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碓氷 幸太

そして俺は次の瞬間、エクスカリバーを引き抜いていた。


馬車の前方に、身体中が腐敗した、大きな生き物がいる。横に立ちそびえる木々を遥かに凌ぐ大きさ……ゆうに十メートルは越えている。しかし、それはあくまで胴体だけの話であり、首部分まで含めたら、全長はとんでもない数値となるだろう。


【ドラゴンゾンビ】が、俺たちの遥か前方に立ちはだかっていた。どす黒くなった血のような眼をこちらに向け、口から紫色の吐息を漏らしている。明らかに敵意を向けた状態だ。身体中の鱗、皮膚、カビや苔を、ボトボトとこぼしながら、ひどい腐敗臭とともに、こちらに迫ってきている。


突然、俺の後ろからフィン、と音がなった。振り替えると、馬車が消えていた。代わりに、いまだ口をモゴモゴさせている二人の人間が残っている。


「馬車は邪魔でしょうから消しときましたよ」


ゼノンはそう言い、その辺の切り株に腰かけた。…………え、お前戦わないの?


「コータ! あれを見てください!」


ノアが焦るように、ドラゴンゾンビの方を指差す。慌てて俺が視線を前方に戻すと、ノアが何について警告しているのかが、手に取るように分かる光景が、目の前に広がっていた。


ドラゴンゾンビと共に、大量の動物型アンデッドが、こちらに迫ってきている。数にして、百匹以上はいるのが、見てとれた。アンデッド型は、確実に仕留めないと、すぐに復活する。また、攻撃を一度でも食らえば毒&呪いに侵されるので、なんとか倒したとしても、そのまま死んでしまう恐れがある。


とはいえ、王都へ向かうには、この道を進むしかない。あのドラゴンゾンビ率いる、大量のアンデッド集団を倒さないと、目的地にはたどり着けないのだ。


「コータ……」


ノアが心配そうに俺を見つめる。俺は「大丈夫」とだけノアに伝えると、目の前の敵に向き合い、エクスカリバーを構えた。


こりゃ確かに絶望的だ。


一度も食らわずに、一撃で仕留める。


しかも、ドラゴンゾンビ率いる、あの大量のアンデッドを相手に、だ。


それができなければ死ぬ。こんなの、無理ゲーも甚だしい。


……俺が、チート転生者じゃなければの話だがな。


「…………《剣波(けんは)》」


そう言って、俺はエクスカリバーを横になぎ払った。


次の瞬間、凄まじい風切り音と共に、巨大な衝撃波が、俺の剣から放たれた。それは地面を抉りながら一直線にアンデッドの群れへと向かい、そして。


肉がぶちぶちと引き裂かれる音が、森中に響き渡った。多種多様の動物の胴体が、切り飛ばされ、空中で入り交じる。そしてそれは、ドラゴンゾンビも例外ではなく、その大きな図体を真っ二つにされると、苦痛に歪んだ表情のまま、上半身を、遥か上空に放り出した。そして、しばらくの空中遊泳を楽しんだそれは、そのまま……潰れたトマトのように、地面に叩きつけられた。


それに準じるように、バラバラになった死骸が、次々と地面に叩きつけられていく。そんな、グロ耐性ないやつが見たら発狂しそうな、“肉塊の雨”を尻目に、俺は、ふぅ、と小さく息をついた。


約束された勝利の剣……。当たれば勝つ。例えそれがアンデッドだろうが、魔王だとしても。そんな、チート中のチート武器、《聖剣エクスカリバー》を背中にしまった俺は、


「じゃ、行こうか」


事も無げに、ノアとゼノンにそう呼び掛けた。


「コータ……今のは…………?」


震え声で訊ねるノア。「いやぁ、まぁ、ね?」と適当に誤魔化す俺。そうなのだ。俺はこう見えて、れっきとした『チート転生者』。それこそ、ギルドで高額金がかけられるようなモンスターさえ、俺の敵ではない。


「ひゅー! コータ君かっこいい! やればできるじゃないですか!」


珍しく、ゼノンが手を叩いて、俺を称賛していた。へぇ、素直に人を褒めることもあるんだな……。そういやノアのことも、村で褒めちぎってたっけ……と、以外な奴からの誉め言葉に、つい照れて頬を掻く。


「その、なんですか? せーけん えくすかりばー(笑)? ぶっ……や、約束、された、勝利の、剣っ、…ぷくくっ……」


あれ、なんかあいつ人のこと指差して爆笑してるぞ?


「いや、別に中二くさいなぁとか思ってないですよ? ただちょっと……ね……ひひっ……思いきった名前つけたよね……ぶふっ……みたいな……」


「おいやめろ! これ最初からついてた武器だから! 俺がつけたんじゃないから!」

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