人を消す能力
「好きな人がいなくなるってことは、すごく、すごく辛いことでっ……その……私にそういう人ができたら、多分、同じ気持ちになるし……」
ルルカなりに、言葉を選び、なんとか伝えようとしている様が、見てとれた。彼女の言うとおりだ。自分の大切な人がいなくなる……。それは、最愛の娘を亡くしてしまったルルカの家族も、同じ気持ちだったに違いない。そういう意味では、転生も手放しには喜べるものではないな、と思った。
「……ありがとうございます、ルルカさん。あなたは優しい人ですね」
ジャックさんは、ルルカをまっすぐに見つめながら微笑んだ。その眼差しの先に、自身の、かつての婚約者を見通しているのかもしれない。
「あ、いえ、その……なんも分からないくせに、口出ししてすいませんでした」
改めて思う。俺は彼女の、誰であろうとストレートに言う様を、とても尊敬していることを。
「ジャックさんの気持ち、痛いほど伝わりました。必ずや、原因を突き止めてみせます。じゃ、そろそろ行こう、ルルカ」
俺はルルカにそう呼び掛け、ジャックさんに一礼すると、屋敷を出た。太陽はとっくに沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
「私、余計なこと言っちゃったかな……」
門を出た後、ルルカが言った。こいつは変なところでひっかかるな。普段は好き放題言うくせに。まぁ、そういうところが、ルルカの良いところでもあるのだが。
「余計なことなら、日頃から俺に死ぬほど言ってるだろ」
「あ! ちょっと! それどーいう意味よ!」
「冗談だよ、いいから行くぞ」
俺が茶々をいれることで、ルルカはいつもの状態に戻った。それでいい。お前はファイアボールで俺を殺しかけるくらいがちょうどいいんだから。
そんなやりとりをしながら、俺たちは、近くを通りかかった馬車を止め、城へ向かうように伝えた。
馬車に揺られながら、俺は一人、考えていた。赤い色の光……。少なくとも電球の類いではないだろう。となると、やはり魔法発動時の発光、と考えるのが自然だろう。一ヶ月前から、城内で魔法を発動している者がいる、ということになる。でも、なぜ城内なんだ……?
俺の真向かいで、すぅ、すぅ、と、ルルカが寝息をたてている。その様子を眺めていると、どうでもよくなってきた。すべては、城にたどり着けば分かることだ。最悪、転生者の可能性もあるし、心して行かなくては。
そう思いながら、俺はルルカから、外の景色へと視線を移した。
次の瞬間、身体中に電流が駆け巡るような感覚に陥った。動悸と汗が止まらず、足が震えているのが分かった。
外の平原に、一年前に倒したはずの転生者が立っている。
奴は一年前と変わらない巨漢っぷりで、目を血走らせていた。常に周囲を観察する様は、明らかに誰かを探しているようすだった。
(なぜだ……なぜあいつが……!)
俺の中で、混乱と怒りがぐるぐると回り続ける。倒したはずの敵が、目の前を闊歩している。その事実に、俺はしばし、頭を抱えていた。……だが、どちらにしても、今ここで奴を仕留めなければ、また同じ悲劇がくりかえされるかもしれない。混乱など、している場合ではなかった。迷うな、今すぐ剣を握れ!
「すいません、ここで止めてください」
俺は御者にそう伝えると、ルルカを馬車に残したまま、外へと出た。エクスカリバーを抜き、しっかりと構えた状態で、平原の斜面をかけ上がる。日の沈みきった平原は、まるで夜の海を連想させる彩りで、見ているだけで不安を掻き立てるような闇が、そこ一面に広がっていた。
「探しているのは、もしかして俺か?」
平原を登りきったところで、離れに立っていた人消しの転生者に声をかける。転生者はこちらにぐりん、と首を捻るように視線を移すと、たちまち怒りに満ちていった。
「いた……いた……! いたいたいたいたいたぁ! 君だぁ……君だよ、僕の首を飛ばしたのは!」
狂ったように、獲物を見つけた興奮を伝える転生者。口からはよだれが滴り落ち、目はかっ開いている。息づかいが荒く、肩を上下させている姿は、もはや人間ではなく、化け物のそれだった。いまだ興奮を抑えきれない状態のまま、転生者は話を続ける。
「よぉく覚えているよ……。知ってるかい? 人は首を飛ばされても、しばらくは意識があるんだ……。僕が最期に見えたのは……君のその、忌ま忌ましい顔だったよ。 なんで? なんで僕が殺されなきゃならないの? 僕の容姿に陰口を叩いた、町の人間が悪いのに。なんで被害者の僕が殺されなきゃならないんだよっ!!」
「じゃあなんで関係のない人たちまで消したっ!」
「うるさい、うるさい、うるさい! 僕にたてつくなぁ!」
激昂の度合いが、さらに高まってくる。以前倒したときは不意討ちだった。だが、今回は広い平原だ。隠れる場所もなければ、不意討ちも不可能。完全な一騎討ち状態である。
「消してやる……みんな消してやる。僕はすごいんだ……僕をバカにするな……。逆らう奴はみんな消してやる!」
転生者はそう言うと、開幕から例の球体を乱発してきた。球体の一つ一つは、そこまでスピードは早くなく、場所も平原ということもあり、なんとか避けられるレベルだった。だが、乱発されている以上、攻撃の密度は濃い。当然、避けきれなかった分が、俺の方へと迫ってくる。
「くっ……」
俺はエクスカリバーで、なんとかその一つを捌いた。すると、ぶちゅん、と不快な音をたて、弾けた。が……。
俺の手にエクスカリバーはなかった。




