泡沫
「……え?」
俺は手のひらを凝視しながら、今起きた不測の事態を理解するのに時間をかけていた。その様子を見ていた転生者が、浮わついた声色で、語り始める。
「おいおい、何も人を消すだけ、とは言ってないだろう? この世にあるものはなんでも消せるんだ。例えそれが武器だろうが、魔王だろうがね」
ふと、顔をあげると、奴の醜い笑顔が視界に入った。かつて自分を倒した相手の、呆然としている姿を見るのが嬉しくて仕方ない……そんな笑顔だった。そして奴は口角をさらに上げ、言った。
「【ウタカタ】って言うんだ。古代の禁呪を現代に甦らせた、最悪最凶の呪術なんだって! 殺すなんて生ぬるいねぇ。復活さえできない、完全なこの世からの消滅じゃなきゃ」
おいおいマジかよ。一撃で消える、乱発できる、武器さえ消える、殺すわけじゃないから蘇生すらできない……。こんなぶっ壊れ技があっていいのか。バランスもうちょい考えようぜ神様……。
「……こりゃ確かにチートだな。神様がなんでお前みたいな奴にそんな技を与えたのか、理解に苦しむぜ」
「お前……また僕のことをっ……!!」
「けどな、チートを授かってんのはお前だけじゃねえんだよ」
俺はそう言うと、手のひらを天に向け、大声で叫んだ。
「エクスカリバーッ!!!」
俺のエクスカリバーは、どこへ投げようが、誰に取られようが、呼び出すだけで、俺の手に帰ってくる。それは、消されても同じはずだ。てか頼む、来てくれ! 結構イキリ倒したこと言っちゃった後だから来てくれないと恥ずかしいんだよ!
すると、俺の手が発光し、聖剣エクスカリバーは再び、主の手元へと戻った。よかったぁ……。
「……なんだぁ? 無限湧きかよ……」
心底残念そうに言う転生者。確かに、エクスカリバーは戻ってきた。だが、まだ安心はできない。というのも、あの球体を捌くたびに剣が消えてしまうと、再び手もとに戻すまでに、時間がかかってしまう。そしてそれは、大きな隙となる。《獅子王の加護》は、剣がなければ、ダメージ軽減の効果しかない。だがそれさえも、一撃で消えてしまう球体の前では、無意味だ。
さぁて……どうすっかな。ちょっと考える時間がほしいな。逆上させない程度に、なんとか会話を繋げながら、対処法を考えるか。
「……お前こそ、無限湧きじゃねえか」
「あぁ?」
相手の言い分に合わせた言葉選びで、奴の関心をひいた。
「一年前に倒したってのに、またこうして、平原に現れてやがる。お前、どこまでチート野郎なんだよ? 少しはそのチートっぷりを分けてほしいもんだね」
「ふひひひひひっ! そりゃ君と僕じゃあ格が違うからねぇ!」
えーと、あいつの攻撃を剣で捌くのは一旦やめにして……。
「僕には《ファラオの加護》がある。これがある限り、僕は死んだ場所の周辺からまた復活するんだ!」
……あー、なるほど。復活系か。さて、剣を使わずに奴の猛攻を回避するには……。
「どうだい? 僕は最高の呪術師なんだ! これで分かったろう!」
待てよ、一回でも対象にぶつかればあの球体は消えるんだから……。
「おい! お前! 僕の話を聞いてるのか!?」
「もう大丈夫だ。かかってこいよデブ野郎」
「……お前だけは絶対に消す。消してやる! この世から消えてなくなれ! 僕を侮辱するなぁ!」
奴は逆上すると、再び、あのヤバイ球体を飛ばしてきた。俺はとっさにかがみ、近くの小石を拾うと……。
「さぁて、どうなるかな!」
球体へと放り投げた。次の瞬間、石は消され、同時に球体も消えた。
「なにっ!?」
「なんだ、石ころぶつけただけで相殺かよ。やっぱり欠陥能力じゃねえか」
俺はそう言いながら、再びいくつかの石を拾った。《ファイアボール》で相殺してもよかったが、石ころによる相殺という事実の方が、奴の集中力を削ぐのには効果的だと思ったからだ。そして、その作戦は効果的であることが証明される。
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れぇ! 僕が一番強いんだ! お前なんか消してやる!」
「おーおー、さっきから「消してやる」とか「僕はすごい」みたいなことしか言ってねえぞ? 語彙力ねえのか?」
「消えろっ!」
とうとう俺の煽りにすらも耳を傾けずに、球体を発射した。だがいまいち集中しきれてないのか、一発しか放てていない。その分スピードはあるが……。
「だから無駄だっつってんだろっと!」
俺はバックステップしながら、球体から距離をおくと、手に抱えた石の一つを投げた。石は、球体を迎え打つかの如く、真正面からぶつかった。……はずだった。
「……え?」
球体が消えない。なぜだ、今当たったよな? 俺は焦りつつも、球体からさらに距離を置いて石を投げた。が、結果は同じだった。そして三度、石を投げようと、バックステップをしたその時。
「やべっ」
俺は小石につまづき、バランスを崩して、そのまま尻餅をついた。その転倒した俺の頭上を、消えない球体がかすめるように通り過ぎる。球体は、そのまま平原わきの林へと飛んでいった。しかし、球体は林に入ったあとも止まらない。球体が木にぶつかる度に、木々に、球体の形をした穴が出来上がっていくのが、見てとれた。
「な、なんだよ……あれ………!?」
「あーあ、残念。転んだのは運がよかったねぇ」
目の前の転生者が、再び邪悪な笑顔をこちらに向ける。
「僕がその程度の煽りで集中を欠くかと思った? 甘いなぁ君は。なにより僕の技を看破できたと思ってるのが、とても甘い。《ウタカタ》にはこうした変則技もあるんだ。この場合、対象を消す、というより、当たった部分が消えるだけになっちゃうんだけど」
そして奴は右腕をこちらに向け、ニヤリと笑った。
「どこから消してほしい? 腹? 腕? それとも……頭かな?」




