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来客

「……かったるい」


「……私も」


ゼノンが奇跡を撒き散らしてから三日が過ぎた。俺たち転生者組は、あの城での一件の後、心身共に(主に心が)疲れきっており、だらしなく机に突っ伏していた。確かに、みんな元に戻ったし、魔術師の始祖も倒した。本来なら打ち上げパーティーなんかしたりしてもいい感じの流れである。だが……。


まず、俺はあの一件で死んでいる。ルルカに至っては隕石を体で受け止めている。さらには絶望と希望を交互に、しかも特に極端なのを目の当たりにしている。悲しんだり喜んだり怖がったりと、もはや感情の端から端までシャトルランをしてるような気分である。


「……でも家賃分は貯めないとなぁ」


「そうねー……」


上の空で会話する、チート二人組。クエストに行けばガンガン稼げるし、魔王や転生者に関する情報が手に入るかもしれない。だが、疲れているものは疲れているのだ。これだからゆとりは、なんてつっこまれようものなら「え、じゃあお前死んだことあんの?」「隕石くらったことあんの?」って問いただしたい。


「もういっそゼノンをクエストに連れてって無双したら?」


ルルカが思考停止で、無謀な提案をする。そりゃあんな掟破りな存在を連れてきゃ、あっという間に目的は達成できるだろう。なんなら、もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。


だが、そのくらいのことは、すでに試し済みである。気まぐれとはいえ、なんだかんだ俺たちを助けてくれる存在だ。懇願すれば、もしかしたら積極的になってくれるかもしれない……。そう思っていた時期が私にもありました。


「いや、お願いはしたんだよ。「一緒に来てくれ」って。そしたらあいつ、「は? NPCのコータ君がなんでプレイヤーである私に提案してきてるんですか?」って、マジで不思議そうな顔して言ってきたんだよ」


「……ですよねー」


結局、あいつはどこまでも『プレイヤー』に過ぎないのだ。本気を出せばクリア余裕のゲームを、縛りプレイ+舐めプで楽しんでいる。俺たちを助けようとするのはゲームオーバー寸前の時だけなのだ。それまでは、俺たちが瀕死になろうが、なんなら死のうが、基本は放置。むしろそっちの方が奴の望む『ギリギリの戦い』なのだろう。


「チート能力もチート仲間もいるのになんでこんなボロボロなんだろーな……俺たち」


「なんでだろーね……」


そうぼやいていると、軽やかなリズムの足音と共に、ノアがやってきた。両手に金貨の入った袋を抱え込んでいる。それらを嬉しそうに、俺たちのテーブルへ置くと、「ただいま戻りました!」と、ニッコリ笑った。


「町のクエストをひとつこなしてきました。と、言っても、除霊やおまじないの類いをこなしてきただけなのですが……。依頼主さんがとても優しいお方で、少しおまけしてくれたみたいです。とても、とっても感謝です」


ぐふっ……いい子過ぎる……。転生者組がダラダラと愚痴をこぼしている間にも、この子は必死に働いてくれていたのだ。これぞ、我らがシスター。圧倒的な光に照らされた俺たちは……。


「ごめん、ごめんなぁ……」


「私たちがこんなんなせいで……」


今度はボロボロ泣き始めた。報酬を持ってきたら仲間二人がいきなり泣き始めるとか、ノアからしたらたまったもんじゃないだろう。だが、そのノアにはというと、女神のような微笑みを絶やさずに、言った。


「お二人がいたから、私はこうして頑張れるのですよ」


あ、これ神だ。


尊すぎる。後光射してる。もうダメだ、これ以上はだらけてられない。もう動き出すべきなんだ。俺はそう強く思った。


「……ルルカ、行くぞ」


「ええ、そうね」


「あ、あれ? お二人ともどうしたのですか?」


「ありがとう、ノア。もうニート期間は終わりだ」


「私たち、あなたに救われたわ。危うくアンデッド化するところだったわ」


「は、はぁ……?」


困惑したままのノアを置いて、俺たちは椅子から立ち上がると、燃えたぎる眼差しでお互いを見つめ、決意を確かめ合った。そして、勇ましい足取りで、玄関へと向かっていく。後ろから「無理をなさらなくても……」と、呼び止める声が聞こえたが、もう誰も俺たちを止められない。まずは稼ぐ。あのシスターを楽させるために!


「すいませぇん! 王都文庫の者ですけどー!」


玄関から聞こえる来客の声に、俺たちは止められた。誰も止められないんじゃなかったのかよ。なんちゅータイミングだ。てか『王都文庫』ってなんだ。


「ったく、人がせっかくやる気を出したってとこなのに!」


来客からしたらとばっちりもいいとこだろうが、なんせタイミングが悪い。これでただの勧誘とかだったら胸ぐら掴んでやろうかな。


そんな物騒なことを考えつつ、扉を開ける。すると、目の前には、眼鏡をかけ、服装も着崩れている、冴えないおじさんが立っていた。そこまで暑くもないはずなのに、額の汗をハンカチで拭っている。


「あのー……なにかようですか? 本の押し売りとかだったらいらないんですけど」


早いとこ話をつけて、さっさとギルドに行きたい。これでただの押し売りだったらぶっ飛ばしてやろうかな。ダメださらに物騒になってる。


「いえ、違います。地図の通りに来たら、こちらに先生がいらっしゃるとの話で……」


先生? この人は何を言ってるんだ。まさか家間違えてんじゃないだろうな。とはいえ、この辺りに家なんてないし、間違えようがない気が……。と、考えていると、背後から透き通った声がした。


「あぁ、ブロンズさん。来てくださったのですね」


「おぉ! ゼノン先生!」


……は? 『ゼノン先生』? こいつとうとう職業まで好き放題やり始めたか? てかいつの間にまた美人モードになってんだこいつ。


ゼノンは何事もなかったかのように、微笑を浮かべながら、ブロンズさんと呼ばれたおじさんに近づき、握手を交わした。ブロンズさんが「おぉ……」と言いながら、なぜか目に涙を溜め込んでいる。


「ゼノン先生っ……! 相変わらず美しい容姿であられる……。あなたのような眉目秀麗な女性が、あの手の本を執筆になられたとは、この前実際にお会いするまでは信じられませんでした」


「フフフ……そんな、恐れ多いですわ」


「「フフフ」じゃねえよ。なに二人で勝手に話進めてんだよ。こっちは全く状況把握できてないんだけど?」


「そーよそーよ! ゼノン、あんたどこでそんな綺麗なワンピース買ったのよ! 私もそれほしい!」


「もっと状況把握できてない子がいたよ。クエストクリアしたら余った報酬で買ってやるから、今は黙っててくれる?」


そんな、いまだ何がなんだか分かっていない俺たちに、ブロンズさんが少し驚いたような表情で、ゼノンについて、驚愕の真実を口にした。


「え?ご存知ないのですか? いまやゼノン先生は、王都中に『ラノベ』を浸透させた、超売れっ子作家さんじゃないですか」


「はぁーー!?!?」


「えーー!?!?」


まぁたわけの分からないことをかましやがった! なんでこいつは知らんうちに屋敷買ったり作家になったりしてるんですかね?


そんな疑問をよそに、なお驚いたままの表情でブロンズさんは続ける。



「『異世界にチートの光を!~《虐殺光線》で無双な俺は一瞬で回復する加護持ちでもあるので負ける気がしません~』とか、『モンスター使いの管弦楽団(オーケストラ)~絶対に攻撃が当たらない指揮者(コンダクター)はモンスターを操れて無限に召喚もできちゃうので高みの見物余裕でした~』とか知らないんですか?」


「「知らんわっ!」」

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