世界の終焉
「何が始祖の魔術師だ……! やってることはただの大量殺戮じゃねえかよ……! 出せっ! この部屋から出せよっ! 俺と真正面から戦いやがれ、魔術師モドキめっ!」
『出たいなら出ればよかろう。ただし扉からは無理だがな。壁を壊してがむしゃらに探すか? 残念ながら、我輩には《盗賊王の加護》が付与されている。これがある限り、潜伏能力は常に規格外だ。見つかるはずがない。……盗まれた側の我輩が盗賊とは、皮肉が利いているだろう?』
ヴァンはそう言って、乾いた笑い声を上げた。その声色には自嘲の他に、わずかに震えが混じっていた。それが怒りの表れであることは、想像に難くなかった。
『まずは手始めに、少し離れの村でも潰すか。【シトレ村】【カンタール村】【プリト村】……。いろいろあるな。さて、どれから潰そうかな』
奴が羅列した村の名前の一つに、俺の体は強張った。【プリト村】は、ポーラとソフィアがいる村だ。一度、転生者による惨劇を乗り越えた、奇跡の村。俺の大切な人たちが生活する、ようやく物語が動き始めた村。それを、ヴァンは滅ぼそうとしている。
そして、またしても世界は、俺に不運の賽を振った。奴は、俺の反応を見逃さなかった。
『……ん、どうした、青年よ。最後のに語った村の名が、そんなに気になるのか? ……ふはははははははは! そうか、分かったぞ。貴様には思い入れのある場所なのだろう? 実に愉快だ! 人がどこまで絶望に歪むのか、見てみたくなった。【プリト村】……。決定だ。断罪を開始する』
「やめろっ! それだけは本当にっ……やめてくれっ……!」
神様。
これ以上の絶望を、もう寄越さないでくれよ。
俺が何をしたってんだ。
どうして俺が、ルルカが、みんなが。
こんな目に合わなくちゃならないんだよ……!
『滅亡の幕開けだ。我輩を追放した愚者たちよ。神の一撃を食らうがいい』
次の瞬間、部屋全体が、魔術の赤い光で照らされた。その強力な光と共に、体を引き裂くような暴風が、部屋を駆け抜ける。それによって灯火はかき消され、部屋に残ったのは、禍禍しい、辺り一面の『紅』だった。
「おい……待ってくれ……」
『もう遅い。すでに発動済みだ。今にでもあの村は、地図上から……いや、この世から消えるであろう。……いつまでも仲間の遺体を見続けるのは、苦しいだろう? では、視点を変えるとしようか』
そして、魔術の光で赤く染まった天井に、今度は外の景色が映し出された。もはや疑う余地もない、【プリト村】の風景だ。先ほどの隕石落下により、村の住民は騒然としていた。おそらく、ポーラやソフィアもその中に紛れているのだろう。
『今からこの住民たちは、我が魔術によって、凄絶な死を遂げる。まさか、先ほど自分たちが視認した隕石が、今度は自分たちの方にもやって来るとは、夢にも思わないだろう。……おや、空が光始めたな』
プリト村の上空が、かつて屋敷から覗いた景色と同じ、赤い空模様を彩っていた。やがて視点は、徐々に村から離れていき、ついには村全体と、上空を映す形となった。その真上から、あの巨大な石が接近してきているのを、俺は俯瞰する形で見せつけられていた。
『さぁ、村が消えるぞ。安心しろ、村人たちはきっと、何が起こったかも分からぬうちに死ねるだろう』
「みんなが……村のみんなが……っ!!」
もう自分に何かできることなんてない。俺の声は村人には届かない。それでも、俺は彼らに、避難するよう、言葉を繰り返し続けていた。
「頼むから……! 頼むから逃げてくれ……頼むよっ……!!」
『終わりだ、青年よ。直撃する』
ヴァンが、冷たい声で言い放った。そして――――――――――――――――
スクリーン一面が、強烈な光に包まれた。
あの屋敷で聞いた轟音が、部屋全体に響き渡って、反響した。真っ赤に染まる部屋の中で、唯一白い光を放ち続けたスクリーンから、やがてその光は消えていき……。
そこには、大きく地面が抉れた跡と、辺りに立ち込める土埃、そして、まだ赤い光を放ち続ける巨大な石の破片だけが、映し出されていた。
「ぁ……っあぁ、みんな、みんなが……! ポーラ……ソフィアぁ……!!!」
『さて、これでまずはひとつ。次は、後の二つにも落とすか。そうだ、ここからそう遠くないところに『ファスター』という町もあったな。そこにも落とそう。ははははははっ! なんだ、案外あっけないな! こんな簡単にも、世界は終焉を迎えるのか!』
唸り続ける俺を差し置いて、ヴァンは淡々と自身の考えを口にすると……。
『断罪を開始する。【シトレ】【カンタール】【ファスター】。神の一撃を食らうがいい』
そして再び、部屋全体が真っ赤に染まった。
また、発動した。今度は三つも放ちやがった。
仲間は無惨に殺された。
自分の大切な場所は、そこにいた大切な人たちと共に、消されてしまった。
こんな世界で、一体なにを守れっていうんだ。
ああ…。もう何もかもが、どうでもよくなってきた。
もう、いいや――――――――――――――
『と、言うのが隕石が落下した場合の映像です。怖いですねー! やはり常に防災対策はしておかないと!』
全てを諦めかけたその時、どこかで聞き覚えのある、中性的な声が、スクリーンから流れた。




