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平和

「んーと、つまりよく分かんないけど……悪い奴は倒したってことでいいのよね?」


「そうそう。そらもうスパッと一発よ」


「あとドカンと何発かですね」


「お前はもう何も言うな」


結局、その日の朝食はとても優雅とは言えるものではなく、どちらかと言うと子供たちだけで食事したかのような騒ぎようだった。ま、むしろこれがいつもの日常なんだけど。


「ゼノン、バターある? 私ジャムよりバター派なの」


「ドラゴンゾンビのバターならありますよ。あと脳みそのジャムも」


「ふっざけんじゃないわよ! 食欲消し飛ばすような調味料作ってんじゃないわよ!」


こうやってゼノンにからかわれて、俺たち転生者がそれに噛みつき、ノアが黙々とごはんを幸せそうに食べる……。うるさいけど、これが平和な日常だ。昨夜の夕食の時も思ったが、やっぱり俺はこの空間を守るために頑張ろう。……でも頑張り過ぎるとまたすぐ死にそうだからやっぱほどほどにしとこ。


「ルルカ、それ食べ終わったらジャックさんとこ行くぞ」


手に持ったフォークを今にもゼノンに突き立てそうなルルカに言うと、ルルカは「そっかそっか」と言いながら着席した。


「そうだよね、ちゃんと結果報告してこなくちゃ」


「そう、その結果報告だが……」


俺がそこで押し黙ったのを見て、ルルカは何かを察したようだった。このままジャックさんに真実を報告したら、あの人はどういう反応を見せるだろうか。いっそ杞憂なら良かったのに、と思うだろうか。


「ジャックさんは……今も怯えているのよね」


ルルカが俯きながら、ボソっと呟く。


「ああ……。犯人は、転生者でしたー、なんて言ったら、今後さらに神経質になるかもな」


「でも……多分、ジャックさんも、なんとなくに予想はできてるんじゃないかな」


「そんな感じで、ある程度覚悟ができてくれてたらいいんだけどな……」


少ししんみりとした会話をする転生者二人組を、心配そうに見つめる視線があった。ノアだ。彼女は食べる手を止め、口を開いた。


「事情はよく分かりませんが……きっと大丈夫です。お二人とも、頑張ったのですから」


そんな、なんとか励まそうとしてくれているノアの姿が、とても健気(けなげ)で……。俺は顔を上げ、ノアを真っ直ぐに見つめて言った。


「ありがとな、ノア。やっぱシスターの言葉って響くわ。うちのパーティーで唯一の癒し枠なだけあるな」


「ちょっとー! それだと私はどうなのよー!」


「壊し枠」


「人を破壊神みたいにゆーなー!」


こうしてなんとか気持ちを切り替えることができた俺たちは、朝食後、身支度を整えてジャックさんの屋敷へと向かうこととなった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ジャックさんの屋敷に辿り着き、ルルカが再び大声で「クエストの結果報告に来たんですけどー!」と叫んだ。ほんと、こういう時だけは頼もしいなぁ。


その声に、今度は池で魚に餌を与えていたメイドさんが反応した。こうして見ると、庭だけでもメイドさんは四人ほどいる。やっぱ金持ちは違うなぁ、うちは家賃払うだけでもギリギリなのに……と、謎の劣等感を抱きながら、メイドさんの案内についていった。


扉の前に着き、前と同じように、メイドさんがノックをする。その後、主の許しで、俺たちは室内へと入った。


「クエストの報告に参りました」


「おぉ、もう判明したのですね。それで、その正体は……」


不安げに聞くジャックさんの顔が、見てるだけで辛い。だがやはり、ここはちゃんと事実を伝えなくてはならない。


「……結論から言うと、転生者でした。えっと、あなた方の認識でいう『遠くの国から来た者』、です」


「……つまり、一年前に、私の婚約者を消した、あの異国の男と同じ存在である、と」


「……はい」


胸が締め付けられるのを感じながら、俺は頷いた。それはルルカも同じらしく、しおらしい姿で、窓の外を見ていた。


「……やはり、そうでしたか。最近、異常な能力値を誇る者が、あちこちに現れていると聞いていましたが……。なるほど、ありがとうございました」


そう言って、ジャックさんは頭を下げた。彼はこの報告に何を思うのか……。小さく折り畳まれた、寂しげな姿を見ていると、目頭が熱くなってくるのを感じた。ダメだ、泣くんじゃない。一番辛いのは他でもない、ジャックさんじゃないか。


「あ……あの、私……いや、私たちが、もうそんな悲劇が起こらないように、ちゃんと転生者を倒していきますからっ……! だから……だから……っ!」


―――「安心して」……。その言葉が、出そうで出ない。ルルカとしては、そんな無責任なことを言うのも(はばか)られるのだろう。ましてや、相変わらず絶望的な世界であることに変わりはない。絶対に安心だなんて、なおさら、保証はできないのだ。


「……ありがとうございます、ルルカさん。でも、私は大丈夫です。消えてしまったリリィのためにも、私はこれからも、このような悲劇が起こらないように祈るだけです。……私には、それくらいしかできませんから」


己の無力さに、最後には肩と声を震わせながら、ジャックさんはそう語った。婚約者を失ってもなお、こうして他人の幸せを願うことができる……。この人は、本当に強い人なんだな。


と、その時だった。


「あのー、すいません」


背後から女性の声がした。振り向くと、そこには先ほどのメイドさんがいた。前回は、素早く退出したというのに、今回はなぜか、まだ室内にいるようだった。


そして、そのメイドさんは。


「もしかしてリリィさんってこの人ですか?」


次の瞬間、メイドさんは空中から人間の女性を()()()()()()()。その光景を見ていたジャックさんはというと。






「リリィいいーーーーーー!?!?!?!?」




痩せ細った見た目からは想像できない声量で、婚約者の名を叫んだのだった。

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