ケティ
そして、次の日、俺はノアとルルカに、王都で暮らすつもりであることを伝えた。すると、自分達も同じ屋敷に住み込みたい、と言い始めたのだ。想定していなかった回答に、男子的に少しドキドキしながらも、なぜそうしたいのか聞いてみた。
すると、どうやら二人とも『転生者による世界の危機を阻止する』、という意志は、俺と同じらしく、どうせならこのメンツでパーティを組んだ方がいい、とのこと。それ自体は賛成だが、まだルルカの魔法が危険すぎるので、まずはその練習をするため、基本的には俺とルルカでクエストをこなすことにした。
ゼノンを連れてもよかったのだろうが、練習中にちょっかいを出されても困る。なので、ノアと一緒に、王都に残ってもらい、二人には、物件探しをしてもらった。
そして、一ヶ月が過ぎた頃……。
「ようやく、金が貯まったな……。これなら屋敷も買えそうだ」
俺とルルカが稼いだのと、ノアとゼノンがお手頃価格な屋敷を見つけてくれたこともあり、すでに屋敷を購入できる程度の金は貯まっていた。
「いやー、この一ヶ月頑張ったわ、私!」
さっきこなしたクエストの金を、金庫に預けに行ったルルカが戻ってきた。そして、席に着くなり、テーブルにぐで~っと寝そべり始めた。
「あー疲れた……。コータ、エターナルドリンク買ってきてー。コータの分も買ってきていいからー」
ルルカがだらしない姿のまま、向かいの席に座る俺に金を渡す。ああ、買ってきてやってもいいさ。一ヶ月、ちゃんと頑張ったからな……お前は。だけど、だけどな?
「お前さぁ……この一ヶ月間、結局、魔法はコントロールできず、危ないままだったよな」
ルルカの体がピク、と動いた。構わず俺は続ける。
「確かにお前は頑張った。そこは認めよう。だけどね、その裏で俺が何回死にかけたと思う? お前が「あー、膨らんじゃったー!」ってパニクって、俺の方へ飛ばしてきたのは何回だったかな?」
ルルカがさらにピクピク、と動く。
「なんでこっちに飛ばすのかな? パーティーメンバー殺す気なのかな? 俺に《獅子王の加護》がなかったら消し炭になってたよ? そもそも《ファイアボール》だよ? 本来即死するような魔法じゃないんだよ?」
「ああああああああああああ! ねちねちねちねちうるさいわね! しょうがないじゃない! 私はチート魔術師なんだから!」
「チート魔術師ならコントロールもチートレベルにしとけや! もし誰かが「すまん、タバコの火、もらえるか?」って言ってきたら、お前は災害級の魔法で応対する気かよ!」
「ええそうね! だってデカいのしか出ないもの! そんなやつタバコと一緒に燃えカスにしてやるわ!」
そして狂ったように高笑いを始めるルルカ。とうとうおかしくなっちまったか……。確かにルルカは、この一ヶ月、頑張っていた。だが結局、魔法は調節できず、危険な魔法のままだった。もうこれはこういうもんだ、と、割り切るしかないのかもしれない。
「まーまー、二人とも落ち着いて」
少し高めの、どことなくダルそうな声が聞こえた。いつの間にか、俺たちのテーブルの前に、獣人で案内係のケティが、立っていた。両手にエターナルドリンクを持っている。
「君たち二人は、この短い期間で、精力的にクエストをこなしてくれたからね。ささやかなサービスだよ」
ケティはそう言うと、俺たち二人にエターナルドリンクを寄越してくれた。え、なにこの獣人。天使なんですけど。好き。
「うわぁありがとー!」
ルルカがケティに抱きつき、頭を撫で回す。ケティはされるがままに、ルルカに身をゆだねつつ、自身もエターナルドリンクを飲んでいた。
「エタドリありがとな、ケティ。この一ヶ月間、ルルカの訓練に最適なクエストを持ってきてくれたことも、感謝してるよ」
「案内係だからね。一つでも多くのクエストが消化されることが、ボクの存在意義だから」
やだこの獣人。天使な上にカッコいい……。プロフェッショ◯ル仕事の流儀でケティ特集組みたいレベル。
「とはいえ、たまには自分達の力で探してみるのもいいかもよ。ほら、あそこに張り出されてるでしょ」
俺とルルカが、エターナルドリンクをちゅーちゅーしながら、ケティが指差した方を見る。そこには、壁一面を多い尽くすほどの、クエスト依頼書が張り出されていた。
「自分達で、か……。確かに、ケティに頼ってばかりじゃダメか」
「まぁボク案内係だから、別にいいんだけど。上級の人たちは、自分達の能力や、欲しい報酬を照らし合わせて、ガンガンこなしてる。ボクは困ってる人とか、初心者のサポートがメインかな」
そう言うとケティは、少しだけ、寂しそうな顔をした。そりゃそうだ。自分がサポートしていた初心者が、いつの間にかその補助から離れ、独立していく。それは同時に、ケティとの繋がりも希薄になる、ということに他ならない。
俺は、ケティの頭を撫でると、笑顔で言った。
「俺はケティを頼りにしてるよ。今後も、どうか頼らせてくれ」
「あ、私も私もー!」
ケティは一瞬、目を大きく見開いたが、再びいつものダルそうな目になった。
「不思議な人だね、君たちは。ものすごく強いはずなのに、多種多様なクエストをこなしてるし」
「まぁ戦闘訓練だったり、情報収集がメインだからな。勲章とか興味ないし」
「あ、私も私もー!」
「お前他に言うことないの?」
ルルカが俺の頬をつねってきたあたりで、ケティは「本当に面白い人たちだ」と言うと、ぱたぱたと次の冒険者の方へ向かっていった。その顔には、わずかに笑みがこぼれていた。
「じゃあ掲示板の方行くぞ。あと痛いから離せ」
「意外とコータのほっぺって柔らかいのね~」
「離せ」
そう言って、俺たちは掲示板の方へと向かった。こうして近くで見ると、やはり膨大な数だ。さて、どれからやろうかな……。
と、思っていたその時、あるクエストに、俺の目は釘付けになった。俺が黙りこくっているのを察したのか、ルルカが心配そうに聞く。
「どうしたの?」
「あ、ああ……。このクエストを見てくれ」
そう言って、俺は特定の一枚を指差した。そこには「『ファスター』近くの廃城から、怪しい光が漏れている。調査してほしい」と、記されている。
「ここに書かれてる『ファスター』ってとこ……。俺が最初に、転生者と会った町だ」




