闇夜の廃城
平原へと降り立った俺たちは、すぐさま城の方を見た。赤い光は確認できない。再び魔術を発動していないことだけでも分かり、少し安堵した。だが、気は抜けないのも確かだ。
「今のうちに急ごう」
「そうだね」
俺とルルカはお互いに頷くと、駆け足で城の方へ向かった。真夜中ということもあり、アンデッドがたびたび襲いかかってきたが、それを、俺が先陣をきって薙ぎ倒していく。ほんと、モンスター相手なら、こうやって無双できるのにな……。
こうして、なんとか城の入り口にまでたどり着いた。振り替えってみると、俺たちが来た道には、大量のアンデッドの死骸がある。それが、「次にこうなるのはお前たちだ」と暗示しているような気がした。すぐさま頭を振って、嫌なイメージを振り払い、城の扉を見据える。
「まだ犯人かは分からない。とりあえずは、城の主を探すんだ」
「分かった」
そう言って、俺たちは城の中へと、足を踏み入れた。
さすがに廃城ということもあってか、中はカビ臭く、ところどころにコケとカビがこびりついていた。それに紛れて、アンデッドの死骸も散在している。この死骸は城の主がやったものなのだろうか……。もしかしたら、もとはアンデッドの住み処だったのかもしれない。
「城の中までアンデッド祭りだったらどうしようかと思ったぜ。ゲームじゃあるまいしな」
張りつめた空気を払拭するため、俺は冗談めかして言った。ルルカは、まだ少し強張った表情だったが、それでも、笑顔で「ほんとだよー」なんて、返してくれた。本当に、この娘は強い子だと思う。
暗く、湿りきった空気を肌で感じながらも、歩を一歩一歩進める。窓から入る月明かりが、アンデッドの死骸を照らし、その陰影を、色濃く表していく。普段は穏やかな光なのに、受けて側の心情や場面によっては、こんなにも不気味なものとなるのか、と、一人思いにふけっていた。
その時、ルルカが小さく声を漏らした。
「どうした、ルルカ」
「あ……あそこ……」
ルルカが、螺旋階段の横にある壁を指差す。なんの変哲もない、ただの壁にしか見えないが……。
「あの壁か?」
「うん……。あの辺りに、強力な魔術結界が張られてる」
「結界……? Zウォールみたいなものか?」
「まぁそこまでは強くないけど……そんな感じ」
なるほど。ということは、あの結界の先に、赤い光を放つ魔術師がいるのだろうか。しかし、螺旋階段を登った先も気になる……。
「その結界は解除できそうなのか?」
「まぁね。けど……ちょっと時間がかかると思う」
おそらく、結界の先にいるのだろう。だが、他の場所にいる可能性も捨てきれない。こうしている間にも、隕石の魔術が、再び発動されるかもしれない。時間がない中での、最善の行動は……。
「……分かった。じゃあ、俺は螺旋階段の先へ向かうよ。何もなければすぐ戻ってくるし、何かいたら、大声で呼ぶから。そっちも、何かあったら呼んでくれ」
「うん。気をつけてね……」
ルルカはそう言い、解除作業に取りかかり始めた。俺は、その様子を確認すると、横の螺旋階段に足をかけた。
階段は細く、両サイドの壁は、押し潰してくるかのような圧迫感がある。壁には小窓が連続し、その一つ一つから月明かりが漏れていた。その光を頼りに、踏み外さないように、一段ずつ登る。時間が、やけに長く感じられた。
最後の一段を乗り越えた時、正面に、両開きの黒い扉があるのが見えた。扉の周りに光源はなく、螺旋階段から溢れる、わずかな月明かりでなんとか視認できる程度だった。それもあってか、ただでさえ黒い扉は、その漆黒さをより深めていて、手を伸ばせば吸い込まれそうなほどの『闇』を形作っていた。
「どこまでも不気味な城だな」
ボソッと呟いた俺の声が反響し、闇夜の廃城に消えていく。虚無感が漂う圧倒的な静寂で、俺は気を引き締めると、ゆっくりと黒い扉を開けた。
部屋に踏み入れた途端、周辺の壁に掛けられた燭台が、一斉に火を灯した。大きく開けた、闇に染まる空間が、淡いオレンジ色の色合いへと変わっていく。俺は、後ろ手で扉を閉めると、辺りを注意深く観察しながら、ゆっくりとエクスカリバーを引き抜き、警戒体制へと移った。
その時、突如どこからともなく、男の低い声が広大な部屋全体に響き渡った。
『来訪者か。さては魔術の光を感知した者か?』
男の質問に答えず、俺は必死に辺りを見回した。しかし人影らしきものは見当たらない。となると、相手は不可視の能力者か、別室からこちらをうかがっているかのどちらかだ。
「おい、あんたが隕石魔術の犯人か?」
『質問に質問で返すな、と教わらなかったか? まあいい。貴様の言うとおり、我輩は確かにそういった類いの魔術を扱う者。そして……』
俺は、次に奴の語った台詞が、あまりにも想定外のものだったのと同時に、言葉の意味を理解して戦慄した。
『貴様らと同じ転生者だ。……かつて、魔術を発明した、始祖に位置する魔術師のな』




