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会場

エントリー会場内に一歩踏み入れた途端、体中にクモの巣が引っ掛かったような感覚が広がった。それは他のみんなも同じらしく、異物を取り払うように、服を引っ張ったり、はたいたりしている。


「ああ、ご心配なさらないで大丈夫ですよ」


俺たちが見えない異物感と格闘している間、入り口の横に立っていたお姉さんが言った。


「それは、入り口に張ってあるモンスター避けの粘膜です。十秒もすれば、違和感は無くなるでしょう。会場の周辺には臭気タイプのものを設置してますので、二重に安全です。もっとも、その臭気が漂うエリアには草木は生えてこなくなるんですけど」


確かにお姉さんの言う通り、クモの巣の感覚はなくなった。なるほど、人間だけを通し、モンスターを退ける……。よくできたアイテムだ。チート転生者ゆえに、俺はアイテムには目もくれなかったが、こうして見ると、よくできたアイテムもあるもんだ。


「ところで、なぜあなたはそんなにボロボロなのですか?」


お姉さんが心配そうに、俺の状態を見て問い掛ける。そりゃ当然の質問だ。お姉さんは続けてイスケの方へ視線を向けると、「それにあなたも……」と、小さく呟いた。あれ? 転生者(男組)弱くね?


「いや、あれですよ。転生者の耐久力なら余裕だと思ってゴリ押しただけです。弱いわけじゃないです、はい」


俺が事実を伝えると、お姉さんは怪訝そうな目で見てきてはいたものの、すぐに気を取り直した。


「わ、分かりました……。とりあえず、エントリーはあちらのカウンターでお願いします」


お姉さんは広い空間の、一番奥のカウンターを指差した。そこには、ケティと同じ、獣人族の職員が眠そうにあくびをしているのが見てとれた。そのカウンターのすぐ横に、ドリンクを飲んで一息ついている男性がいた。


見たところ、三十代前半くらいだろうか。短髪に、やつれきった顔で、ドリンクをちびちびと飲んでいる。装備は、どれもその辺で手に入る安物を身にまとっていた。おそらく、俺たちと同じ転生者なのだろう。というのも、転生者は基本、能力値がすでにチートなので、装備はなんでもいいみたいな風潮があるのだ。


男性は俺の視線に気付くと、力無さげに笑みを浮かべ、手を振った。俺たちはそれに呼応するように、男性のいる方へと近付いていった。


「やぁ。君たちも転生者なのかい?」


以外と渋い声で、彼が俺たちに問いかける。ルルカが「そうなんです~」と、杖を高く掲げて答えた。お前まだその危険物持ってたのかよ。物騒だから早くしまえよ。


「そうか、やっぱり君たちもか。僕は松田。見ての通り、年食ったおっさん転生者だけど、よろしく」


たはは~、と、乾いた笑い声をあげる松田さんに、俺たちは次々に自己紹介をした。それぞれが自己紹介する中、松田さんは難しい顔をしながら俺とイスケを見ていた。だよね。転生者らしくないダメージ具合いだもんね。


だが、松田さんは空気を読んでくれたのか、そのことについては問わず、世間話でもするかのように、大会のことについて話した。


「この大会で優勝すると、賞金がもらえると聞いてね。ちょいと必要なもんだから、おっさん、張り切っちゃおうかなー、なんてね」


「君たちは?」と問う松田さんに対し、俺とルルカは秒で


「「家賃のためです」」


とハモった。松田さんは「oh……」といった感じの表情で俺たちを交互に見ると、口元をおさえた。い、一応他の転生者の情報集めも兼ねてるからっ! 家賃だけじゃないから!


「私は賞金というより、力比べだな。自分の能力が、他の強者にどこまで通用するのか、試したい」


そう語ったリンは不敵な笑みを浮かべた。イケメン女子まさかの戦闘狂(バーサーカー)発言。森での戦闘を見るに、これはかなり手強い相手になりそうだ……。


「自分は、転生者との実戦経験が積みたいって理由っす。ほら、大会なら死なないかもだけど、野良だと殺意マシマシなんで、練習にはならないっていうか自分瞬殺っていうか……」


イスケはそう言いながらブルッと震えた。やはり彼も、それなりの修羅場をかいくぐってきたのだろうか。そういうことなら、強くなりたいのも頷ける……。もっとも、あの戦闘センスが改善されるかは怪しいが。


「なるほど……。みんなそれぞれ、目的があるようだね。みんながどんな能力者か、おじさんには分からないけど……とりあえず、よろしくね」


松田さんは再びたはは~と笑った。あのおじさんくさい笑い方は癖なんだろうか。あるいは、いずれ俺もああなってしまうのだろうか……なんて考えながらも、俺は松田さんの容姿をひそかに観察していた。この人……まったくダメージを負っていない。それ以前に、装備もまるで新品かのように傷一つない。チート転生者だから、と言ってしまえばそこまでだが、ただのやつれたおじさんではないことは確かだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ところで松田さんはどうやってこの会場までやってきたんですか? 強いモンスターばかりで大変だったでしょう」


世間話でもするかのように、俺は笑みを浮かべて自然に問いかけた。


「あーそれはね、僕の……って危ない危ない、ネタばらしするところだった! 君、今完全に僕から情報を引き出そうとしただろ!」


「……ちぇっ」


「うわぁ……なんてゲスい顔なんだ……! 友好的に振る舞ったかと思えばこれだ。最近の子は怖いなぁ……。おやじ狩りだよこんなの……!」


松田さんは会場の出口へとそそくさと向かい、こちらに振り向きながら言った。


「大会では正々堂々頼むよ! もう僕は行くからね!」


「あーこわいこわい……」……。そう呟きながら、松田さんは会場を出た。その一部始終を見ていた、同伴の転生者、カウンターの獣人、入り口付近のお姉さんが、ひきつった顔で俺を見る。え、ちょっと待って。なんだこの冷めた空気は。


「な、なんだよ? これは戦いなんだぞ、駆け引きも大事だろ! それに、あれは純粋に気になったから聞いただけだし! 情報引き出そうなんて魂胆はないし!」


「でもコータ、ゲスい顔してたよね」


「なんなら舌打ちもしていたな」


「この期に及んで言い訳は見苦しいっすよコータ君」


くそがっ! 

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