三撃目……と、俺に降り注がれていく。俺は場違いにも、その鮮やかな剣捌きを「綺麗」だと認識していた。


「……顔は別のことを考えているな」


猛攻を止めずに、リンファが俺に言った。実際、加護のおかげで捌いているだけなので、集中力が必要というわけでもない。だが、俺はそれよりも、リンファが戦闘中に相手の表情まで観察していることに感心した。それだけでも、明らかに踏んできた場数が違うことを彷彿とさせる。……だが。


「リンファ、もう止めよう。お前の剣撃は俺に通用しない。実力とかじゃないんだ。これはそういう能力なんだ」


猛攻を凌ぎ続けながら、小声で「能力によるもの」であることを伝える。リンファには悪いが、こればかりは死ぬほど剣術を磨こうが覆せるものではないのだ。


「ああ、そんな気がしていたよ」


リンファは突然攻撃を止め、後方へ大きく飛び、距離を取った。どうやら剣術で競う気はないらしい。


「だから、戦い方を変えよう」


リンファは俺に左手を向けると「アイスランサー!」と叫んだ。剣が無理なら魔法で……とでも考えているのか? 悪いがどちらでも同じこと……。


と、思っていたのだが。


『なぁにぃ~! リンファ選手、なんとアイスランサーをコータ選手の足元に向かって放っています!』


いつの間にかアナウンスまでもがリンファ呼びになっていたことはさておき、確かに俺の足元にそれは放たれ続けていた。俺はその予想外の出来事に一瞬、判断が遅れてしまった。そうしている間に、氷はみるみるうちに足元全体へと張られていった。


『これはっ! コータ選手のいる範囲が氷のステージになってしまったぁ!』


やばい、アイスランサーってそんな使い方あんの知らなかった。てっきり地面にぶつかったら弾けるもんだと思ってたが……。いや、それも調節次第なのか? ダメだ、今になって魔法を疎かにしてきたツケが回ってきている。


「……なるほどな、足場を悪くさせて、剣捌きを鈍らせようってか。だが、悪いなリンファ。俺の能力はたとえ転倒したとしても、しっかり捌ききれ……」


「《ウィンドショット》」


俺が言い終わる前に、リンファはさらなる魔法を唱えた。次の瞬間、凄まじい風の塊が俺に降りかかった。剣での防御を試みるものの、さすがに気体を捌ききるのは難しい。なんとか風の塊を霧散させ、直撃は避けたものの、その余波で尻餅をついてしまった。


「《ウィンドショット》」


リンファが再び、風の魔法を放つ。それを捌くも、自由に散らばっていった風の余波と、滑りの良い地形のせいでまた少しだけ、後方に押される。立ち上がろうにも、風の魔法が止まない上、足場が悪くておぼつかない。そうしている間に、とうとう俺の後ろでリングの端が迫ってきているのが見え始めた。


「やべぇ……!!」


自身の敗北がちらつき始める中、チート能力を手にしたことによる傲慢さを、今更ながら恥じた。そりゃそうだ。リンファは聖騎士。洞察力はもとい、切り替えの早さ、機転、身体能力……その全てが、戦闘経験の差を物語っている。


手札がたまたま良かった俺たち転生者とは違い、リンファは、悪い手札でも己のプレイヤースキルで戦う、本物の『騎士』だ。ゲームにおける強さとは、まさしく本人の強さなのだ。能力に頼りきりだった部分が、今こうして、民衆の前で晒されていることが、なんだか糾弾されているみたいで、ひどく居心地が悪かった。


「……お前たち転生者は信用できない」


暴風の中で、リンファは呟いた。


「この世界の各地で、被害の報告を受け続けている……。みんな助けを求めて、聖域都市にやってくるのだ。ひどい傷を負った者、家族を失った者、故郷を失った者……。そのどれもが、モンスターではなく、転生者の仕業だった」


一言述べる度に、魔法の勢いが強まっていく。魔法とは感情が関わる要素が大きい。暴風になるにつれ、リンファの言葉が本心であることが、徐々に裏付けられていく。


「なのに、エファリスは転生者を自衛のために利用しようとしている……。この大会は、そういう転生者を引き抜き、各地の自衛に廻すという意図も兼ねているのだ」


そういや、ゼノンがそんなこと言ってたっけ……。あの時点では推測の域を出なかったが、これで確信へと変わったな。……ほんと、大きな賭けだよな、この策は。……でも。


「リンファの言いたいことは分かる。だけどな、実際転生者ってのは、ヤバイくらい強いんだよ。この世界の人間が束になっても敵わないのばっかだ。なにもしなければ、それこそ時間の問題だ。ひょっこり現れた転生者に、あっという間に滅ぼされる」


「黙れっ!」


さらなる風の弾が飛んできた。俺は、エクスカリバーを地面に刺すことで、リングから出そうになる体をなんとか支えた。だが、捌けなくなった分、今度はウィンドショットが直撃した。ダメージは軽減されるが、気を抜くとステージ外に飛ばされそうな勢いだ。


「私でも……いや、私たちでも、エファリスは守れる! 転生者などの助けはいらない! この大会で、それを証明してみせる!」


リンファは苦悩に顔を歪めながら、魔法を放ち続ける。暴風を直に受ける体を支え続けるのも、さすがに疲れてきた。だが……ここで負けるわけにはいかない。それは家賃だとか、周囲の評価とかではない。彼女の暴走をここで食い止めたいと思う純粋な気持ちが、敗北を許さなかった。


「ああ……確かに転生者は信用できない。 けど、お前も分かってるはずだ! 転生者には、転生者じゃないと勝てないって! 決断しないとダメなんだよ! 待っていれば破滅しかないんだ!」


俺の言葉に、リンファは唇を噛んだ。


「じゃあどうすればいい……。もしかしたら、悪い転生者が派遣されるかもしれない……。そうすればみんな……みんなっ……!」


声に嗚咽が漏れ始める。その声は、暴風によって、周囲の人間には届かない。今もなお、会話の内容を知らない観客たちは、こちらの事情も露知らず、歓声を上げ続ける。最前線で戦う騎士の思いは、風と共に掻き消されていく。


――――この思いが、消されていいはずがない。


だからこそ、俺は。


暴風をも凌ぐ勢いで、はっきりと、伝えた。


「だったら、俺がこの大会で優勝して、エファリスも世界も救ってやるよ」

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