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奇跡の側にはいつだって胡散臭い男

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーー………ちゃんーーー


「お兄ちゃんっ!」


はっと、回想から戻ると、いつの間にか、目の前にポーラがいた。彼女は、にひっと、笑うと、ぽかんとしたままの俺の口に、クッキーを押し込んだ。


「お兄ちゃん、今すごく怖い顔してたよ? 甘いもの食べて、ニコニコして!」


俺は、口に広がるバターの味を堪能しながら、目の前で元気に笑う少女の頭を撫でた。俺の表情が和らいだことに安堵したのか、目を閉じて、静かにそれを受け入れている。この子だって、生き返ったとはいえ、ものすごく怖い思いをしたことに変わりはない。にもかかわらず、こうして他人の、ましてや自身より年上の相手を、心配してくれているのだ。


「ポーラ。お兄さんたちの邪魔しちゃダメでしょ」


口元に笑みを浮かべながら、ソフィアが入ってきた。それに合わせ、ポーラは「またねー!」と告げると、姉の方へと向かい、手を繋いだ。ソフィアは俺たちに小さく会釈をすると、宿屋を後にした。俺はその光景をみながら、彼女たちが本当に生き返ったことに、じんわりと感銘を受けるのと同時に、もう二度と、あの子たちから笑顔を奪わせはしないと誓った。


「……ゼノンも、ありがとうな」


俺は、窓から見える、姉妹の後ろ姿を眺めながら、この奇跡を起こしてくれた張本人に、感謝の意を述べた。


「お前が俺たちを救済してくれなかったら、こうしてあの子たちの笑顔を再び見ることもできなかった。ほんと、お前は、俺たちの救世主だよ」


少し照れ臭くなりながらも、しっかりと伝えた。心の底からそう思ったからだ。胡散臭い男だが、みんなを救ってくれたことに違いはない。そんな、デタラメながらも、みんなの笑顔を取り戻した救世主様はというと。


「は? 私が救世主? なに言ってるんですか? そんなわけないじゃないですか」


バカも休み休み言え、とばかりに怪訝そうな目で俺を見ていた。


「私はこの世界に『ちょっかい』を出しにきただけですよ? 要は単なる暇潰し。誰を救うだとか、何を守るとかの話ではありません。ただ、『面白そう』だからやってきただけです」


そう言って、ゼノンはテーブルにあった紅茶を啜った。俺とノアが絶句しているところに、「飲まないのですか? 紅茶が冷めてしまいますよ」と、マイペースにクッキーを頬張る、デタラメ男。…………うん、やっぱり胡散臭い奴だ。


この男は『信頼』できる強さだが、『信用』できない奴であることを、念頭に置くことにした。


「それで? コータ君はこのあと、どうするおつもりなんですか?」


口に物を詰めながら、喋り出すゼノン。こいつ、タキシードでパリッとキメてる割には全く品がないな……。そう思いつつも、確かに決めあぐねていた内容に、腕を組始めた。


「とりあえず魔王討伐には行くつもりだけど……。正直お前、やろうと思えば今から魔王の首を取ることも可能なんだろ?」


ゼノンは、頬張ったクッキーをしばらくモゴモゴさせながら、ごくん、と飲み込むと、「まぁ」と続けた。


「そりゃできますけど……。例えばコータ君、君が新しいゲームを買いました。ああ、早くプレイしたくて仕方がない! 車の後部座席で説明書を読みながら、妄想を膨らませます。早く家に着かないかな。名前は何にしようかな!?」


おいなんか突然始まったぞ。ほら、ノアが「げぇむ……?」とか言いながら、眉間にシワを寄せてクッキー食べてるんだから手短にしろ。


「そして家に着きます! すごい速さで自室に入り、中々空かないパッケージにてこずらせます! あ、空いた! さぁ、ゲームをセットして……電源を入れました。はい、待ちに待ったオープニング画面です! コータ君はボタンを押しました!」


「すると……」と、わざとらしく目を見開くゼノン。今こいつすげぇぶん殴りたい顔してんな。


「選択肢が出てきたのです。えーと、内容は……? 『魔王を討伐したことにして、全クリ状態にしますか?』【はい】【いいえ】……。こんなバカらしい話がありますでしょうか。コータ君、君はこんなのが出てきても【はい】を押すんですか?」


「いや例え話なげぇよ! あと無論押さねぇわ! なんでワクワクしながら買ったゲームをワンプッシュでおじゃんにする必要があんだよ!」


「え、何かを押すだけで魔王が倒せるんですか……? 『げぇむ』、ってすごいんですね……。神器か何かですか?」


「いや、ノア。そういうんじゃなくてだな……」


すると、突如ゼノンがテーブルをバン、と叩きながら立ちあがり、


「そう、その通り。押す人なんていないでしょう。そんな面白みのかけらもないこと、自ら進んでやる奴がいるはずないじゃないですか」


そう言って、何度か見た狐のような笑みを浮かべた。

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