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コンダクター

顔がひどく火照るのを感じる。ゼノンがにやにやしながらこちらを見続けていることに、ふつふつと、怒りと、こっ恥ずかしさが込み上げてきた。やめろ、そんな目で俺を見るな。


「確かに俺も最初は「おぅふ……」ってなったよ! でもこの異世界にはそういうネーミングの武器や魔法が蔓延してるからまあそういうもんやろ……って感じでようやく慣れてきたところだったのに! 言っとくけど断じて俺がつけた名前じゃないからな? 本当に最初から直感で分かったんだよ! なんでか知らんけど頭の中にそう浮かんできたの!」


「お、オタク君特有の早口! よっぽど恥ずかしかったんですねぇ」


「ああああああああああああああああ!!!」


と、俺とゼノンがあーだこーだ言ってる中、突如、ぐちゃり、ぐちゃりと、気味の悪い音が、肉塊の方から聞こえた。


「ノア、ゼノン……。今の、聞こえたか?」


「はい」


「ええ、聞こえますねぇ」


ごくり、と唾を飲みながら、視線を前方へと向ける。すると、散らばった肉片の中心に、人影らしきものがうごめいているのが視認できた。俺は、剣波を凌いだ人間がいることに、ただならぬ不信感を抱きながら、そのうごめくものを注視する。


「あーあ……俺の駒たちが……。こりゃあひどいね。《霧隠れの加護》がなければ俺もこうなってたかも」


肉片に囲まれたその人間は、ぶつくさと悪態をつくと、アンデッドの死骸を踏み潰しながら、こちらに歩いてきた。再び、森に不快な音が木霊する。


ぐちゃり。


ぐちゃり。


ぐちゃり。


胸元に手をやり、怯えた表情のノアを後ろに匿うと、俺は再び剣を抜いた。ただならぬ空気が、目の前の人間から溢れているのが、ピリピリと伝わってくる。剣を握る手から汗が吹き出てくるのを感じながら、俺は、力強く、エクスカリバーを握り直した。


「君がその剣で、俺の駒をダメにしちゃったのか~……。ダメだよ、人のもの勝手に壊しちゃあ」


「お前、転生者だな?」


口角を上げながら、ふらふらと歩み寄ってくる人間の台詞を無視し、問いかける。ガリガリに痩せ細った容姿に、黒縁のメガネ。そして、この世界からずれた系統の顔。それらの要素は、奴が、向こうの世界からきた人間だと判断するには十分だった。ご名答、と一言添えながら、拍手をする様子を見て、俺の体が、一層強張っていく。


「《コンダクター》って言うんだ。どんなモンスターも操れるし、召喚だってできる。ま、酷使し過ぎてみーんなアンデッド化しちゃうのが悩みだけど」


そう言って、不敵な笑みを浮かべる。その後、奴がさらに放った一言に、俺は戦慄した。


「あ、ちなみに俺に攻撃は当たらないよ? 全ての攻撃が当たらない加護……《霧隠れの加護》持ちだからね。どうやっても、君の剣が俺に届くことは、永遠にない」


これぞ、どうあがいても絶望。このまま、奴が召喚し続けるモンスターを、捌き続けなければならないのか。確かにしばらくはそれで大丈夫だろう。だが、疲弊しきった状態では、最悪、剣を持ち続けることも、怪しくなってくる。手元から剣が離れてしまえば、《獅子王の加護》による剣捌きが、発動しない。このままでは時間の問題だと悟った。


「君ら王都に行くつもりなんでしょ? その前にさ、俺のしもべになってよ。死体がアンデッド化すりゃあ、こっちのもんさ。転生者のアンデッドは、さぞかし使えるだろうねぇ。大丈夫、俺が丁寧に使ってや」





「じぇのさいど☆れーざー! ぴぃ~!☆」





背後から、俺の頬数ミリの位置を、細い一閃が駆け抜けた。耳に残る、あの空気を焼き切る音。忘れもしない、残酷なまでに全てを焼き尽くす、あの光。その、悪魔のような光線が、前方にいた転生者の脇腹を貫いた。


