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修道女とデタラメ悪魔

「ゼノン様……」


ノアの表情が和らぎ、ゼノンに対する視線も温かな物へと変わった……と、思った矢先。ゼノンが口を開いた。


「まぁ、でも……」


そこに、なんとノアが間髪入れずに口を挟んだ。


「そのあとは毒舌が始まるのでしょう? そこでやめてもらった方が私は嬉しいですよ?」


「……っ」


コータ、ルルカ、ノア、ゼノンのパーティが結成されて以来、とくにゼノンと一緒に行動をしていたのはノアである。それゆえ、ノアはゼノンの行動、言動のパターンをなんとなくに把握していた。こうした切り返しができたのも、そういった経験の賜物(たまもの)である。


先手を打たれるとは思っていなかったゼノンが、少しだけ狼狽(うろた)える。対して、ノアは勝ち誇ったようにニッコリと笑った。


「励まして下さって、ありがとうございました。ゼノン様はお優しいですね」


「……ええ、まぁ」


さっきまで頬を膨らませていたノアと立場が逆転し、今度はゼノンが、面白くなさそうにそっぽを向いた。ノアがそれを、頬杖をつきながら楽しそうに見つめ、


「……かわいい」


と呟いた。この場面だけを一見すると、美少女シスターとミステリアス美少女作家によるイチャコラ劇なのだが、実際にはチート加護持ちシスターと高次元の悪魔のプロレスである。


未だに不機嫌そうに構えるゼノンを微笑ましく眺めながら、ノアは、ふと、小さな声で呟いた。


「……ゼノン様は、どうして私たち……いえ、私を助けてくださったのですか?」


あまりに唐突な質問に、ゼノンがチラッと、ノアの方を見る。そこには、さっきまでのいたずらシスターとはほど遠い、瑠璃色の瞳をまっすぐに向けた、真剣な眼差しの修道女の顔があった。


「村で、私たちが転生者に襲われていた時、ゼノン様は『私が助けを求めていたから』駆けつけて下さったとおっしゃいました」


ゼノンはノアと向き合うと、いつもの狐のような笑みを浮かべ、いたずらっぽく言った。


「……単なる口実かも知れませんよ?」


「確かにそうかもしれません。でも、なんとなく、そういう理由だけではない気がしたので……」


ノアの返答に、ゼノンは少しだけ目を見開いた。目の前の修道女の話に、論理的な要素はない。言ってしまえば直感に近いものだ。だが、時には論理よりも直感が的を射ることもある。そして、ゼノンには実際に、()()()()()()()()()()が、存在していた。


ゼノンは身を乗り出し、ノアの方へグッと近づいた。突然の行動に、ノアが口をつぐみ、目をパチクリさせながら、後ろに少しだけ身を引く。その反応を、さも愉悦とでも言うように、ゼノンは口角をさらに上げると、ノアと鼻先が当たりそうな距離で、囁いた。


「知りたいですか?」


ミステリアスな美少女の顔を、視界いっぱいにとらえながら、ノアは、ぎこちなく、こくりと頷いた。危うく、二人の額がぶつかりそうになる。心臓が早鐘を打つのを感じ取りながら、ノアはなんとか言葉を絞り出した。


「……し、知りたい……です……」


「……分かりました」


未だ、ほぼゼロ距離の顔合わせ状態で、内心ドキドキしているノアを差し置いて、ゼノンはゆっくりと口を開いた。


「それは……」


その時、玄関が騒々しくノックされる音が、屋敷内に響き渡った。かと思うと、続け様に女性の声が聞こえた。


「すいませーん! クッキーをお届けにきた者ですがー!!」


「ポーラ、まずは名前を言わなくちゃダメでしょ?」


ポーラとソフィアの二人が、屋敷を訪問に来た。ゼノンは、何事もなかったかのように、ノアからフッと顔を離すと、席を立ち、部屋の扉へと向かった。


「そういえば、ポーラさんにクッキーを頼んでいたのでした。皆さんで食べようと思っていたのですが……残念です、コータ君とルルカさんはお預けですね。クッキーはあの姉妹と私たちで食べましょうか」


急な空気の変化に、ノアはキョトン顔で、ゼノンを見る。その様子に、ゼノンはくすくすと笑い声を漏らしながら、


「あと、この話もお預けです」


そう言って、部屋から出ていった。静寂が訪れた空間で、ノアは長いため息をつきながら、なんとも言えない表情で、テーブルに突っ伏すのであった。

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