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城へ

「……信じられねぇ」


確かに運が悪い世界だと、絶望的な世界だと、何度も聞いてきた。だけど……だけどこれは。


運が悪いとかのレベルを超えている。隕石落下で、地図上の地形が丸々変わる。どんな確率だよ。恐竜時代じゃねえんだぞ。人類滅亡レベルとまではいかなかったが、あんなのがまた降ってきたらたまったもんじゃない。


「とりあえず、俺たちは無事だったんだ。危うくバッドエンドまっしぐらだったが、それはなんとか回避でき……」


そこまで話した時、ルルカの様子がおかしいことに気付いた。顔は焦りから恐怖へ、体は臨戦態勢から、小刻みな震えへと変貌している。


「……ルルカ?」


できるだけ、落ち着いた声色で、ルルカに問いかける。俺の声に、体をびくん、とさせると、こちらを見ながら、その重い口をゆっくりと開いた。


「……あ……あれ……《魔術》……だった……」


「…………っ!!」


嘘だろ……! 隕石を落下させて、地上の一部を吹っ飛ばす魔術だって……? もはやチートどころの話ではない。たった今、あんなもんがまた降ってきたら……なんて懸念してたばかりだぞ。それが魔術によるものだって言うなら……!


「つまり……発動すれば、いくらでも落とせる、ってことか……!?」


ルルカは黙りこくったまま、小さく頷いた。……冗談じゃない。乱発されたりなんかしたら、いよいよ世界は終わりだ。加護があるからどうとか言う話ではなくなってくる。


「あの赤い光……魔術発動時の光……なんだけど」


ルルカが、再び口を開いた。自分で自分を奮い立たせるためか、左手で、右腕を力強く掴んでいる。俺は、焦らせないように、ただ次の言葉をじっと待った。


そして、ようやく呟いた言葉は、さらに想定外のものだった。


「……多分、ジャックさんが言ってた……城の光と、同じだと思う……」


「……『赤い光』……そういうことか」


確かに、隕石も赤い光をまとっていた。あれは大気圏を通過する際の光以外に、魔術の光も混じっていたということか。


あんなものを平然と使う魔術師がいる。そしてそいつは、俺たちのクエストの先にいる。ツイてないなんて言葉だけじゃ表現できない。もはや、何者かに、そういう運命を辿らせられてるんじゃないか、という気さえしてくる。


だが……そうだとしても。


「ルルカ、お前はここで待っててくれ」


「ちょ、コータ……!? まさか、城に行く気!?」


「そのまさかだよ。そいつが犯人かは知らんが、どうせ調査する予定だったんだ。今から行っても同じことさ」


そう言いながら、俺はゼノンのことを考えていた。こういう時、なんとでもしてしまえるのが、あのデタラメ悪魔だ。基本、非協力的だから、この件に関しても「頑張って下さいね」で終わりそうな気はしている。だが、戦力になってくれるなら……。


そう思いながら、ゼノンの方を見た。……だが。


「えと……ゼノンはずっと、あんな感じだったの。いくら話しかけても……ダメだった」


俺の視線の先に気付いたルルカが、助言をはさんだ。なるほど、そりゃルルカだって、真っ先にあいつを頼るわな。だけど……そのゼノンは……。


一言で言うと、爆睡していた。タキシード姿でありながら、品もなく、椅子にふんぞり返る形で、大きな口を開けながら、いびきをかいている。そういやあいつ、ワイングラスに、たっぷりと注がれた謎の液体を大量に飲んでたな。つーか、なんだか酒臭い。さては昨日はっちゃけてたな……?


「ダメだ、 このままじゃ、いつ二発めの隕石が降ってくるか分からない。俺はもう行くから」


俺は近くに立て掛けてあったエクスカリバーを持ち上げた。そのすぐ横で、ルルカが引き留めるように、俺の袖をつかむ。


「待って、私も行く」


「え……」


本来、ここで断るべきなのだろう。なんせ、彼女はまだ震えていた。自分より遥かに強大な魔術を見て、恐怖がまだ抜けきれていないのだろう。そりゃそうだ、俺だって勝てる気はしていない。だけど、現時点でなんとかできるのは、俺たちしかいないのだ。それに……。


「私、昨日決めたでしょ? 転生者を倒すって。あの魔術が転生者によるものかは分からないけど……それでも、なんとかしなくちゃいけないことだから」


そう、彼女の決意は、すでに昨日聞いていた。ここで同行を断ってしまえば、彼女の思いを踏みにじることになる。それになにより、俺なんかより、ルルカの方が強い。少しでも勝率を高め、世界の滅亡を食い止めるには、断れるわけがなかった。


「……分かった。でも、無茶はしないでくれ。危なくなったら、すぐに屋敷へ戻るんだ。相手は下手すると、転生者の魔術師だ。もしそうであるとすると、加護さえも信用ならなくなってくる」


「うん。大丈夫、自分の力を過信しないよう、気を付けるから」


チートVSチートの戦いは、いつも予想外の連続だ。何があってもおかしくはないし、無事は保証できない。細心の注意を払って、臨む必要がある。とはいえ、もし何かあったとしても、ルルカだけは逃がすつもりだった。


「あ、私、一度行った場所なら魔術で行けるかも」


「……ってことは、近くてもあの平原か」


かつて、《ウタカタ》の転生者と戦ったあの平原。あそこなら、馬車がなくても、なんとか城までは辿り着ける。


「じゃ、ルルカ。頼む」


「うん」


ルルカは了承すると、その場で詠唱を始めた。それに合わせて、徐々に俺たちの体が、青白い光に包まれていく。そして、ルルカが全ての詠唱を終えた時、隕石落下によって騒然とし始めた、真夜中の王都から、俺たちの姿は消えていた。

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