ポテチ
「「「…………は?」」」
その場にいた、タキシードの男以外の人間が、同じ台詞を呟いた。男は、そんな周りの様子には目もくれず、
「はい、よく噛んで食べて下さいね」
そう言って、いまだ何が起きたのか把握しきれていないままの、シスターのぽかんと空いた口に、ポテチを入れた。
半ば思考停止した状態のシスターが、咀嚼運動のみを、淡々とこなす。
パリ、ポリ、パリ、ポリ。
パリ、ポリ、パリ、ポリ。
あたりの凄惨な光景と不釣り合いな、小気味よいリズムが、静寂した空間で響く。いや、正確には静寂していない。家が燃える音や、崩れる音がそこらからしているのだが、それらが遠くに聞こえるくらい、その咀嚼音は、俺の中で響いていた。
「おいしいでしょう」
男が周りの反応を知ってか知らずか、呑気に感想を聞く。シスターは、口の中で細かくなったそれを、ごくん、と飲み込むと、呆然とした顔のまま、
「……おいしいです」
と、言った。
「うわああああああああああああっ!!!」
突然、気が狂ったかのような雄叫びが聞こえた。転生者だ。転生者が、頭を掻きむしりながら、小刻みに震えている。
「な……、なんっ、なんなんだよお前ぇぇえ!!」
さっきまでのシスターと同じく、怯えと怒りが入り交じった表情で、転生者は叫んだ。声が震えており、ところどころ噛みまくっている。
「なん、なん、っで、…いや、お前、……マジでなん……っ!」
転生者が声にならない声をあげる中、タキシードの男はゆっくりと立ちあがり、袋から、またポテチを一枚摘まむ。
「お待たせしました。……で、なんの話でしたっけ?」
そう言って、再び口に、ポテチを運んだ。
「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、」
転生者が、咀嚼し続ける男に向かって、がむしゃらにレーザーを放ち始めた。ひゅん、ひゅん、と、空を切る音が周囲に響き渡る。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」
狂ったように乱射されるレーザー。狂ったように同じ台詞を吐く転生者。
それに合わせて、男は、再びハエたたきのようにペチ、ペチ、と、レーザーを地面に向かってはたいていった。男の立つ地面に、レーザーによる穴が、どんどん出来上がっていく。
なんだ。
なんなんだ、これは。
なんなんだ、あの男は。
あの男は、あまりにも、『デタラメ』すぎる。