ざわめく一回戦
『それではまず、大会のルール説明だぁ!』
アナウンスが一言発する度に、会場がどよめく。うへぇ、なんかめちゃくちゃ盛り上がってるなぁ。こんな大勢に見られた状態で負けるのやだなぁ。
『選手は、戦闘不能になるか、こちらのステージから出てしまった場合、敗退となります!』
ステージ……闘技場の中心に、一段高くなった石畳がある。要はあれがリングらしい。ボクシングのリングの二~三倍くらいの大きさだろうか。そのリングから出てしまったら負け……。よかった、これならルルカと当たっても勝てるかもしれない。なんせあいつに俺の攻撃は何一つ通用しないのだから。
「ねぇ……コータのその剣、大丈夫なの?」
丁度そのタイミングで、我が天敵の魔術師が小声で話しかけてきた。
「大丈夫って何が?」
「エクスカリバーよ。それって、当てればどんな敵も一撃で倒せちゃうんでしょ? それってつまり、ここの転生者に当てたらみんな死んじゃうんじゃ……」
「ああ、それなら大丈夫だ。一撃つっても、俺の調節次第で戦闘不能か絶命か選べるから」
「へぇ……。…………私は力の調節できないのに」
ルルカはそういうと、ぶつぶつ言いながらうつむいてしまった。どうやら「調節」というワードに引っかかったらしい。俺からしたらその魔力と加護の方が羨ましいんですが……。
『それでは、まず一回戦の発表です!』
げっ、なんかルルカと話してたらいつの間にか一回戦する流れになってる! どうかルルカとは当たりませんように、というよりトップバッターにもなりませんように……!
『記念すべき一回戦の組は……!』
頼む……!
『コータ選手VSリン選手です!』
うわああああああトップバッターだったあああああああ! しかも身体能力バリ高のリンだああああああああああああ!!!
「よろしくな、コータ。良い戦いにしよう」
「吐きそう」
「……コータ?」
「あ、うん、良い戦いにしようね、うん」
よりによってリンか……。いやまあルルカじゃないだけいい……のか? てかこの世界の女の子強すぎじゃね? イスケには悪いけど俺あいつと当たりたかったよ?
『他の選手の皆さんは、時間になるまで自由行動とします! では、一回戦のお二方! ステージへお上がり下さい!』
俺の緊張など差し置いて、アナウンスはさっさとステージに上がれと促してくる。リンはというと、勇ましい出で立ちで、とっくにステージの反対側に陣取っていた。
「コータ……頑張って」
ルルカが小声でそう言ったあと、ファイト、と俺の肩をグーで軽く小突いた。俺は若干の震え声で「おうよ」と返すと、仲間から受けた小さな激励を背中に背負って、緊張でフラフラな自分をなんとか支えた。
『さぁ、お二人が配置に着きました! では戦闘の前に、本日の救護班を紹介いたします』
そうアナウンスされたと同時に、闘技場の端からひょこひょこと誰かが出てきた。そう、うちの癒し担当、ノアだ。服屋に行ったときに、救護を担当すると言っていたので、驚きはしなかった。
だが、次起きた展開に、俺は動揺を隠せなかった。
『こちら、聖域都市エファリスの修道女、ノア・フェアリーベル様に、本日は救護を……』
「あー!!!!」
ノアが今まで聞いたことのない、素っ頓狂な声を上げたのだ。そのあまりにも唐突な大声に、アナウンスは沈黙し、会場は歓声からざわめきへと変わる。あのノアがこれほどのリアクションを取るとは、一体どういうことだろう。
それは、ノアの次の一言で判明する。
「『リンファ』……! エファリスの聖騎士であるあなたが、なぜここに……!?」
『リンファ』……。その呼び掛けに答えたのは、他でもない、リンだった。リンは少しだけ目を見開き、ノアの方をちらっと見たが、すぐに俺に向き直り、腰の剣を鞘から抜いた。
「……ノア様。まさかあなたがここにいるとは思いませんでした。ですが、このことはあなたには関係のないことです」
そして、リン……いや、リンファは、握り締めたその剣を、自身の髪を一束に結った髪留めに当て……。
「もうこれはいらないな」
器用な剣捌きで、ピッ、と斬った。束ねられた髪がさらさらと、リンファの背中、肩へと綺麗に解き放たれていく。と、同時に、漆黒を思わせるほどの黒髪が、まるで聖騎士の誇りの高さと、穢れの無さを彩るかの如く、透き通った銀髪へと移り変わっていった。
会場がさらに騒然とする中、リンファはそんなことには目もくれず、俺に真っ直ぐ剣を突きつけると、口元に僅かに笑みを浮かべながら、言い放った。
「自己紹介がまだだったな。私の名はリンファ・エルフォード。聖域都市エファリスにて、聖騎士の名を持つ者にして……『非』転生者だ」
……今、なんつった?
非転生者……? それって……つまり……。
「お前……転生者じゃないのか!?」
俺の一言に、アナウンスが慌てて実況を再開した。
『おおーっとっ!? 一回戦目にして、とんでもないアクシデントだぁ!! なんとリン選手、転生者ではないそうです! これは一体、どうなってしまうんだぁ~!?』
どうなってしまうもなにも止めた方が良いに決まってる。リンファには悪いが、どれだけ強かろうが、この世界の人間が転生者に敵うはずがない。
「おい、リンファ……」
だが、俺が説得を試みようとした瞬間、なんとリンファがこちらに急接近してきたのだ。
「御託はいい。止められる前にお前を討つ。覚悟はいいな、コータ!」
「……くそっ!」
あの目は本気だ。本気で転生者に勝とうとしている。周りも徐々に、再び歓声へと移り変わっていった。どうやらもう、戦闘を避けることはできないらしい。俺はリンファを迎え撃つため、エクスカリバーを引き抜くと、真っ直ぐと目の前の『非転生者』に向かって構えた。




