ギルド
結局、「後でお金払うんで」と言って、店に担保としてエクスカリバーを置いていくことで、ようやく店から出られた。店のすぐ横のベンチで、死んだ魚のような目で前を見続けるゼノンと、心配そうにゼノンの顔色を覗き込むノアの姿があった。
「いきなりで悪いんだが……二人とも、お金は持ってないよな?」
その問いかけに、まずノアが「財布は宿に預けていたら……」と答える。だよな、燃えカスになったよな。
ゼノンの方も、無言で首を横に振る。まぁお前が持ってるわけないよな。
「はぁ……資金集めかぁ……」
俺は肩を落としながら言った。ギルドのクエストを攻略していけば、金はバンバン貯まる。ましてやチート持ちの俺が取り組めば一発だ。そこまではいいのだが、ただ、単純に。
「めんどくせぇ……」
倒すのが面倒なわけではない。目的地に行くまでの準備や移動、なんなら登録やら受付までもがめんどくさいのだ。『ターゲット倒したら首を持って帰る』でええやん。なんなの? 市役所なの?
「わ、私はパ~ス……」
こっそり回れ右をしているルルカの襟首を掴んだ。なにこいつ逃げようとしてんの? エターナルドリンク(一人あたり2500ゼニス)分は稼いでくれないと話合わねえよなぁ?
「お前も行くんだよ」
「やだっ! モンスターこわい! やだっ、やだよぉ! ノア、助けてぇ~!!」
十九歳とは思えない、駄々のこねっぷり。その哀れな姿に、町の人たちが口々に「嫌だ……なにあれ?」とか「お母さん、あのお姉ちゃんすごく暴れてるよ?」「見ちゃダメ、さっさと行きましょ」とか言いながら、足早に通りすぎていく。
「ダメだ! ノアにはゼノンを見張っててもらう役割があるんだよ。すまん、ノア。頼めるか?」
「あ、はい」
「コータ君? そこは「介抱しててくれ」では? 見張るってなんですか?」
「うっせ、言葉の綾だよ」
俺たちがクエストに行ってる間に、ゼノンが忽然と姿を消すかもしれない。なんせ気まぐれだ、「みんないないし飽きたな~」とか始まれば、十分に消える可能性はある。そんなことになればいよいよ『どうあがいても絶望』だ。悪いがノアには、見張り役を担ってもらうしかない。
「じゃ、行くぞ」
「嫌だぁ~!!」
いまだ嫌がる魔法少女(十九歳)を引っ張りながら、俺たちはギルドへ向かった。
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ギルドにたどり着くと、俺とルルカはひとまず、近くのイスに腰をかけた。ギルド内には、店で見た連中と同じくらいのむさ苦しいおっさん共がいた。しかし。それだけではなく、エリートそうな魔術師のお姉さんや、短剣を丁寧に手入れしている盗賊、かなりの大きさを誇る両手剣を携えた騎士などがいた。
「やっぱ強そうな連中もいっぱいいるな」
「私たちほどじゃないでしょ」
と、呑気に人間観察をする、チート転生者な俺たち。そのルルカの受け答えに「お、行く気になったか?」と問いかける。
「う~……やっぱ行かないとダメ?」
「どうしても怖いってなら、俺一人で行くよ。ただ、Zウォールが壊れた今、王都を守れるのはお前しかいないだろ? だから今のうちに、戦闘経験を積んだ方がいいと思ってな」
そう、この王都はいまや、どっかのアホのせいでノーガード状態。敵転生者がそんな頻繁に現れるとは考えにくいが、それでも対抗手段は持っていた方がいい。
「そりゃそーだけど……。まぁ、やるっきゃないか!」
ようやく踏ん切りがついたのか、ルルカは立ち上がって、拳を高々と上げた。彼女がちっこいこともあり、なんとも微笑ましい光景だった。こんな女の子が、敵に襲われ、命からがら王都に逃げて、ずっとその中で、バリケードを張って暮らしてきたのだ。そりゃ怖いに決まっている。
「ルルカはえらいな」
俺は素直な感想を述べた。ルルカはと言うと、少し照れながら「あ、あんたが連れてきたんじゃないっ……」と言いつつも、
「……ありがと」
と、感謝の言葉を述べた。
「ま、まぁ? 私チート魔術師だし? たった半年でZウォール作ったわけだし? よ、余裕よ!」
気恥ずかしくなったのか、自分を奮い立たせるように、自己暗示をかけるルルカ。だが、俺はその横で別のことを考えていた。
ルルカはZウォールを作るのに半年かかった。つまり、逆に言えばその半年間、王都は今と同じ、ノーガード状態だったわけだ。いつ転生者が乗り込んできても、おかしくはなかったはず……。
「ん? どうしたの、コータ?」
「あ、いや、ちょっとな。ルルカがZウォールを作ってる間は、誰も攻めてこなかったのか?」
「んー、そういえばそうかも。まぁ、転生者と言っても敵ばかりじゃないだろうし、その辺の転生者がなんとかしてくれてたんじゃない?」
「……うーん」
そう言いながら、俺は顎に手を当てた。ノアの証言では、「王都周辺に転生者らしき人物はいなかった」とのこと。なぜ、王都だけがこんなにも狙われにくいのか。真っ先に狙われるとしたら、ここであるはずなのに……。
そうやってうんうん唸っていると、突然、目の前に猫のような耳をつけた、子供の頭が視界に入った。その頭は、耳をひょこひょこピクつかせながら、
「君たちはクエスト申請者なの?」
と、だるそうなテンションで語りかけてきた。俺はあわてて立ちあがり、改めて、そのケモ耳子供を観察する。ウェーブのかかった、肩まで伸びる茶髪に、常に半目状態の眠そうな顔。服装は青のワイシャツにベストと、キッチリ着こなしているのが、本人のダウナーな雰囲気とはちぐはぐで、噛み合っていなかった。
そして、やけに身長が低い。また、美少女ではあるのだが、まだ幼さを残す顔立ちだ。例えるなら、小学校低学年くらいだろうか。そんなケモ耳幼女が、俺たちの目の前に立っていた。




