次の一手
「言ったでしょう? 私は『面白そう』だったから来た、と。私にとって、この世界などゲームに過ぎない。だから気まぐれで茶々をいれますし、飽きたらやめます。世界の命運? そんなもん知りませんよ」
あはははは、と、高らかに笑い飛ばすゼノン。こいつ、この絶望世界を『ゲーム』扱いしやがった。結局、奴は、ただの気まぐれで村を救っただけ。もっと言えば、進行上のイベントをこなしただけーーーー多分、その程度の認識なのだろう。
まだ高笑いを続けているゼノンの横で、ノアが縮こまりながらも、「あの……」と、手を上げた。その動作に、笑い声がピタリと止み、機械的にゼノンが座る。
「失礼。どうぞ、ノアさん」
「あ、えっと、はい。魔王討伐については、よく分からないのですが……。実は私、向かいたいところがありまして」
ノアが申し訳なさそうに、俺とゼノンを交互に見る。「なんですか? 紅茶の飲み過ぎでトイレに行きたくなりま」まで喋ったゼノンの頭をひっぱたいた俺は、続けてと、手で合図した。
「その……『王都』に、なんですけど」
「『嘔吐』!? ほら見なさいコータ君。やはり彼女はトイレに」
「そういう使い古されたネタいいから。それで、なんで王都に行きたいんだ?」
ノアは、はい、と一呼吸置くと、続けた。
「私は、もともと、王都周辺の調査に駆り出された、調査隊の一人なのです。あの村を襲ったような、明らかに、飛び抜けた能力を持つ者たちの存在……。その噂は、王都にも広がっていました。最初はみんな、半信半疑でした。でも、ある日、王都にもその存在はやってきたのです」
「転生者が王都に……?」
ノアがこくん、と頷く。ゼノンはあまり話を聞く気がないのか、分身して、もう一人の自分とチェスをうっていた。なに分身してんのお前?
そんなゼノンにはお構い無しに(ノアも馴れてきたな)、ノアは話を続ける。
「『テンセイシャ』……という言うのはよく分かりませんが、王都に訪れたその人物は、コータと同じく「遠くの国からきた」と、言ってました。噂のこともあり、すぐにその者に能力検査を勧めてみたところ……想像を絶するような数値が測定されました。このことによって、王都での噂は真実となったのです」
転生者ならそうだろう。実際、俺もステータス上はレベル9999だし……。とはいえ、敵も似たようなステータスでは意味がないのだが。ただ、気掛かりなことが一つある。その転生者は敵だったのか、味方だったのかだ。
「その転生者を迎え入れて大丈夫だったのか?」
「はい。その者は、見たところ『魔術師』と思われる風貌でした。なんでも、「遠くの国からこの王都に来る途中、自分と同等の力を持った者が襲いかかってきた」、と。それで、命からがらこの王都にたどり着き、事なきを得た、とのことでした」
「ノア、それはいつ頃の話だ?」
「えっと、確か一年ほど前、だったかと」
一年前……。俺がこの世界に転生したのと同じ時期だ。ってことは、一年前辺りから、この世界に、急激に転生者が現れ始めたのだろうか。何より、襲いかかってくる転生者のことも気になる。一年前に転生者が急増したとして、なぜそのほとんどが魔王の支配下にいるのだろう。
そもそも、チート能力を得た時点で、無双など簡単なことである。この世界の魔王がどれほど強いのかは知らないが、それでも、チート転生者ならば、ましてや何人もいるならそのうちの誰かが……。
ん? 待てよ?
転生者が一年前からいて、いつでも無双できる状態にあるのに……なぜ、魔王を誰も討伐していないのだろう。確かに、悪意ある転生者が多いことは知っている。だが、そもそも悪意ある転生者たちが、魔王を討ち取って、自分がその座に着くことだって可能なはずなのだ。
そんな事を考えていると、ある一つの可能性が浮かんだ。
まさか、魔王は。
すでに、討伐されている……?
実際のところは分からないが、もしかしたら、そういう可能性もあるのかもしれない。俺は、ひとまず考えを引っ込めると、ノアの話に再び集中することにした。
「それで、ノアは他の転生者を探すために駆り出された、と」
「はい。私には《女神の加護》がついています。これは『私への攻撃が全て無効となる』加護。どんな攻撃も通らない私は、転生者を探すのにはうってつけの存在でした」
《女神の加護》チートすぎでは? もしかしてノアさんも転生者だったりするんですか? なんて冗談は置いといて。
「その調査の、最後にたどり着いたのがあの村だったのか」
「そうです。調査からだいぶ月日が経っていましたが、少なくとも王都周辺には、そのような存在はいませんでした。ゆえに、こうして辺境の村へと足を運んでみたら……こんなことに」
なるほど……。王都周辺に、転生者はいない。普通、魔王側に転生者がついているのだとしたら、もうとっくに王都は陥落済みだろう。だがそのような事態にはなっておらず、ましてや近づいてすらいない。敵の目的は人類に勝利することではないのか……?




