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絶望的な世界

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王都に戻り、ケティに事情を説明した。ケティは「おつかれ」とだけ言うと、事務室の方へと走っていった。時間は分からないが、こんな暗くまで働いているのか。ギルドの職員は以外とハードなのかもしれない。俺は申し訳ない気持ちになりながら、ギルドを出た。


「おかえりなさい、コータ君」


ギルドを出た途端、突然、ゼノンが現れたので、俺はつい後ずさった。なんでこいつは俺たちが帰ってきたのを把握してんだよ……。いや、もうこういうのも慣れてきたけど。


「ただいま~」


ルルカは動じることなくそう言うと、屋台の方へ歩いていき、エターナルドリンクを購入し始めた。さすがに、先ほどの一連の騒動で疲れたのだろう。ルルカはドリンクのLサイズを注文すると、氷をたっぷり入れるよう、頼んでいた。


「た、ただいま……。てかお前、まだ美女モードなのかよ」


ゼノンは相変わらずの黒いワンピースに、赤いサンダルで立っていた。後ろに手を回しながら、どうかしましたか、と言わんばかりに首をこてん、と傾げる。いやこてんじゃねえよ。


「この格好の方が、この都市では生きやすいと言ったでしょう。ま、屋敷に戻ったら、再びタキシードモードになりますよ。とはいえ、その姿になったとしても性別などないですが」


「ちょっと待ってお前今なんて言った?」


「え? タキシードになったとしても『タキシード女子』の可能性も否めないと申し上げたのですが……」


「いや言ってねえだろ。あとそこじゃねぇよ。今「屋敷に戻ったら」つったか?」


「ええ。もう買ったので」


後ろでルルカがなにかを吹き出す音が聞こえた。屋台のおばさんの「お嬢ちゃん、大丈夫!?」という声が聞こえる。


「買った……? ま、まぁ買う予定だったからいいけど……」


俺も多少驚きはしたが、さして問題ではない。ただ屋敷の購入時期が少し早まっただけだ、うん。


「実は奮発して若干予算オーバーの屋敷を買っちゃいました」


「お前ってどうやったら弱体化すんの? それさえしてくれたら今ここで切り刻むんだけど」


このデタラメ悪魔はまたしてもデタラメなことを……。しかも今回は能力的にデタラメなのではなく、その判断がデタラメなのだ。頭が超高次元過ぎてトんじゃってんのかな?


「まぁまぁ、私たちもプチクエストで補いますから! 大丈夫、なんとかなりますって!」


「コータ、ゼノンに《ファイアボール》撃っていい?」


「やめとけルルカ。今ここで放つと俺はもちろん、ギルドも消し炭になる」


「そうそう、やめときなさいルルカさん。あなたのそのマッチ棒程度の魔法じゃ私は倒せません」


「ファイア……」


「うわあああああルルカ待て! ゼノンも煽るな! あ、すいません、馬車止めていただけますか! 一刻も早くおうちに帰らないとギルドが無くなっちゃうので!」


俺はあわてて、近くを通りかかった馬車を止めると、一触即発の二人を無理矢理馬車に乗せ、とりあえず出発させた。


馬車の中で、ゼノンに道を聞きながら、その購入した屋敷へと向かった。ルルカは「しょうがないなぁ」と言いながら、片手にエターナルドリンク、もう片手にスナック菓子を持っていた。このスナック菓子はもちろんゼノンが出したものである。


「それにしても、二人ともお疲れのようですね。クエスト先で何かあったのですか?」


自身もスナックをつまみながら、ゼノンは言った。俺は、調査に向かおうとした途中で、一年前に倒した転生者と遭遇したことを話した。


「ルルカがいなかったら俺、消えてたよ。だいたい《ファラオの加護》ってなんだよ。無制限復活とかチートもチートだろ。今回は消えてくれたから復活はできないんだろうけど」


「コータ君は、ルルカさんが反射してなかったら、どのように倒すつもりだったのですか? 運良く相手に一撃与えたところで、復活されては意味がないでしょう」


「あいつ、手から能力を発動してたから、両手削ぎ落として王都にでも引き渡すつもりだったわ」


「コータ君って私より悪魔寄りですよね」


なんかいろいろ察したような顔でゼノンは言った。でも実際そうするしかないと思うくらい、奴の対処法はなかった。ルルカがいなければ今頃……と、考えただけでゾクッとする。……だけど。


「ルルカ、ごめんな」


いきなり俺が謝罪したことに、ルルカはびっくりしたのか、スナックを頬張ろうとしたところで、動きを止めた。構わず俺は続けた。


「結局、お前があいつを倒す形になっちゃってさ……。そういうの、あんまりやりたくないだろうって分かってたんだけど……」


倒したとはいえ、相手だって、元は俺たちと同じ人間。そのトドメをさしたのはまぎれもない、この小さな女の子なのだ。俺より年上だけど。


とりあえず、助かったからといって、「ルルカ、ありがとう!」と、手放しに喜べる状態ではなかった。だが、ルルカはそんな俺の心情に対し、以外にも明るい声で「なぁんだ、そんなことか!」と言い、後を続けた。


「仕方ないよ。どうせ、消さない限りは倒せなかったんでしょ? それに、私だって覚悟はできてるんだから!」


「こんな世界だし、ね……」そう呟くルルカの声は、最後の方は消え入りそうになっていた。まさに彼女の言う通りだ。なんせここは、転生者が敵として襲いかかってくる絶望世界。いろいろと覚悟しないと、生き残れない世界なのだ……。


「ほんと、なんでこんな世界なんだよ……ここは」


気付くと俺も、ルルカに同意するように(なげ)いていた。そりゃ嘆きたくもなる。いくらなんでも運が無さすぎだろ、この世界は。


そう転生者二人がぼやく中で、ゼノンは指についたスナックの粉をペロッとなめると、微笑を浮かべたまま言った。


「そりゃそうでしょう。だってこの世界は、神々から見放された世界なのですから」

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