チート魔術師の憂鬱
「……やっぱり、あんたもこっち側か。まぁ、なんか俺と同じ系統の顔してんなーとは思ってたけど……」
「は? あんたと私が似たような顔? 冗談はよしてよ。私、そんな百回見ても記憶に残らなそうな平凡顔じゃ……」
「ちげぇよ。日本人顔だって話してんだ。あと平凡顔で悪かったな!」
目の前の美少女が「ああ、そゆこと!」と、手をポン、と打つ。確かに、彼女の容姿は可愛らしい。落ち着いたおっとり顔のノアとは逆に、小動物を彷彿とさせる、愛嬌溢れる顔だった。
「ルルカ、聞いてください。あの人たちは、調査の途中で転生者に襲われた私を、助けてくださったのです」
再び、ノアが弁解する。え、俺、君のこと助けたことあったっけ。主に、俺の隣でニコニコしてる、性別もデタラメな反則野郎の仕業じゃなかった?
ノアの以外な主張に、ルルカかが「へ?」という反応になっているのをお構い無しに、ノアは村でのこと、ここに来る途中の森の中でのことを語った。
「実は、とある村で……」
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「疑ってごめんなさい」
一通り話を聞いたルルカが、俺に頭を下げた。あ、以外と素直な子だった。こちらこそ生意気な中学生とか思ってごめんな?
「いやいいよ。転生者が襲いかかってくるこんな世界じゃ、誰だって警戒するし」
ルルカは深々と下げた頭を上げると、ずり落ちかけている帽子を手で抑えながら「そうなのよ……」と、続けた。
「私も最初はびっくりしたわ。【魔法使い】なんて、子供の頃からの夢だったし、このまま一生楽しく暮らせると思ってた。……他に転生者がいて、しかも敵側についてることを知るまでは、ね」
「もしかして、ノアが「命からがら王都に逃げ込んできた転生者」って……」
すると、ノアがふんふん、と、首を縦に振った。ルルカは恥ずかしそうに頬を掻きながら、話を続けた。
「うん、それ、私。最初は右も左も分からなくってねー。モンスターにさえ追っかけ回される始末よ。だって、勝てると分かってても、モンスターって見た目が怖いんだもん」
それは分かる。ましてやこんな小さい女の子だ。「よっしゃ! ぶっ殺したるわ!」みたいなテンションで戦われたら、それはそれで引く。
「そんで日本人顔の連中にも絡まれるし……。あん時は『ナゼこんなところに日本人?』って感じだったけど、ノアから転生者の噂のことを聞いて、全部理解したわ」
そして、ルルカはいきなりふんぞり返ると……。
「だから私! 匿ってくれた王都に感謝の意を込めて、バリケード作っちゃいました!」
ふふーん、と自慢げに言った。は? バリケード? いや、どこからどう見ても、ごく普通の王都じゃね?
「バリケード、とは?」
それまで喋っていなかったゼノンが、興味深そうに聞く。
「よくぞ聞いてくれたわ! さっきも言った通り、私はまあ優秀な魔法使いなんだけど、戦闘は、からっきしなの。だから、王都に転生者が攻めこんできたら、とてもじゃないけど勝てない。だから作ったのよ。魔法で、絶対防御壁を。どんな効果が付与されてるかっていうと……」
ルルカはそこで一旦区切り、すぅ、と息を大きく吸い、目を閉じると、いっきにまくし立てた。
「防御力∞、物理無効、魔法無効、呪術無効、チート技無効、自然災害無効、科学物質無効、オートカウンター、物理吸収、魔法吸収、呪術吸収、敵意を持った存在通過不可、0秒リカバリー、攻撃感知時自動制裁、攻撃が当たらない、視認不可、モンスター侵入不可、形状変化不能、」
「ちょ、ちょ! 待って、一旦待って、ストップ!」
あまりのチートっぷりに、俺はつい、まだ喋り続けようとするルルカを制した。ルルカが小首を傾げながら「まだ他にも項目が……」と呟く。ヒェ……。
「いやなんなの、そのチートのよくばりセットは。防御力∞……オートカウンター……あとなんだ……まぁ、とりあえずいろいろぶっこみ過ぎだろ!」
「えー。だって絶対破れない方がいーじゃん。このチートな私と、王都のエリート魔術師の共同開発よ! これを張るのに半年かかったわ……」
そうして、ルルカが涙ぐむような仕草をする。
「このバリケードがあれば、核が落ちてこようが、ブラックホールに吸い込まれようが、なんなら銀河系がある日、突然大爆発したって、王都だけが残り続けるわよ。名付けて、【Zウォール】。あ、ちなみに『Z』ってのは、ゼニスの頭文字から取ったのと、アルファベットの最後、すなわち「最後の砦」って言う意味が込められてて」
「もしかしてこれのことですか?」
いつの間にかルルカの近くにいたゼノンが、唐突に空中を突っついた。
次の瞬間。
ビキィッ! ゴゴゴゴ……ピキ………バキ……バキバキバキッ!! バリィィィンッ!! ガラガラガラッ……!! ガッッシャァァアアアアンッッッ!!!!
王都周辺に、凄まじい轟音が鳴り響いた。王都自体は相変わらず、なんの変哲もなく存在してるし、周りに何かの破片が散らばってるわけでもない。一見すると、なんの変化も起きていないのだ。
だが、ルルカが青ざめた表情で「……ふぇ……?」と、後ろを振り向くのを見て、だいたいどういうことか理解した。
「わ……私の…………Zウォールが……? え…………?」
「あ、やっぱりこれがZウォールでしたか! すいません、余りにも脆かったものですから、ちょっとつついたら壊れてしまいました」
ゼノンが苦笑しながら、平謝りする。そんなゼノンには目もくれず、ルルカは動揺と悲しみの入り交じった表情で、王都を見ていた。その瞳に、大粒の涙が溜まっていくのが見て取れる。分かるよ、ルルカ。でも、いずれ君も慣れる。だから今は、とりあえず、頭ショートしとこ?
「じぇ……じぇっと、うぉーるは……物理無効で……防御力∞で……攻撃が当たらなくて…………」
「え、それ全部暗記したんですか? すごいですねぇ」
「にゃ……にゃんなのこいちゅぅ………!!!」
とうとうボロボロと涙をこぼし始めた。心が痛い。
「にしても、薄っぺらいですねぇ、Zウォール。まるであなたの胸みたい。なんなら、そのまっ平らな胸の方がよっぽどウォールしてますよ。ほら見てくださいコータ君、これぞまさに【Zウォール】」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんん!!!」
「おいバカやめろ! オーバーキルもいいところだぞ! もうちょい人の気持ち考えろや!」
「だって私、人じゃないですもん」
そう言って、ゼノンはそっぽを向いた。
大泣きする魔法少女、あわてふためくシスター、絶対防御壁を指で割ったデタラメ悪魔、轟音を聞いて、パニクる国民の声……。
これが、王都に着いたときの状況だった。




