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帰還

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺は、その辺を走っていた馬車を適当に止めると、行き先を伝え、倒れるように乗り込んだ。御者のおじさんがその様子を見て、心配そうに声をかけてくる。俺は適当に「大丈夫っす」と返すと、馬車の中で眠りについた。


しばらくして、俺はまだ夢うつつな気分で、目が覚めた。そのまま、馬車の心地よい揺れと、蹄のリズムを、うつろな意識で堪能していると、馬車は徐々に速度を緩めた。どうやら眠っている間に、屋敷の近くまで来たらしい。


「ほい、着いたよ」


「ありがとうございます」


そう言って、懐から財布を取り出す。……よかった、財布は無事みたいだ。隕石降ってきたってのに、以外と大丈夫なんやなぁ。唯一、この世界で運が良かった出来事かもしれない。


「それにしても、昨晩の隕石すごかったね~。もう世界の終わりかと思っちゃったよ。なんか廃城辺りにも落ちたっていうし」


「え、あ……はは、そうっすね、はい。あの、ありがとうございましたっ!」


「実はマジで世界の終わりだったんですよ」なんて口が裂けても言えないので、俺はお金を渡すと足早に馬車から降りた。


屋敷に向かうと、玄関でゼノンが立っていた。あの空間で見たのと同じように、後ろに手を回し、不敵な笑みを浮かべている。


「ちゃんと仕留めてきましたか?」


「ああ。おかげさまでな」


俺は玄関の方へ歩いていき、ゼノンの横を通り、玄関の扉を開けた。俺はそこで、足をピタリ止めた。俺は、相変わらず何を考えているのか分からない出で立ちのゼノンの方へ振り向くと、


「ありがとな」


それだけ言って、屋敷の中へ入っていった。後ろで、今まで聞いたことのないような、柔らかい笑い声が聞こえた。


「あ、コータ、お帰りなさい」


ノアがパタパタと足音を鳴らしながら、俺の帰還を迎えてくれた。そういやノアには、なんも言わずに出てきちまったからなぁ。なんて言い訳しよう……。


「ルルカから話は聞きました。お疲れ様でした」


そう言って、ノアは微笑んだ。なんだ、もう知ってたのか。そりゃあんだけ隕石が降ってたら、疑問にも思うよな。……あれ、この子そういえば最初に隕石降ってきた時爆睡してなかったっけ。眠り姫かな?


……てか、ルルカさんは大丈夫なんですかね。


「なぁ、ノア……そのルルカについてなんだが……」


そう言いかけた時、別室の扉が勢いよく開いた。俺はビビりながらそちらの方を向くと、そこには髪もボサボサ、目は泣き腫らしたように真っ赤のルルカが立っていた。


「コータ~……! 私怖かったよぉ~……!」


明らかに不自然な挙動で、こちらにフラフラと歩み寄ってくる。ましてや顔が顔だ、あの小動物のような愛嬌溢れる顔立ちは、今となってはただの轢かれたカエルのようにクシャクシャになっている。お前も轢かれたのか?


「お前の方がこえーよ。とりあえず一旦休ませてくれ。その後でいろいろ聞いてやるから」


ゾンビ化しているルルカをなんとかなだめ、俺は二階へと向かった。適当に空いてる部屋に入り、扉を閉める。下の階から、ルルカのすすり泣く声が聞こえるのは軽くホラーだったが、できるだけ気にせず、俺は着替えることにした。


エクスカリバーを置き、ケティに教えてもらった服屋で買った町衣装を、その身にまとう。そして、縦長鏡の方へ向かい、自分の姿を映した。


「……ほんとに生きてんだな、俺」


死んだのはこれで二回目だが、生き返るとはいえ、やはり死ぬのはいい気分ではない。体に変なアザがついてたりしないか、服をめくって確認する。だが、ゼノンの蘇生は完璧で、傷どころか、中学生の頃に刺さりっぱなしで皮膚に残っていたシャー芯まで消えている。治りすぎてて怖い。


その時、扉をコンコン、とノックする音と同時に、ゼノンの声が扉越しに聞こえた。


「コータ君! 朝ごはんができましたよ! 間違っても床ドンとかして「オラァ! 早く飯持ってこいや!」とかやめてくださいね」


「お前は俺のオカンか。日本でもそんなことしたことねえよ」


俺はなんとなく、多分これからも何回か死ぬんだろうなーとか思いながら、小さくため息をつくと、下の食堂へと向かった。


下の食堂にたどり着き、各自、昨晩と同じような席順で座っていった。ルルカは、目前に広がる美味しそうな朝食を見るなり、目をキラキラと輝かせた。立ち直り早くね?


「はい、いただきます」


ゼノンがそう言うなり、手をパン、と叩いた。俺たちもそれにならい、「いただきます」をしていく。ノアだけが少し遅れ気味に、「い、いただきます……?」と、小さな手をペチッと鳴らした。そういや、昨日の夜は「乾杯!」で食べたんだっけ。金髪美少女が日本の風習に(のっと)ってる姿は、まるでホームステイしてきた外国の女の子みたいだ。


そんなことを考えながら、俺はパンを掴みとった。まだ温かく、掴んだ勢いだけで、その形状を大きく変えていく。掴む力を弱めると、パンは再び、ふんわりと膨らみながら、元に戻った。この一連の流れだけで、いかに焼きたてで美味しいかが分かる。


俺がそんなことを考えながら、パンを口に運んだ時、ルルカが言った。


「そういやコータ、結局あの城で何があったの? 私、いつの間にかここにいたから分からないのよね」


俺は気管に入りかけたパンによって、激しく咳き込んだ。慌てて近くのコップを取り、水を飲んでパンを流し込む。


言えねぇ。「君が反射した隕石のおかげでぼく死にました」とか死んでも言えねぇ。いや死んだんだけど。


「ああ、それならルルカさんが反射した隕石でコータ君はズタズタに……」


「あー!! ゼノンのパンはうめぇなぁ! やっぱお前料理人目指した方がいいじゃねえか!?」


「え、私がコータを……?」


「いやいやいや、違う全然違う! 元凶の城の主が世界を人質にして俺をズタズタにしてきたところを、ルルカ隕石を反射してくれたおかげで、俺は世界の心配をせずに心置きなく戦えたって話!」


なんなら実質殺してきたのはゼノンの方だから。ルルカは悪くない、むしろこの世界を、文字通り、体を張って救ってくれたのだ。


「あ、あとルルカさんも城の罠でズタズタに」


「それは人形だったろーが……! いやーなんかね? 城の主のイタズラで、そういう幻覚を見せられたんだよ! ったく、趣味悪いよなー!!」


自分そっくりの人形が、剣山で串刺しになっててパッと見血まみれだったとか言えねぇ。この子すでに隕石の件でだいぶメンタルやられてるから尚更言えねぇ。なんも言えねぇ。

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