王都へ
ようやく、馬車が王都にたどり着いた。高くそびえ立つ門の前に馬車を止め、ゼノン、ノア、俺の順で、馬車を降りていく。……はずだったが、俺が降りる途中で、ゼノンが馬車を消したので、顔面を地面に強打した。
「あだっ!?」
「おや、申し訳ない。コータ君ならチート転生者だから大丈夫だろう、と」
「お前俺をおちょくるの好きだろ? なぁ絶対そうだろ?」
「よく分かりましたね! ほら、好きな子にはちょっかいを出したくなる、と言うじゃありませんか」
「おうホモ路線やめろや。俺は女の子が好きなんだ!」
そう叫んだあたりだっただろうか。ノアの視線がひどく冷たくなったのは。あれは忘れもしない、悪魔祓いをする修道女の目だった。なんなら今「消え去れ。」とか言ってきてもおかしくないやつだった。
「あ、違う、今のなし。『女好き』なんじゃなくて『女の子が好き』なだけだから! ほら、恋愛対象として! 誰でもいいわけじゃないから!」
「……誰でもいいわけじゃ、ないんですか」
ノアがまっすぐに俺を見つめる。その、綺麗な瑠璃色の瞳に目を奪われ、俺はなぜか「はい」と敬語で答えていた。
「コータ君……そもそも私は、自分を『男』と言った覚えはありませんよ?」
ノアに見とれていた俺に突如、衝撃が走る。あわててゼノンの方を見ると、なんと、指を合わせて上目遣いしているではないか。
「あれ、私は綺麗な女の人に見えてたのですが……」と、ノア。
え、嘘やろ? ゼノンって女の子なん? だって男もんのタキシード着てたやん。髪もショートやん。俺ずーっと心の中で『タキシードの男』『デタラメ男』『胡散臭い男』って呼んでたんだけど?
あまりに唐突な話に、まじまじとゼノンの顔を見る。端正な顔立ちであることは知っている。だが、改めてよく観察すると、大人びているような……幼さがうかがえるような……可愛いような……カッコいいような……綺麗なような……。
あかん、こいつの顔『むっちゃ綺麗』ぐらいしか分からない。言うなれば、人類の、顔面偏差値高めの老若男女をごちゃまぜにしたような顔だ。まさか……本当に女の子……?(トゥンク……)
「まぁ超高次元の存在なんで、性別とかないんですけど」
ゼノンはそう言うと、固まったままの俺から離れていった。クソ、またおちょくられた!……と、その時。
『ちょっとアンタたちー! 何王都の前で騒いでんのよー!』
王都上空から、スピーカーを通したような声が響き渡った。
「あ、ルルカ! 私です、ノアです! 調査から帰ってきました! 門を空けていただけますか!?」
『え、嘘、ノア!? うわー、超久しぶりー! 元気してた? あ、待ってて、今門開けるね』
【ルルカ】と呼ばれたその声は、そう返すとプツン、という音を出して、途切れた。直後、重量ある摩擦音と共に、門の扉が、ゆっくりと、重々しく開いていった。
その門の先に、魔法使いのような容姿をした女の子が立っていた。ボブカットの髪を、片側だけ耳にかけ、その耳に紫色のピアスがつけられている。パッと見、中学生のような身長と顔つきをしていた。
そして、その女の子はこちらに手をあげて、はねながら言った。
「おかえり~! ノア!」
その途端、ノアがいきなり女の子の方へ駆け出し、抱きついた。
「う~ルルカぁ~! 私、すごく怖かったです~!」
「え、ちょ、どうしたのいきなり! まさかあいつらが何かしたの!?」
そう言って、キッ、と、こちらを睨み付けてきた。いや誤解だから。あとその「ちょっと男子~」みたいな目やめて? あれ陰キャにはほんと辛いんだから。
「ち、違いますルルカ! この人たちは……」
と、ノアがあわてて弁解を試みる。が、次の瞬間、ルルカの表情が険しいものに変貌した。明らかに敵意マシマシで、俺のことを見ている。そして、俺から目線を外さないまま、ゆっくりと手をあげ、指を差すと、言い放った。
「あんた、転生者でしょ。悪いけど、この王都に転生者が入ることはできないわ」
そして、そこで一呼吸おき。
「私以外はね」
目の前の転生者は、そう言った。




