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出陣

イスケの能力がなんなのかは不明なままだが、どうやら強い能力ではないらしい。彼と戦うことになるかは分からないが、一応覚えておこう。


「ま……それはそれとして。四人もいれば、エントリー会場まで楽勝じゃない?」


ルルカの台詞を発端に、俺たち転生者は互いに顔を見合わせた。いやちょっと待て、確かに楽勝ではあるが、それはすなわち……。


「チート能力で森を攻略しろ、ということか?」


リンが、訝しげにこちらを見ながら確認する。確かにチート能力を駆使すれば楽勝ではあるのだ。だが、ついさっきまで俺たちは、互いの能力を隠そうとしていたばかりだ。エントリー会場まで向かう過程で能力を見せては意味がない。


「……まぁ、《魔法》ならみんな使えるから、それで突破すりゃいいんじゃないっすか」


イスケがボソッと呟いた。チート能力持ちに取って、魔法なんて朝飯前である。使える魔法の種類は限られているものの、みんなレベル9999である以上、それなりの物は出せる。


だが、チート転生者同士での戦闘で、魔法を発動することはほとんどない。大抵の場合、チート能力の方が強いから、みんなそっちを使うのだ。


つまり、魔法に関しては、手の内を明かしても差し支えないのだ。……ただ一人を除けば。


「え、えー……? 魔法~……? あまり得意じゃないんだけどなぁ……?」


歯切れの悪いチート魔術師が、俺の横で言い訳していた。確かに、『チート魔術師』ということもあり、魔法を使うこと自体がネタばらしになってしまうから、渋るのも無理はないだろう。


だがそれ以前に、ルルカの魔法は大味過ぎて、いらん被害を生みかねない。誰よりも魔法のレパートリーが豊富で、誰よりも魔力が強く、そして誰よりもコントロールが下手なのだ。そういう意味では、本当に「得意」ではない。強すぎて使えないというジレンマ……。なんて贅沢な悩みだろう。


「ん? ルルカ殿は魔術師ではないのか?」


と、痛いとこを突くリン。


「君、魔法使いみたいな見た目してて魔法が得意じゃないんすか?」


と、疑わしく問うイスケ。


「え、えっとね!? この服は王都で買ったもので、可愛いなぁと思ったやつでして、魔法とかは関係なくでして……!」


敬語が大変なことになってるぞルルカ。慌てて弁解するのはいいがもうちょっとなんとかならなかったのか。ったく、しょうがねえなぁ。俺が助け舟、出してやるか。


「あー、こいつはだな、転生前は『コスプレイヤー』だったんだよ。コミケでは結構な人気を誇る有名コスプレイヤーで、特に『魔女娘☆てぃらみすっ!」のティラミスちゃんが好きで」


「うおおおおおおいぃいぃい!!!」


フォローしようとまくし立てた直後、ルルカが女の子とは思えない雄叫びをあげながら、どこからか出した謎の杖で俺の脳天をぶち抜いた。


「ぎゃああああああああ痛いよぉおおっ!!」


「なんで私がコスプレイヤーなのよ! ティラミスちゃんってなに!? だいたいなんでコータはアニメ詳しいのよ!」


「なんでって、そりゃ俺は結構なアニオタだったからな。日朝の国民的アニメぐらい全話視聴済みだわ」


「日朝……? ひっ、まさかコータ……女児向けアニメ見てたの……?」


ルルカが杖を盾にしながら、俺から離れていく。あれ、なんかカウンターくらってね? フォローしてあげたのになんでドン引きされてんの俺?


「見てちゃ悪いのかよ! 日朝アニメは熱い展開も多いしシナリオもしっかりしてて誰が見ても楽しめる構成となっていて」


「あ、もういい、もう大丈夫だよ。コータ」


「その『大丈夫』とかいうのやめて? それガチで引いてる奴の台詞だから。なんなら(なぐさ)めに入っちゃってるやつだから」


俺たちの会話を、リンとイスケがひきつった顔で聞いていた。あーあ、結局、俺とルルカの印象が『女児向けアニメオタク』と『コスプレイヤー』になっただけだった。痛み分けもいいところだ。下手な弁解は悲しみしか生まない。肝に銘じておこう……。


と、深い反省をしていた時、イスケがひきつった顔のまま、言った。


「てか……ルルカちゃんはその杖で敵を殴ればいいんじゃないっすかね。レベル9999なわけだし、チートなしでも普通に殴ればモンスター倒せるでしょ」


その天啓に、俺たちは口をあんぐりと空けながら、互いの顔を見合わせた。盲点だった。ルルカは魔道師だが、それでも物理はその辺の冒険者より遥かに上だ。まさに「レベルを上げて物理で殴る」を地で行く攻略法を体現している。あまりに普通過ぎて、むしろ気付かなかった。


「じゃ、ルルカはそれでいこう。俺は……一応魔法で倒してくわ。深い意味はないよ、うん」


その辺の木の棒でも《獅子王の加護》は発動する。剣術が異様に優れている場面なんか見せたら「捌ききれてね? 苦戦する要素なくね?」とか思われそうだし、数ダメージはくらう覚悟で魔法に徹しよう。


「私もそれでいい」


「自分も大丈夫っす」


リンとイスケも同意した。よし、じゃあこれで問題はなくなった。体力もそこそこ回復してきたし、なんとかなるだろう。


「じゃあルルカ、リフレクターを解除してくれ」


みんなが立ちあがり、気を引き締めて洞穴の外を見つめる中、ルルカは「うん!」と弾むように返事すると、リフレクターの方に向かい、手をかざした。そして……。


「あれ、どうやって解除するんだっけ?」


「「「おい!」」」


小さい洞穴で、転生者たちの声がリフレクションした。

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