おうちに帰ろう!
「ま、だからこそ私は、この世界に干渉できているんですけどね」
そう言って、ゼノンは不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど……神様が放棄した世界だもんな。お前のような存在が好き勝手やっても、咎められないわけか」
そこでゼノンはいたずらっぽく笑うと、うんうんと頷いた。
「言わばこの世界は『道端に落ちていたゲームカセット』みたいなもの。私はそれを拾って、楽しんでるだけです」
「さすがのゼノンも、神々が監視してる世界にまでは干渉できないか」
すると、ゼノンは顎に手を当て、眉間にシワを寄せながら、首を傾げた。
「そうですねぇ……。人類を相手にするのは、アリと戦うようなものなのですが、神々をまとめて相手するのは、クワガタと戦うようなものですからね……」
「え?」
「はい?」
こいつなにすっとぼけた顔してんだ? 今「私神より強い」みたいな感じのことを言ったような……。 え、こいつそんなに強いの? てかそれもう強いとかの枠超えてね? ほら、ルルカも「カミサマ……クワガタ……」って上の空で復唱し始めちゃったよ。
「いやいくらなんでも神様を『クワガタ』と同列扱いって……」
「いやいや、なめてはいけませんよ! だって、下手するとケガするかもしれないってことですから。この私が傷を負う可能性があるというだけで、とんでもない話ですよ」
「お前どんだけ強いの……。最強もここまで突き抜けると「さすがゼノン様!」なんて、手放しに褒められたもんじゃねえな……」
「そうね……。驚愕とか称賛以前に、現実感が無さすぎるっていうか……その、なんだかよく分からないわ……」
「そうですか? これでも9820京分の1まで力を抑えてるので、君たちと次元を合わせているつもりですが」
「『京』かよ。もはや『僕の考えたさいきょーのなんとか』みたいなレベルだな。数値が逆にバカっぽい」
なんだかバカバカしくなってきた。まぁこいつのことだから、適当なことを言ってる可能性も否めない。このデタラメ悪魔の強さ講義は、また別の機会に聞くとしよう。
「とまぁ、こんな感じで、この世界は出目の悪い転生者で溢れてるわけです。ですが、君たちがその転生者たちを討伐することで、再び神々のもとへ、転生者たちを強制送還できます。もしかしたらその過程で、神々の注意を引くことができるかもしれません。無論、魔王を討伐しても注意は引けるんでしょうけど」
「じゃあ、私たちが転生者を倒してるのって……」
「ええ。この世界にとってはもちろん、神々にとってもありがたい話なのです。なんせ、むやみやたらに転生させた者たちの再審判ができるようになるわけですから」
そして、ゼノンは狐のような笑みを浮かべ、
「だからルルカさん。あなたは迷うことなく、転生者をなぎ倒して良いのです」
そう言い、ウィンクをした。こいつまさか……落ち込むルルカのために、今の話を……?
「ゼノン……私……」
ルルカは目を潤ませながら、ゼノンの顔を見つめた。それに呼応するように、ゼノンはさらに口角を上げると……。
「そうしてくれないと話が進みません。どうか私を退屈させないでくださいね?」
ケラケラと笑うのだった。……やっぱこいつにそんな良心はなかったか。あ、なんか今エターナルドリンクが『グシャア』って勢いよく潰れる音が……うわ、ルルカさん鬼の形相してる! もうすぐ屋敷につきそうなのに!
結局こいつらは、馬車から降りる時も険悪なムードだった。屋敷の玄関に立った時でさえ、ルルカがいつファイアボールを放つか、ひやひやしていたくらいだ。
だが、そんなルルカも屋敷内に入った頃には、そのあまりの広さに大きくはしゃいでいた。もう怒りはすっとんだらしい。
「うわぁ! めっちゃ広ーい!」
「すげぇ。バイオハ◯ードの洋館みたいだ」
俺は素直に思ったことを口にした。これがいわゆる玄関ホールってやつか。奮発して買っただけはあるな。買ったの俺じゃないけど。
「あーあれね。私あれ二周したなー」
「え、マジで? 俺最初のゾンビの所で止まってんだけど」
「いやいや、それは早すぎだって。あれね、まず遭遇したら部屋から出るの。そうするとね……」
と、転生者トークを繰り広げていると、ホール左の扉から、誰かが出てきた。見たところ、頭を項垂れており、ボロボロの服を着ている。そして、やけに動きが鈍い。そんな挙動不審な人物が、こちらに、ゆっくりと、近付いてきていた。
「え……なんだあれ……」
「ま、まさか……『ゾンビ』、じゃないよね……?」
さっきまで、まさにそういったのを扱ったホラーゲームの話をしていたので、つい嫌な予感が過る。だが、屋敷という舞台で、外は真っ暗、おまけに相手は不自然な動き……。これで想像するなという方が難しい。もしかして、本当に……?
次の瞬間、その不審人物は、ルルカ目掛けて急接近した。
「え、なに!? ちょ、怖い怖い怖い! 来ないで、待っ……イヤーッ!!」
「おかえりなさい、ルルカ!」
不審人物はルルカに飛び付くと、明るい声で言った。その人物の正体は……。
「え……ノア……なの……?」
ゾンビとは真逆に位置する修道女、ノア・フェアリーベルだった。ノアは、いたずらっぽく笑うと、「コータもおかえりなさい」と言って、こちらにもその笑みを寄越した。なにこのお茶目修道女。てか修道女がゾンビ姿って……。
「お、おう、ただいま……。にしても、ノア、その服よくできてるな」
以外な一面を見せるノアに、俺は驚きつつも、なんとか言葉を絞り出した。ノアの服は、ところどころがいい感じに色あせており、破けていた。その加減がわざとらしくなく、自然なボロさを生んでいて、かなりクオリティが高い仕上がりとなっていた。
「そうでしょう。お二人があまりに遅いものですから、すごく心配したのですよ? これはそのお返しです」
そう言って、クスクスと笑うノアは、正真正銘、十七歳の女の子だった。




