碓氷 幸太の告白
まさか、こいつ。
エターナルドリンクが口に合わなかった?
「あらぁ~? どーしたのゼノン? ほら、もっとエターナルドリンク飲みなさいよぉ」
何かを察したルルカが、ゼノンを煽る。
「え、ええもちろん飲みますよ? こんなの余裕です」
そう言いつつも、さっきから明らかにドリンクの量が減っていない。この、炭酸飲料のいいとこだけを煮詰めたようなドリンクを、全く進んで飲まないのだ。コンソメパンチは好きな癖に。
……もしかしてこれは、さんざんオモチャにしてきやがった鬱憤を晴らすチャンスなのでは?
「おいおい、ゼノン、どうしたよ、さっきまでの威勢は? 論理を越えた強さなんだろ? さんざんイキッてたじゃないか。高次元の悪魔(笑)なら、 エターナルドリンクぐらい余裕だよな?」
「…………っ」
口元を押さえながら、こちらを睨む高次元のなんちゃらさん。よっぽどまずかったのか、その後「……ちょっと涼んできます」と、言いながら出ていってしまった。ノアが心配そうに、ゼノンの後をついていく。
「はー、スッキリした。見た? あの顔! 私が田舎のおばあちゃん家で、イナゴを食べた時みたいな顔してたわ!」
「確かにすげぇ顔だった。いやー、ゼノンにも苦手なものあったんだな。以外だったわ」
被害者転生組による、一矢報いたことに対する快感談義。フリーズ童貞とかエクスカリバー(笑)とか突然馬車消したりしてきたわけだし、これぐらいは許されるだろう。
そして、完全に二人だけになってしまった空間で、ルルカが顔を近づけ、ジト目で俺に質問する。
「で、実際のところ、どうなの? あんた、魔王を倒しに行くんでしょ? あのゼノンとか言う奴がいれば、一発じゃないの?」
「いや、それがあいつ、いきなり本丸を叩きに行く気はないんだとよ。なんなら気まぐれで動くし、飽きたら消える」
「えー……あんたはどうするの? あいつの気まぐれはほっといて、地道に魔王討伐のために動くの?」
「正直なこと言っていいか?」
俺はそこで、残ったエターナルドリンクを一気に飲みあげると、テーブルにコップを叩き置き、真剣な眼差しで言った。
「むっちゃ帰りたい」
「あんた、以外とクズね……」
「いやだって考えても見ろよ! 周りはチート転生者で、しかも敵側! そんなのがうじゃうじゃいる! 俺はこの一年間、ちょいちょい絶望しながらも必死に生きてきたんだよ? 俺の目的は一貫して変わらない。それは『チート能力で無双してハーレムを築き上げること』なんだよ! それがいざ来てみたらこんな世界だよ! もっかい! もっかい転生させろやチクショー!」
「あんた酔ってんの?」
「酔ってねえよ!」
俺はそうやって言いたいことをぶちまけた。正直世界が平和なら、こんなに奮闘する必要はないのだ。ハーレム無双で静かに暮らす。それが理想の解であるはずなのに。
「魔王なんかどうでもいいけど、平和が訪れないと俺の理想も達成できない! かと言って俺だけじゃ、チート転生者に溢れたこの世界で、討伐を達成させるのは無理だ。だから……」
ここで、俺は今までにしたことのないクッソ悪い顔で、ルルカに囁いた。
「冒険はとりあえず、するだけする。でないと、あのデタラメ悪魔が飽きて帰っちまうからな。あいつを飽きさせない程度に行動し、ヤバイときは助けてもらう。これならクリアが近付くだろ」
「うわぁ」
「やめろ、「うわぁ」とか言うな。今までに絶望を受けすぎて、もうとっくに俺の心は折れてんだ! エクスカリバー? 獅子王の加護? そんなんじゃどうにもならないよ! どうせなら賢者とか竜騎士とかにしてくれよ!」
「ま、まぁあんたの目的は分かったわ。とりあえず、私たちもお店を出ましょう?」
ルルカかがドン引きしながら、俺に退店を進める。周囲を見渡すと、いつの間にかおっさんたちが俺のことを見て泣いていた。しかもなんか慰めの言葉をかけてくる。なにが「分かるぜぇ……兄弟」だ。あんたらが転生うんぬんの話分かるわけないだろ。フィーリングで泣くのやめろや。そんなん「あの映画マヂ泣けた。内容覚えてないけど」みたいな女子高生と変わらないからね?
ルルカが恥ずかしそうに「早くして」とせかす。俺は一通りぶちまけたこと、エターナルドリンクがめちゃくちゃ旨かったことに満足しながら、支払いのため、ポケットをまさぐった。……のだが。
「あれ……ない。あれ、なんでだっけ……って、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「え、なに!?」
「わしの財布、村の一件で燃え尽きたんじゃったああああああああああああああああああ!」
ポケットを裏返したらボロ……と、燃えカスが出てきた。服は、この一着以外は村で消し飛んだので、この二週間、ずっとこの服だけを洗って着続けていたのだ。しかし問題はそこではない。
「ルルカ……支払い……頼めるかな……?」
青ざめた顔で、ルルカに問う。女の子に全額支払わせる……。なんて男としての威厳がないのだろう。この恩は必ず返さねば…! と、思った矢先。
「え? 私、王宮で衣食住は足りてたし、なんなら欲しいものも王都から支給されてたから財布なんて持ってないわよ」
なんだこの温室育ち。
「はあああ??? お前ふざけんなよ、まさか全額おごってもらうこと前提に、この店に入ったのか? いいか、断言するぞ。そういう女はな、将来幸せになれないからな!」
「何よ! 休憩しようとかぬかしたのはあのゼノンとか言う野郎じゃない! 私だっておごってもらったら後でちゃんと返そうって思ってたわよ! 後輩の癖に生意気すぎっ!」
「え、なに急に先輩風吹かせてんすか、Zウォール壊されちゃったルルカ先輩? いるんだよなー、切羽詰まると急にどっちの方が年上とか言うやつ」
「なんですって!? この陰キャ雑魚転生者!」
「なんだとこの戦闘からっきしの臆病魔術師!」
「あの……お二人さん」
「何よっ!」「なんだっ!」
「これ、お勘定ね」
ルルカと喧嘩する中、ふいに店員から紙を渡された。そこに書かれていた記載額は……。
『10000ゼニス』
俺は爽やかな顔でその紙を受けとると。
「ぼったくりじゃねーか!!!」
そう言って床に叩きつけた。




