希望の裏側
ゼノンはそうやって、次々に奇跡を起こしていき……。
「はい、これで全部です。次からは消されないよう、せいぜい頑張ってくださいね」
ヘラヘラとした口調でそう言うと、感謝の言葉を述べてくる町民を適当にあしらい、こちらの方へ歩いてきた。
「いやー、見ました? あの驚きっぷり! 中には顎が外れちゃった人とか、腰を抜かしちゃった人もいて……ふふ、面白いですねぇ人間は」
そう言って、口元を押さえながらニヤついていているゼノン。もはや善行なのかイタズラなのか分からない反応である。
「お、お前……いくらなんでも簡単に奇跡を起こしすぎだろ……」
「……私、まだ慣れないわ……。すごくありがたい行為なんだけどね……」
もう幾度も似たような光景を目の当たりにしてきた転生者二人は、それぞれ感想を述べた。ゼノンとはそういう存在なんだ、と分かってはいるものの、やはり実際にこういうことをされると驚いてしまう。
だが、そうだとしても、ルルカの言う通り「ありがたい行為」であることに変わりはないのだ。
「……まぁでも、お前のおかげで、俺の思い残しもなくなったよ」
だから、俺はしっかり感謝を伝えた。
「いきなり遺言とかどうしたのですかコータ君」
「ちげぇよ死なねえよいや死んだけど。てかそうじゃなくて……まぁいいや。とりあえず、感謝してるってこと。お前はいつも、俺たちを助けてくれて……」
「うわ、コータ君が私に全力の感謝をしてきましたよ。なんか鳥肌立ってきたんでやめていただけます?」
「ダメだこいつまともに取り合ってくれない」
ゼノンが遊びだとかゲーム感覚だって認識なのは知っている。でもこうして、現実に救われている人ばかりなのだ。いまさらそこに、動機の良し悪しなど問う必要があるのだろうか。
そしてその感謝の気持ちは、俺の隣にいる転生者も同じらしく、
「わ……私も……一応、ゼノンには感謝してるんだからっ」
と、普段なら絶対に言わない相手に、ルルカは感謝の言葉を述べた。もしかしてこれは……俗に言うツンデレなのでは?
「うわ、ルルカさんまで……。もしかすると私、この世で苦手なのは『エターナルドリンク』と『感謝の心』かもしれません。あーあ、早く屋敷に帰ってノアさんと遊ぼうっと」
どうやら高次元な存在にツンデレは通用しないらしい。ゼノンは不機嫌そうにそう言うと、メイド服の姿のまま、手を後ろに回し、先を歩いていった。俺たち転生者は、そんなデタラメ悪魔の振る舞いに苦笑しながら、後をついていくのだった。
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「隕石が降ったらしいですよ」
内海 零は、バルコニーの柵に手を置きながら言った。話を振られた、真っ白な椅子に腰かけた女性は、持っていた日傘をくるくると回しながら言った。
「それは怖いわねぇ。もしかして、こっちにも飛んできたりして」
くすくすと、小悪魔のような微笑を浮かべる女性。端整な顔立ちに、ストレートに揃えられた髪が、その妖艶さに拍車をかけるように、妖しい輝きを放っている。
やがて、その髪の輝きが太陽由来のものから、別の光の反射へと移り変わった。
「……ほら、言ったじゃない」
女性の髪を煌めかせていた光源が、太陽から、隕石の光に変わったことを理解するには、空を見れば一目瞭然だった。バルコニーに赤い光が差し始め、辺りが微かに揺れ始める。轟音とともに接近する『それ』に、レイはつまらなそうに手を向けると。
「めんどくさいな」
そう言って、デコピンをした。次の瞬間、まだ遠くの空にあった隕石が大爆発をおこし、辺りに赤い石が飛び散った。女性はその様子を見て、楽しそうに笑いながら、
「とても綺麗ね」
皮肉めいたような口ぶりで言った。レイはそれに「それはどうも」と返すと、さらにこう続けた。
「あなたのようなデタラメな能力は持ち合わせてないものでね。こんなやり方しかできないんですよ」
そして、彼はニッコリと笑った。




