終わりの始まり
「さ、とりあえず皆さんそろったことですし、そろそろいただきましょうか」
「そうだな」
「そうね」
「はいです」
そして、ゼノンは謎の飲み物、俺たちはエターナルドリンクを片手に、一斉に乾杯をした。
そして、各々が食事にありついていく。王都についてから一ヶ月以上たつが、テーブルの上には、飲み屋で食べるようなものはなく、そのどれもが初めての食べ物だった。ゼノンが作ったとか言ってたが……何か入ってたりしないだろうな。
「おいしー! ゼノン、あんた料理の方面で活躍した方がいいんじゃない!?」
あ、ルルカがすでに食ってた。あいつ、ゼノンに散々なことされてる割には、全く疑わずにいったな。ある意味度胸がすごい。
「料理の道を楽しんでもいいんですけど、そんなことしてたらこの世界終わっちゃいますしねぇ」
「あ、やっぱ料理の道ダメ。私たちと冒険してて」
「それも飽きたらやめますけどね」
高笑いするゼノンに、抗議しようと突っかかるルルカ。それを物ともせず、カニに似た食べ物に食らいついてるノア。ここが絶望的な世界であることに変わりはないが、こうして仲間たちと食卓を囲めるのは、細やかな幸せである。俺は、この幸せだけでも維持できればそれでいい……そう思った。
そんなことを考えていた時、ルルカが、俺の近くによってきた。やばい、ルルカのくせにめちゃくちゃいい匂いする。そんな俺のソワソワもお構いなしに、ルルカは言った。
「私、吹っ切れたわ。これからは転生者をバンバン倒してく」
「ゾンビみたいに?」
あえて冗談めいた返答をすると、「からかわないでよー」と、俺の肩をパンチしてきた。そんな本人も、どこか照れ隠し気味に笑っている。
「ゼノンが言ってたことが真実なら、私のやってることは、いわば再転送みたいなもんだしね。もう罪悪感なんてないわ。どうせ相手は、悪い奴らであることに変わりはないし」
「なんだかんだ、ゼノンのフォローが効いてるみたいだな」
「あれがフォローって言うのか分かんないけどね」
そう言ってクスクスと笑うルルカの表情は、本人の言う通り、どこか吹っ切れたような、清清しい表情だった。ゼノンとしては、私利私欲から来る発言だったのだろうが、こうして一人の仲間の悩みが晴れたことには感謝している。
ふと、ゼノンの方を見ると、ノアと一緒にカニらしきなにかと格闘していた。こいつら仲いいな。悪魔寄りの何かと修道女のコンビというのもなかなか変な話だが、そのちぐはぐ感が、なんだか面白かった。
「ま……これからいろいろ大変だろうけど、まずは明日、城に行って、調査する。そんな感じで、徐々にクリアしていこうぜ」
「うん」
そう言って、俺とルルカはコップをコン、と合わせた。その後、ルルカは得たいの知れないブヨブヨした物体を皿に乗せると、そのまま食べ始めた。……なんだあれ。
ま、なるようになるさ……。そう思いながら、俺はその日の夕食を、存分に楽しんだのだった。
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「コータ! コータッ!」
いつの間にか、テーブルに突っ伏して寝てしまっていた俺は、ルルカの慌てた声で目覚めた。上体を起こし、眠い目を擦りながら、ふと、窓の方を見てみる。なんだか外が明るい。どうやら朝になっていたみたいだ。
「あぁ……ルルカ、おはよう……」
「それどころじゃないの! 外っ! 外を見てっ!」
ルルカが血相を変えて、なぜか『外』を見るよう伝えてくる。と言っても、今見たばかりなんだが……。
……ん?
そういえば……鳥のさえずりが聞こえない。
そして、やけに外が明るい。いや、明る過ぎる。なんだか……日の光というより……少し赤みがかっているような……。
ただならぬ雰囲気を感じ取った俺は、椅子を飛ばす勢いで立ち上がると、すぐさま窓の方へと向かった。おかしい。明らかにおかしい。おそらく……まだ、夜は明けていない。
そして、その予感は的中した。
空が、真っ赤に染まっている。だが、光源となる太陽の存在は確認できず、代わりに、赤い光によって、不気味なまでに赤く発光した満月が、空に浮いているのが確認できた。だが、その満月さえも光源ではない。この空を赤く染めている物の正体は……。
「……おい……マジかよ………」
隕石だ。
巨大な隕石が、赤い光を放ちながら、夜空を突き破るように、地上に向かって急降下している。駆け抜けた跡を示す真っ赤な軌跡は、ルルカのファイアボールの比ではなく、隕石に追随する『龍』のようだった。
「コータ、どうしたらいい!?」
ルルカが焦りながら、こちらに問う。こういうとき、焦りながらも対処法を考えようとするルルカは、以外と強かなんだな……と、別のことがよぎりながらも、俺は、ルルカをなだめた。
「まて、落ち着け! あの隕石をよく見てみろ。ここから、かなり離れた所にあるだろ? 位置的には、あの山へ落下すると思う」
そう言って、遠く離れた山の方を指差した。ルルカが身を乗り出し、山の方を凝視する。
「あ……ほんとだ……でも、そろそろ落ち……っ!!」
次の瞬間、近くで雷が落ちたかのような轟音と共に、屋敷全体が揺れた。ルルカがよろけそうになるところを、慌てて俺が支える。そうしながらも、俺とルルカは窓の外の光景に釘付けだった。
山が、その形を大きく変えていく。突起部分は削れ、代わりに周辺が隆起し始めた。赤い光は、その光度をさらに増し、世界の終焉を想起させる彩りと化していた。隕石落下の瞬間なんて見たことなかった俺には、その光景の全てが、スローモーションに見えた。




