混沌の廃城
俺は、機能停止寸前の頭を、なんとか復活させた。怒りと絶望に震え続けた体は、むしろ、心拍数が上昇して、熱くなってくるのを感じる。うつろげな目は、徐々にある一点を目指して動き始める。そして俺は、その大嫌いな声がするスクリーンの方へと、頭を上げた。
そこには、あのデタラメ悪魔が、狐のような笑みを浮かべて、しっかりと映りこんでいた。
『ええ、本当ですわ、ゼノン教授』
『そうでしょうそうでしょう。この時期はやっぱり、隕石対策しておかないと危ないですからね』
信じられないほどクソみたいな茶番を始めるゼノン。映像はなぜかスタジオ風になっており、キャスターの席にはゼノンと、女寄りのゼノンの二人が座っていた。そしてその二人は、まだ語り続ける。
『でも、対策って一体何をしたらよろしいんですの?』
『いい質問ですねー。というわけで、実際に対策する様子を、生中継でお届けします。現場のゼノンさーん!』
次の瞬間、映像が切り替わり、タキシードにヘルメットという、珍妙な格好をしたゼノンが映し出された。ゼノンは崖の上に立っており、その背後には、あのプリト村が広がっていた。
『はい、現場のゼノンです。ただいま、あの村の上空に巨大な隕石があります! あのままだと、スタジオのVTRみたいになっちゃいますよね! そこで! 今回こちらを用意しました! こちらがプリト村上空の映像です!』
再び画面が切り替わり、今度は村の上空の映像となった。だが、そこにゼノンはいない。代わりにいたのは……。
『ちょっとー! なんなのこれ! なんで私こんなところにいるのー!? ねえ、誰かー! 私今浮いちゃってるんですけど!!』
「ルルカぁー!?」『小娘ぇ!?』
俺とヴァンの間抜けな声が重なり、部屋に響いた。あれ、なんでだ? ルルカはあの罠に引っ掛かって……それで…………!
『なぜだ、なぜ貴様が生きているっ! 第一このふざけた映像はなんだ!』
ヴァンが今までに聞いたことのないほどの怒気をはらんだ声で、誰もが気になっていることを指摘する。それに返答するように、スクリーンからまた、あの悪魔の声が流れた。
『なぜって、そりゃあの罠にかかってるのはルルカさんじゃないですもの。単なる人形です。あ、もしかして血のことについてですか? あれは昨夜、私が飲んだ赤い飲み物ですよ! 飲みたければ奈落のそこへGO!』
GO! じゃねえよ。てかなに普通に会話しちゃってんだよ。
『ねえー! なんかでっかい石みたいなのが私に向かってきてるんだけどー!? なにこれ怖いっ! ちょ、ほんとに止まらないんだけどあれ! うわあ待って待ってぶつかるいやだいやだ待って助けてぇー!!』
ルルカが真っ赤な空の中心で、哀を叫ぶ。だがルルカにはどうしようもないらしく、手足をバタバタさせるだけで、浮遊位置は変わらなかった。そんなルルカのことなどお構い無しに、隕石は接近していく。
『ルルカさん、あなたの加護ならきっと大丈夫ですよー!』
『え! ゼノン!? ちょっとあんたどこにいんのよ! ってそれどころじゃない! もうダメぶつかるー!!!』
ルルカの絶叫と共に、あの対【ウタカタ】戦で聞いた、鈍い金属音が鳴り響いた。いまだ泣き叫ぶルルカに対して、隕石はその軌道を、真逆の空の彼方へと変え、飛んでいった。
『素晴らしい! さすが《神鏡の加護》ですね! あんな隕石さえ跳ね返しちゃうなんて! やはり隕石対策にはルルカさんが一番!』
俺は一連の流れを、口をあんぐりと空けながら見ていた。
が、同時に。
「……はは、ははははっ……」
いつの間にか、笑みが溢れていた。そうだった。かつて村が転生者に襲われた時だって……あいつは……ゼノンは、こうして面白おかしく、絶望をはね除けてしまったじゃないか。
「最初っからやれってんだよ……」
だんだん笑いが強くなってきて、涙が出てきた。俺は何も失ってなどいなかった。いや、失わずに済んだんだ。あの、どこまでもふざけていて、最高に頼りになる、最強悪魔によって。
『なんだ……なんだこれはっ! 一体何が起きているというのだ! あのタキシードの人間は何者だ! なぜこんなことができる!』
『質問が多い魔術師さんですねぇ。そんなの決まってるでしょ。だって私……』
ああ。そうだな、お前は。
『めちゃくちゃ強いですもん』
かつて、村で言い放ったあの台詞を、さも当然と言わんばかりに吐き捨てた。
『……ふざけるなぁ! 理論を言え、論理を構築しろっ! なんだその知慮に欠けた言い分は! そんなデタラメな説明で納得できるわけがないだろうっ!!』
「納得できるわけねえだろ、実際あいつはデタラメなんだから」
俺は、慌てふためくヴァンの声を聞き、内心ほくそ笑みながら言った。
「納得なんて、魔術師の始祖だろうが無理だ。どれだけ知識があろうが、知恵があろうが、そんなものを遥か彼方に置き去りにする勢いで、奴は別次元なんだから」




