雨の洞穴
「いやぁよかった。私たち以外の転生者を見つけられて」
薄暗い洞穴の中で、ルルカではない、別の女性の声が響き渡る。快活な声で笑うその女性―――――――――――リンは、一つに束ねた長い髪をなびかせ、その横にいたもう一人の人間の方へ向くと、「な、伊助」と、同意を求めた。
伊助と呼ばれた、猫背で天パの、眼鏡をかけた頼りなさそうな男が、「そっすねぇ」と、適当に返した。だいぶ疲れた様子で、首を擦っている。
結局、新たに現れた二人の人間は、大会にエントリーに来た転生者だった。話を聞いて見ると、二人は知り合いだったわけではなく、森の散策中に出会ったそうだ。そして、二人でエントリー会場へ向かってる途中、俺たちがいる洞穴から強烈な光を感知したので、やってきた……といったところだ。
新たな転生者の登場に、さっきまで眠そうにしていたルルカが、しっぽを振る犬のようにはしゃぎ始めた。
「ほんとびっくりだよ~! もし敵だったらどうしようかと思っちゃった!」
色っぽさが完全に吹っ飛んだ相棒の転生者を横目で見ながら、俺も同意した。
「確かにな。なんせこっちは疲弊してるし、そっちが敵だったらマジでヤバかったわ」
俺のやつれきった顔と返答に、リンが首を傾げた。え、俺なんか変なこと言った?
「疲弊? お前たちは転生者なのだろう? 森のモンスターくらい余裕だったんじゃないのか?」
あー、なるほどね。そりゃそういう疑問持つわ。本来苦戦なんかしないはずだもん。な、ルルカ?
と、視線をルルカに移す。俺の視線に気付いたのか、はしゃぐのをやめ、神妙な顔つきで、コホン、と咳払いをすると、
「実は……コータがモンスターを捌ききれなくて……」
と、暗いトーンで答えた。うん、ちょっと待ってね?
「いやお前が《リフレクター》でこっちに弾いてきたから……」
そう言いかけた途端、ルルカがいきなり飛び付いてきて、俺の口を塞いだ。内心ドキドキしながらも、小声でルルカに問いかける。
「おい……どうしたんだよ。てかなんで俺がミスったみたいにしてんだよ」
「そこはマジでごめん。でも、あの二人は今後戦うかもしれない転生者よ。つまりはライバルなの。そうやすやすと私たちの強さを伝えるわけにはいかないわ」
「おぉ……さすがルルカさんや。さすルル」
「よせやい」
謙遜しつつも、フフーンとどや顔をするルルカ。こいつもこいつなりに、大会の事を考えてるんだな……。ま、それはそれとして。
「決して自分のミスを公表したくないわけではないんだよな?」
思いきって確信めいたものを突いてみる。
「よせやい」
凍りついたどや顔でルルカは言った。
こいつ……。まぁ、でもルルカの言う通りだ。自分の手札は戦うその時まで明かさない……。いや、むしろ、情報戦という意味ではもう戦いは始まっている。今はできるだけポンコツを演じておこう。
俺はリンとイスケの方へ向き直ると、疲れきった顔のまま、弱々しく答えた。
「ルルカが説明した通りだ。モンスターが多すぎて、うまく戦えなかったんだ。いやー、レア武器持ってても敵が多いと対処できねーわー辛いわー」
幸い、ガチで疲れていたので演じる必要はなかった。俺の台詞に追随するように、ルルカが「可哀想にねぇ……」と呟く。あれ、なんだろう。作戦であることは重々理解してるんだけど、なんか腹立つ。
が、この主張に、ものすごい勢いで同意してくる者がいた。
「そうっすよね! 自分もここまで来るのに苦労しましたよ~! あんな能力じゃ戦えないってのに……」
イスケが、俺に同情するように、うんうんと頷きながら言った。「あんな能力」とはどういう意味だろう。言葉のニュアンス的に、ハズレを示唆してるような……。となると、転生者だからと言って、必ずしもチート能力がもらえるとは限らない、ってことか?
いろいろ疑問は湧いてくるが、今はとりあえず、話を合わせることにした。
「おぉ! イスケも分かってくれるのか……! そうだよなぁ、能力もらっても苦労するよなぁ。なんなら、俺が今まで会ってきた転生者の方がチート能力持ちだったわ」
「そうなんすよ。自分も敵の転生者に遭遇したことあるんすけど、なんとか逃げまくって、今まで生き延びてきたんすよ。なんで敵ばっか強いんだ、って思ってましたけど、実は逆で、自分の能力が低いってだけだったんすよねー」
イスケがへらへらと笑う中、リンが自分の頭を押さえ、苦言を呈した。
「これから戦う相手が目の前にいるのに、自分の弱さをひけらかしてどうするのだ……」
イスケはしばらく固まったあと、慌てて手を振り、「い、いや、今のは油断させる作戦で……!」と語るも、
「百歩譲ってそうだとして、それを言ってしまったらダメじゃないか……」
と、さらに追撃され、「う」という断末魔と共に、イスケは黙りこくってしまった。




