加護攻略
こりゃあ、いよいよまずいな。新たに出してきた技が、さらにチートじみてやがる。ただあれは今のところ、一発しか撃てていない。何発撃てるのか知らないが、通常技よりは制限があるはずだ。
「消えんのはお前だよバブル野郎。なんならもう一回リスポーンさせてやろうか?」
「お前っ……この期に及んでまだ僕のことを……!」
なんて、虚勢を張っちまったが勝算はない。ただ、弱気になれば、奴の思うツボだ。飲まれるな! 空気だけでも対等でなければ……!
「消えろ!」
転生者はそう言うと、再びあの球体を飛ばしてきた。とりあえず、手持ちの石を投げることで、球体の質を確認する。一つ目……通常。二つ目……よし、これもだ。三つ目………っ!?
「っぶね……!」
またしてもあの変則球体だった。それを、間一髪のところで避ける。ダメだ、判別できたところで、迂闊に近づけない。一か八か、石を投げながら特攻するか……? いや、でも、もしそれで変則球体だったら……くそ、思考がまとまらないっ……!
「ほら、早く来なよ。石なんか投げてないでさぁ! そんな戦い方じゃあジリ貧だよ?」
「言われなくても分かってるっての!」
とりあえず、《剣波》を使うか? どうせ消されるのがオチだろうけど……!
その時だった。
「コータ……? なにしてるの……?」
聞き覚えのある、女の子の声がした。この場面において、そんな女の子など一人しかいない。俺は内心「まずい」と思いながら、その声の方へ視線を移した。
ルルカが、俺の後ろに立っていた。明らかに怯えた表情で、俺と転生者を交互に見ている。おそらく、すでに察しはついているのだろう。
「ダメだルルカ! 今出てきたら……!」
思わずルルカに、注意を呼び掛ける。戦闘中に後ろを振り向くなど、自殺行為もいいところだ。だが、それでも……俺は、そう『してしまった』。これは反射なんだ。転生した理由も、反射で少年を助けたことが理由だった。多分、俺は戦闘には向いてないんだろうな。
「コータ! 前っ!」
だから、ルルカに気を取られていた俺は、前方から来る球体に気付くはずがなかった。剣を構えようとしたが、どうにも間に合いそうにない。
どちらの球体が来たのだろう。……いや、どちらでもいいか。だって、どちらにしても、もう俺は……。
すまん、ルルカ____________
「コータ、危ない!」
「え……?」
突然、ルルカが俺を横に突き飛ばした。その衝撃で、勢いよく、草原に倒れる。肩や脇腹に痛みが走ったが、俺はそれを認識するよりも先に、たった今、ルルカが起こした予想外の動きに驚くので手一杯だった。
球体は、速度を落とすことなく、ルルカの方へ、一直線に向かった。一方のルルカは、俺を突き飛ばした勢いで、自身も平原に膝をついていた。ダメだ、このままではルルカに直撃する!
「ルルカーーーーーっ!!!!」
そして、球体はルルカに直撃した。
次の瞬間、甲高い金属音のような音が、平原を包み込んだ。あまりに素頓狂な音に、俺はつい耳をふさいだ。だが、音など大した問題ではなかった。より異常な光景が、目の前で繰り広げられていたからだ。
ルルカに直撃したはずの球体が、すごい勢いで巨漢の転生者の方へと飛んでいったのだ。あまりにも唐突な事態に、俺はもちろん、転生者も目を見開くばかりだった。
それが、転生者の反応を一歩遅らせてしまったのだろう。何か動きを見せるでもなく、ア然としたままの転生者に、球体は直撃した。転生者は「ぴ」とだけ口から発すると、そのまま消滅した。
「は……?」
いまだ何が起きたのか分からない。直撃したはずのルルカは消えず、発射したはずの転生者が消えた。かなり頭が混乱しているのも事実だが、まずはルルカに事情を聞かなければ。
「ルルカ……お前……今、何を……?」
混乱中の頭でなんとか紡いだ言語を、ルルカに投げ掛ける。本人はゆっくりと立ちあがり、膝についた土を手で払うと、無表情のまま答えた。
「……《神鏡の加護》。物理、魔法、呪術は全て反射できるの。私に攻撃してきた者は、みんな勝手に自滅したわ」
そう言ったきり、口をつぐんだ。まさかルルカがカウンター持ちだったとは……。俺は驚きを隠せないまま、とりあえず助けられたことに「ありがとう」と感謝を伝えた。
ルルカはわずかに笑いながら、こく、と頷いた。彼女がする笑顔の中に、わずかに哀しみが映りこんでいたのを、俺は見逃さなかった。相手が、自分を襲った転生者だろうが、心は痛むのだろう。それが、この子の性格なんだ。
宿屋で、もしかしたらルルカは、敵の転生者を倒すのを躊躇してしまうのでは、と思ったことを思い出した。だが実際には、彼女はその加護で、襲いくる転生者を、望まずとも倒している。そして、今の表情を見る限り、本人なりにもそのことを『仕方のない事』として、受け止めているのだろう。
「……ルルカ、一旦王都に戻ろう。城の調査は明日にしよう」
「……私は…………」
「大丈夫、今日はゆっくり休もう。俺も今の戦闘で胆を冷やしっぱなしで、正直疲れてるからさ」
「……うん」
そして、俺たちは馬車へと戻り、行き先を王都へ変更した。俺は、最後に自分でトドメをさせなかったこと、女の子にその役割を担わせてしまったことを、ひどく後悔しながら、今、自分と転生者が立っていた平原を、馬車の窓から覗くのだった。




