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通りすがりに希望を振り撒いてくる奴

俺とルルカは、その叫ばれた名前に目を丸くしつつ、空間からいきなり人間の女性を引っ張り出してきたメイドにも、驚きを隠せないでいた。……まぁ、こんなことできる奴なんて一人しか知らないが。


「え、あの人がリリィさん……なの?」


「ジャックさんがそう言ってんだから……そうなんだろ」


目の前には、ブロンドの髪を縦に巻き、薄紫色の綺麗なドレスを身にまとった、まるで絵本から出てきたような『お姫様』がそこにいた。……が、メイドさんがまだ襟首を掴みっぱなしなので、イタズラして捕まった子供みたいになっている。


「えっと……ここは……ジャックの家…………?」


この中で、おそらく一番事態を掴めていないリリィさんが、きょとんとした顔で呟いた。そしてさらに、俺たちに当然の疑問を投げ掛ける。


「それと……あなたたちは……どなたでしょうか……。どうして私は、捕まっているのでしょうか……」


そして、その問いに答えたのは……。


「おっと失礼、お嬢さん。あなたは消されていたので、もう一回取り出したのですよ」


メイド……いや、()()()は、そう説明すると、リリィさんをそっとおろした。


「リリィ……ああリリィ……! 私は……夢でも見ているのか……!?」


顔を手で覆い、震える声で、なんとか現状把握に努めるジャックさん。まぁそうなるよな、あいつの芸当を見せ付けられた人間は、もれなくそうなる。


「ジャック……。私は、いったい……」


いまだきょとんとした顔のリリィさんが、ジャックさんの方へと歩み寄る。その、何も知らないお姫様を前に、一年間苦悩と戦い続けた王子様は……。


「大丈夫だ……。もう君を失ったりはしない……絶対、絶対に……!」


確固たる決心を口にしながら、リリィさんを強く抱き締めた。そのジャックさんの瞳から、一筋の涙が頬を伝った。


「よがっだぁ~よがっだよぉ~」


感動的なシーンの中、俺のすぐ横でボロ泣きしている女の子がいた。ルルカは、女の子がしてはいけない顔と声で、二人の再開を祝福すると、ポケットからハンカチを取り出し、鼻をかんだ。壊し枠の名に恥じぬ空気の壊しっぷりに、俺は苦笑しながらその様子を見ていた。


「ははははははっ! 消えていた人間を引っ張り出しただけなのに、皆さん面白い反応をするんですね!」


そしてもう一人のシリアスブレイカー、ゼノンは手を叩きながら爆笑していた。うちのパーティーにノアしか癒し枠がいないのはこのためである。


「私は……あなたになんとお礼を申し上げれば……!」


「いえいえ、面白そうだったからやっただけです。お礼なんていりませんよ」


「お、おもしろ……? ところで、あなたはなぜうちのメイドに(ふん)していたのでしょうか……? それに、いったいどうやってリリィを……」


「あー、ジャックさん、こいつの話は聞いてると頭がバグる可能性があるんで、あまり掘り下げない方がいいですよ」


そう言って、俺はまだボロ泣きしてるルルカとまだ笑ってるゼノンを掴むと、


「じゃあ、俺たちはこれで失礼します。報酬はクエストの額分だけで結構ですので。間違っても謝礼金とか追加しないでくださいね! それと……お幸せに」


そう言い残し、そそくさと退出したのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「謝礼金を受け取った方がよかったじゃないですか。せっかく屋敷のローンも一発で返済できるチャンスだったのに」


「お前のぶっ壊れ技で金巻き上げるとかいたたまれないだろーが」


「よがっだよぉ~あとリリィさんがわいがっだぁ~」


「お前もいい加減泣き止めよ」


俺たちは、そんな話をしながら『ファスター』の町を歩いていた。この二人をあの空間に残したままでは、せっかくの再開がぶち壊しである。さっさと出てきて正解だった……。


「ところで、なんでお前は屋敷にいたんだよ」


メイド服で町を闊歩している高次元チート悪魔メイド美少女(詰め込みすぎ)は、はて? と首を傾げながら言った。


「だって実質世界を救ったのは私ですし、一応行った方がいいかな、と」


ぐうの音も出ない。


「お、おう……そうだな。お前が称賛されるべきだったわ。ほんとありがとな」


「『称賛』? 何言ってるんですか、そんなものはどうでもいいのです。ただ、コータ君とルルカさんが朝食の時、あまりにも暗そうだったので……。面白そうだったからついてきただけです」


「本当の目的はそっちだろ。あとそこは励ましにきたとかじゃないのかよ。【面白そうだった】ってなんだよ」


結局、こいつはただ面白い事(主に人間をからかう事)を求めてやってきただけだった。だよなぁ。


と、ゼノンの本質を改めて再確認した時だった。


「じゃ、私は人間の滑稽な姿をもっと見たいので、その辺に奇跡を撒き散らしてきますね」


奴は突然そう言うと、メイド服のまま、町を駆け出した。え、それってまさか……。


そして、うつむき加減に町を歩いていたおばさんに近づき、


「はい、あなたの消えた息子さんです」


「ぼうやぁーーーーー!?!?!?!?」


屋敷で行ったことを町中でかましだした。


「ほら、いなくなっちゃったパパ出しますよー。はいっ」


「パパぁーーーーーー!?!?!?!?」


――――――はい、お母さんです―――――――あなたの親友です、どうぞ――――――――ほら、おじいさんですよ。よかったですね――――――――「あ、あれ、僕は平原にいたはずじゃぷギィ!?」ああ、間違えました――――――――


ゼノンが次々に、消えた町民を引っ張り出していく。それに合わせ、人々は大声で、消えていた人の名前を叫んだ。一年前は『阿鼻叫喚』で埋め尽くされていた町の光景とは真逆の、『狂喜乱舞』の光景が、そこには広がっていた。

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