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羞恥的一日

その後、俺は冷ややかな空気に耐えきれず、爆速でエントリーを済ませて会場から出た。後ろから「あ、逃げた」みたいな言葉がちらほら聞こえるが気にしない。


外の空気を吸い、気分を切り替え、辺りを見回す。会場の入り口には屋根があるため、雨にさらされることはない。だが、森の奥から何体かのモンスターがこちらを凝視しているのが見てとれた。


「へん、この碓氷 幸太様の前じゃ、お前らなんて、雑魚中の雑魚だわ! 悔しかったらかかってこいよ。あ?」


奴らが聖域に入れないことをいいことに、モンスターたちを煽る。言葉は伝わらないものの、『なんかむかつくことしてる』というのは伝わったのか、モンスターたちは次々にうなり声をあげ始めた。中には飛び道具で攻撃をしてくるものもいたが、聖域には入る直前で消えた。どうやらモンスター避けアイテム以外にも、この聖域にはいろいろ細工がしてあるみたいだ。


「へへーん、残念当たりません! だいたい当たったとしても大して痛くねえし! かわいそうにね~惨めだね~」


「なにモンスター相手に煽ってんのよ」


いつの間に後ろにいたルルカとその他御一行が哀れんだ目で俺を見ていた。ちょっとテンション上がってたとこを見られるのってこんなに恥ずかしいのか。覚えておこう。


「じゃ、みんなエントリーは済ませたみたいだし、これでとりあえは解散かな?」


ルルカは俺から視線を外すと、リンとイスケに問いかけた。完全に俺から背を向けた状態だ。ルルカ、俺もいるぞ。まだ哀れんでくれた方がマシだぞ。いないものにするのやめよう?


「そうだな。では、大会でまた会おう。楽しみにしているぞ」


そう言って足早に去ろうとするリンの服の裾を掴んだのはイスケだった。


「ま、待って! 一人にしないでっ!」


「イスケ、その台詞は普通、男女逆では?」


リンは眉間を押さえながらイスケにツッコむも、結局、「やれやれ」と言いながら、イスケの首根っこを掴んでズルズルと引っ張っていった。やだ……リンさんカッコいい……。


こうして、残った転生者は俺とルルカだけとなった。さっきまでわりと三下な行動してた手前、改めて仲間と二人きりにされると気まずい。早く帰りたい。


「あのー……ルルカさん、我々も帰るとしましょうか」


おそるおそる問いかける俺に、ルルカはチラッと横目で俺を見ると、クスっと笑いながら、何かを差し出してきた。


「はい、お疲れ様」


その手には飲み物が握られていた。ラベルに『エターナルドリンク【魑魅魍魎味】』と書いてある。この飲み物、見る度に世界観が大変なことになってるけど、一体どこを目指してるんだろう。


「お、お前……いつの間に」


「会場内に売ってたよ? 私は【森羅万象味】にしたけど、さっき全部飲んじゃった」


「お、おう……とりあえず、ありがとう」


売店があったなんて気付かなかった。思えば、ここに来てエントリーするまで駆け足気味だった気がする。と、振り返っていると、ルルカが唐突に言った。


「ありがとね」


「え?」


「ここまで来るとき、ずっと前を走っててくれたじゃん」


あー……そうか。俺としてはそんなつもりはなかったが、いつの間にか『先陣を切る』という約束は果たされていたらしい。


「いや、あれは雨とかモンスターから一刻も早く逃れたかっただけで……」


「でも、後ろを気にかけてくれた」


「ま……まぁな。イスケとかも危なげな感じ……だったし?」


「すっごく助かったよ。だから、ありがと」


そう言って、照れ臭そうに「ほら、早く飲みなよ」と手を振って勧める。俺は顔が少しだけ火照るのを感じながら、ぎこちなくストローを口に運んだ。口の中に、なんだか甘酸っぱいものが広がっていく。


「じゃ、転移魔法でさっさと帰りますか!」


え?


ルルカが王都ゼニスへ帰るため、魔法を唱え始めた。うん、待って。その魔法って確か結構な勢いで体がブワッてなるから、手にドリンクなんか持ってたりすると大変危険なんですけ


「【転移】!」


あ、ダメだ唱え終わってるわ。口ん中にまだ飲み物含んでたから止める間もなかったわ。


俺の全力で阻止したい願望は儚く消え、一瞬にして俺たちは王都の広場へと転移した。起きたことは一瞬だったが、細かく解説すると、まずドリンクの蓋が俺の顎を直撃した。そして、中身が噴水の如く宙に舞い、水滴と共に転移した俺たちは、カラフルな雨を体に浴びながら、広場の中央に出現した、といった状況だ。


「うわー! 体がベトベトになっちゃった! 雨に濡れただけでも不快なのにぃー!」


「……あのなぁ」


もはやツッコむ気すら失せてくる。ちょっと真面目な雰囲気になるとすぐこれだ。あれか? こいつにもゼノンと同じシリアスブレイカー的な属性が付いてるのか?


「わ、お兄ちゃん、お姉ちゃんどうしたの!?」


偶然通りかかったポーラが驚愕の表情を浮かべる。分かる。俺もびっくりしたもん。


「エターナルドリンクってうまいじゃん? じゃあ体に浴びたらもっとうまいんじゃね? みたいな?」


疲れきっていたこともあり、支離滅裂な弁解を試みる。だめだ脳死してる。


「お兄ちゃん、クッキーあげるね」


「え」


「お大事に」


ポーラ? なんで無料でクッキーくれたの? あと凄い優しい顔して去っていったのなんで? 「お大事に」ってなに?


「……あれ……おかしいな……雨はもう降ってないはずなのに……目から雨が……」


「……今日はいろいろとすいませんでした」


謝るなルルカ。今謝られるとなんか惨めな気分になってくるから。


結局、今日はひたすらに俺の醜態を晒す日となった。絶望とはまた違った精神的ダメージを受け続けた俺は、大会で優勝することで挽回しようと誓ったのだった。

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