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どうあがいても絶望【2】

ああ、殺されていく。


みんな、殺されていく。


どれだけ必死に逃げても、どれだけ隠れようとも、そのどれもが無意味であり、徒労に終わる。そして、また絶望はじわじわと拡がっていく。


「ん~、つまらん。俺と戦おうよ、みんな! ちょこまか逃げてないでさぁ!」


元凶ーーーーー『転生者』であるそいつは、そう苛立つと。


散り散りになって逃げる村人に、指を向けた。


そして次の瞬間、転生者の指先から、光線のような物が放たれた。


ぱぁん、と乾いた音が響くのと同時に、初老の男性の頭が破裂した。光線が直撃したのだ。近くを走る人々に、その肉片が飛び散る。皆、半狂乱になりながら、肉片を振り払い、無我夢中で走り続けた。


「ほら、同じ仲間の頭が破裂したぞ? 逃げてばっかでいいのかよ?」


転生者はケタケタと笑いながら、村人を煽る。そんな転生者には目もくれず、村人たちは一目散に走っていった。その群衆の中から、嗚咽が聞こえた。おそらく、今殺された初老の男性の知り合いの誰かだろう。その声には、悔しさと悲しみが入り交じっているように聞こえた。


「……よし。もう飽きたわ。全員死ね」


転生者は再び指を群衆に向けた。その予備動作を目撃した何人かが、逃げるのをやめ、近くの建物の裏へと隠れていく。


的にさえならなければ助かるーーーーそう考えていたのだろう。そしてそれは間違いで、一瞬のうちにして、深い絶望の淵へと叩き落とされることなる。


俺は、次に起きた光景が理解できないでいた。まず、俺に見えたのは、転生者が指を横にスライドさせたところ。そして、それに合わせて周りの建造物が真っ二つに割れたところだ。


そして、逃げていた村人全員が、真っ二つになるところ。俺が見たのはそれだけ。本当に、たったそれだけだったから、何が起きたか分からない。脳がそれを理解させてはならない、と、処理をやめているような気さえした。


「このレーザーにはこういう使い方もあるんだよ」


口元を押さえて、くつくつと気味の悪い笑い声を出す転生者。今起きた一瞬の出来事を、涙さえとうに枯れた眼で、ただ、呆然の眺めるだけだった俺は。


「やめてくれ……もうこれ以上、殺さないでくれ……」


いつの間にか、そう懇願していた。それは村人たちが逃げても無意味だったことと同じで、なんの変化ももたらさないだろう。でも、なぜか俺の口からは、壊れたラジカセのように、同じ台詞を繰り返していた。


俺はもう、限界だった。


「殺さないで、だって? いやいや、何言ってんのお前。もうお前以外の人は、今ので全員死んじゃったでしょ。てかまだ生きてたの? ゴキブリみてえなやつだな」


嘲笑うかのような口調で、奴は言った。だが、そのとき。


「……助けて」


女性の、か細い声が聞こえた。転生者が「なんだ?」と、訝しげに辺りを見回す。燃え盛る家、家、家……。その中に、体を縮こませ、頭を抱える女性の姿があった。


俺と同い年くらいだろうか。金色に輝く長い髪が、肩甲骨あたりをなぞる。恐怖に歪む顔つきとは裏腹に、前髪はきちっと切り揃えられていた。端整な顔立ちであることに間違いはないが、今やその影もなく、乱れた髪と大粒の涙でくしゃくしゃになっている。


なにより、気になったのは服装だ。修道女のような格好をし、手には何かを模した人形を持っている。女神像か何かだろうか。女性は、その人形をぎゅっと握りしめ、「神様…神様……」と呟いていた。


転生者はそれを目撃すると、獲物を見つけた虎かのように、ウキウキと体を揺らした。


「あららぁ? まさか『シスター』か? 村人が逃げ惑う中、自分だけ隠れてたのかよ」


にやにやと煽る転生者に、おそらく『シスター』である女性が、わずかに怒りの表情を浮かべる。その睨みを見逃さなかった転生者は、露骨に顔を歪め、


「あ、なに今の顔。うぜえな、死ね」


そう言って、間髪いれずに、指をシスターに向けた。が、転生者は首を傾げ、しばらく考え込む動作をすると、納得したように指を下ろした。


「なーんかおかしいと思ったんだけどさ、お前、もしかして『女神の加護』持ってる?」


転生者の問いかけに、シスターは黙りこむ。それを肯定と受け取ったのか、転生者は、「やーめた」とだけ呟くと、俺の方に向かってきた。


「道理でこっちの攻撃が通らないわけだわ……クソうぜぇな……」


そうぶつぶつ呟きながら、歩を進める。そして、俺の前に立ちはだかるやいなや、手を伸ばし、乱暴に髪を引っ張った。痛みに顔を歪める俺には目もくれず、転生者はシスターに向かって愉しげに台詞を吐いた。


「じゃ、今からこの男を惨殺しまーす」

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