出撃
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「ファイアボールッ!」
モンスターに追い付かれないよう走りながら、俺は右手から火球を放った。魔法はソードウルフに命中し、激しく燃え盛った。
「やるじゃないかコータ」
隣で並走していたリンが称賛する。多分、リンが褒めているのは魔法力ではなく、命中率のことだろう。命中率は、ステータスに含まれておらず、その人自身の能力が試される。
……獅子王の加護も、『スタミナ切れたらアウト』だし、なんか変なところで『本人のスペック』が試される。こんなことならもうちょい運動しときゃよかったなぁ。
そんな俺の思想とは裏腹に、リンは華麗な動きでモンスターの猛攻を避け、氷魔法 《アイスランサー》で生み出した鋭利な氷を放ち、迫り来るモンスターたちを貫いていった。
「そういうリンの方こそ、戦闘慣れしてるみたいじゃんか」
リンの動きは、モンスターの習性を把握した動きが目立った。それに、森の地形をうまく利用しており、ソードウルフが飛びかかろうとすれば木を盾にして身を守り、スライムが這ってくれば、常人離れしたジャンプで木の枝に捕まり、体操選手のように次の木へと跳び移る。そこに再び、ソードウルフが飛びかかるも、すぐにリンは飛び降り、獲物を狩り損ね、空中を漂うソードウルフに向かって《アイスランサー》お見舞いしていく。
洗練された動きとはまさにこのことだと思った。リンは「たいしたことないさ」と言うと、さらに加速して先頭を突っ切っていった。俺も遅れをとらないように、なんとか後ろをついていく。森の各所に、光魔法でできた矢印が漂っているため、おそらくそれに合わせて向かえば会場には着くはずだ。
と、リンに追い付く気満々だった俺だったが、慣れない魔法で、かつ周りの仲間を巻き込まないように《ファイアボール》をちまちま撃っていたものの、当然それだけでは対処しきれず、とうとう腕や頭をガブガブ噛まれ始めた。痛ぇ。ダメージはそんなないけど。
「コータ、大丈夫!?」
後ろからルルカの声がする。俺は頭にかぶりついたソードウルフを振り払い、火球を放つと、「なんとかな」とだけ返した。てかあいつ、人のこと心配してる場合か? まぁ一応加護持ちだし、多分大丈夫だろうが……ってあれ、『加護持ち』?
慌ててルルカの方へ振り向いてみると、ルルカはなんとか加護を発動させないように、杖でモンスターをボコっていた。そういやあいつの最大の攻撃は、魔法ではなく加護だった。『防御こそが最大の攻撃』……。いつかの有名な台詞の真逆をいく存在、それがルルカだった。
「あぁ大丈夫だ。ルルカは以外と接近戦うまいな。魔法使いより戦士の方が向いてるんじゃないか?」
「私、こう見えてテニス部主将でしたし! モンスターなんてボールよ! ボールの扱いなら任せて!」
「それは「ファイア『ボール』は撃てないのに?」っていうツッコミ待ちか?」
「あら、撃てるわよ? なんなら今ここで撃ってゲームセットしてあげましょうか?」
「テニスの王○様もびっくりな超展開やめろ」
ルルカが体育会系だったのは以外だった……。どちらにせよ、あれだけの威勢があれば問題なさそうだ。そう、ルルカは問題ないとして……。
ちょっと心配なのは、ルルカのさらに後ろにいる……モンスターからの総攻撃をなんとか魔法で捌いているイスケだ。イスケは、俺と同じく、ソードウルフに頭をかぶりつかれていた。というかアンデッドからもかぶりつかれてるし、さらにはスライムに足を取られている。大丈夫かあれ。
「ひぃ……! なんかHPがごりごり削られていくのを感じるっす!」
あ、ダメみたいだ。チート能力うんぬん以前に、素の戦闘力が壊滅的だ。まぁさすがにエントリー会場までは持ちこたえられるだろうけど……一応加勢しとくか……? いや加勢できるほど余裕じゃなかったわ。ゴブリンキングが俺の頭殴ってるわ。痛ぇ。やっぱりそんなダメージ入らないけど。
そんな感じで、それぞれの素の戦闘力を御披露目しながら、エントリー会場へと急いだ。雨はまだ降り続けているので、洞穴で乾かした服も、徐々に水気を帯び始めた。モンスターの猛攻も治まらない。痛い。寒い。早く室内入りたい。
その時、前方からリンの嬉々とした声が聞こえた。
「見えたぞ! あそこだ!」
彼女が指差す方向を、顔面に引っ付いたスライムを剥がしてなんとか視界に収めようとする。雨や雑木のせいで見えにくいが、確かに建物らしきものが見えた。
「よっしゃああああ!!」
不快な思いをしすぎて半ばやけくそ気味になっていた俺は、ノーガードで建物へと猛ダッシュした。ダークエルフの矢が俺の背中に刺さろうが、ナイトソルジャーの剣が胴を切り裂こうが、俺は走り続けた。てかこいつらいつの間に湧い出てきたんだよ。殺意高過ぎだろ会場付近。
そして、俺の体を張った決死のダッシュで、なんとか建物の目の前まで辿り着いた。背中に刺さった矢を引っこ抜き、剣で切られた脇腹を確認する。……うん、やっぱりダメージはそんなにない。自分の耐久力なんて試したことないからどうなるかと思っていたが、さすがはレベル9999。これなら最初から戦わなくてもゴリ押しで行けたな。
改めて辺りを見回すと、教会みたいな建物がドン、と森の中心に構えられており、そこから円を描くように芝生が広がっていた。ここは聖域なのか、モンスターがまったく近付いてこない。親切設計マジ助かる。
「ふぅ……とうちゃーく!」
「ま、待って……自分、アンデッドの毒がまだ消えてないっす……しんどいっす……」
俺のすぐ後から、ルルカとイスケも到着した。ルルカは余裕そうだったが、イスケはボロボロだった。あいつもレベル的に、深刻なダメージはくらってないはずだが……。
「あ、今毒抜けたっす。あー、なんか風邪引いたときみたいなダルさがあるんすね、状態異常って」
アンデッドの毒くらって風邪レベルってどうなの……。なんだかんだ、やっぱ転生者ってチートだよなぁ、と再確認した。
「とりあえず、みんな無事みたいでなによりだ」
先に行っていたリンが、建物の脇から出てきた。待っててくれたのか。俺ポニーテールのキリッとした女の子嫌いじゃないんだよね。イケメン女子流行らそうぜ。あぁ、守るより守られたい欲が出てきた。
「じゃ、行くとしようか」
そんなイケメン女子の一声によって、俺たちは身を正し、呼吸を整えて、教会らしき建物へと足を運んだ。