けたたましい爆音と共に、転生者の背後が爆散した。一度分裂したアンデッドの肉片が、さらに細かい状態になって、周辺の森へと、散り散りに、溶け込んでいく。俺は、ワナワナと震えながら、光の出所へと、視線を移すと……。


「じぇのさ……ぶふ、ダメだ、もう言えない……っ。あれも中々なネーミングです、よね、ふひっ」


ゼノンが片手で口元を押さえながら、もう片方の手を、前方に向けていた。その手から、わずかに光が漏れているのが、見てとれる。やがてそれは、何事もなかったかのように、静かに消えた。


「いや……お前……何してんの…………?」


「え? コータ君が、せっかく活躍した数少ない場面を、あの人が台無しにしようとしてたので。『興ざめだわ、お前』みたいな?」


いつか、そのレーザーを使っていた転生者が放った台詞を、ゼノンは、面白可笑しそうに真似る。そのすぐ横で、ノアが「ぅぁ……ぁ……」と、言葉にならない悲鳴を絞り出しながら、頭を抱えて震えているのが見えた。うわぁノアさん超かわいそう。


「いや、それはありがとうな!? でもいきなりそういうことするとトラウマ呼び起こしちゃう子も出てくるからやめてね!? なんなら正直俺もトラウマだからその技は!」


もう一発放とうとしているゼノンの片手を全力で阻止しながら、俺は注意した。なんでこいつは、人が使っていた技を平然と繰り出しているのだろう。ましてやチート能力だぞ? 神から授かった能力だぞ? そう軽々と再現しちゃダメだろそーいうのは。◯ービィか何かなの?


ゼノンが「もう一発、もう一発だけだから!」と言い続けるのを、俺が断固として拒絶する。すると、ゼノンは諦めがついたのか、溜め息をつきながら、切り株から立ちあがると、上半身と下半身が分裂し、息も絶え絶えになっている《コンダクター》へと近づいた。


「な、んで……当た……らない、はず……な、……のに……」


虫の息で、転生者が、うわ言のように疑問を繰り返す。敵でありながら、なんだかかわいそうに見えてきた。


「へぇ、攻撃が当たらない? それはすごいですね!」


「こん、なの……むちゃ……くちゃ……すぎ、る……」


そのまま、転生者は絶命した。


…………うわぁ……。


「あ、死にましたね。では行きましょうか」


何事もなかったかのように、こっちへ戻ってくるゼノン。俺は、いまだ「ごめんなさい……ごめんなさい……」と、震えるノアの背中を擦りながら、励ましの言葉を繰り返していた。


「大丈夫、もうみんな復活したでしょ? 大丈夫、大丈夫だから」


「ぅ……うん、ひぐっ……よかったっ……えぐっ……ほんどぉに、よがっだ……えぐっ」


完全に幼稚化してしまったノアに、ひどく同情心を煽られる。そのトラウマスイッチを起動させた元凶は、またいきなりカボチャの馬車を出すと、


「さあ、王都まであと少しです! みんな元気よく行きましょう!」


と、うきうきで一番乗りを果たした。こいつ王都着いたら一回蹴っ飛ばそうかな。


と、思いつつも、俺は、再びゼノンに助けられてたことに、心の中で、小さく感謝していた。あの場を切り抜けられたかどうかは、実際のところ、怪しかった。こいつは相変わらずデタラメな強さだし、胡散臭い男だが……それでも、ものすごく助かっている。その事実だけは変わらないことを、しっかり念頭に入れた。


落ち着いてきたノアの手をひいて、馬車に乗る。しばらくして、白馬の、生命に溢れた鳴き声と共に、カボチャの馬車は出発した。一定のリズムで、車内が揺れ始める中、ゼノンが、再びハッピー◯ーンを取り出し、ノアに渡す。ノアは目を赤く腫らしながらも、それを大事そうに両手で持ち、少しずつ、少しずつ、頬張り始めた。なんと、微笑ましい……。……そういやこの馬車、誰が手綱を握ってるんだろう。そう思い、馬車の前方を、車内の窓から覗く。……あ、『ゼノンJr.』だ。

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